14:30-15:30 一般演題 |
@本院における肺炎球菌ワクチン普及後の侵襲性肺炎球菌感染症の検討 |
演者 山ア哲司 先生(市立ひらかた病院 小児科) |
【背景】2010年2月より5歳未満を対象とし、7価肺炎球菌ワクチン(PCV7)が任意接種、また2013年4月より定期接種となった。同時に、血液・髄液から検出された肺炎球菌感染症を侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)とし報告義務が課せられた。さらに同年11月から13価肺炎球菌ワクチン(PCV13)が定期接種となり現在に至る。
【目的】市立ひらかた病院におけるIPD症例を検討し、肺炎球菌ワクチン(PCV)普及後の問題点について明らかにする。
【対象・方法】2010年2月から2016年1月の期間、当院で診療し血液培養陽性によりIPDと診断した症例のワクチン接種歴、肺炎球菌血清型、薬剤感受性検査、臨床像を後方視的に検討した。
【結果】6年間に31例のIPDを経験した。この間に入院した総数の0.04%がIPDであった。年齢は1歳台が14例と最も多かった。PCV未接種者において血清型6Bが4例、血清型19Aが2例あった。PCV7を2回接種したにもかかわらず血清型6Bによる菌血症に至った症例が1例あった。非ワクチン株は15例で、10A(1例)、12F(1例)、15A(4例)、15B(2例)、22F(2例)、24B(1例)、24F(4例)だった。また、2013年4月以降発した19例のうち14例(74%)が非ワクチン株であった。薬剤耐性については、PSSP 13例(42%)、PISP 12例(39%)、PRSP 6例(19%)であった。重篤な合併は、膿胸1例、髄膜炎1例であった。
【結論】PCV導入後、31例のIPDを経験した。PCV接種により予防の可能性があった症例が19%あり、接種の重要性を改めて再認識する結果であった。一方、2013年以降、非ワクチン株による症例が74%に至った。今後の課題としてワクチンの接種率のさらなる向上と共に非ワクチン株への対策が望まれる。
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A乳幼児の尿路感染症診断における菌量基準の妥当性の検討 |
演者 加藤正吾 先生(中野こども病院、関西医科大学 小児科学講座) |
【背景と目的】尿路感染症(UTI)の診断における有意な細菌尿は、1950年代に”無菌的に採尿した尿培養で≧105CFU/ml”とされた(Trans Assoc Am Phys, 1956)。しかし、その後の検討でより少ない細菌量であってもUTIを否定できない可能性が指摘され、アメリカ小児科学会は、膀胱穿刺、カテーテル採尿で得た検体ともに≧5×104 CFU/mlをUTIの診断基準とした。一方で、各国の小児UTIのガイドラインにおける診断基準は、103 CFU/ml 以上から105 CFU/ml以上まで様々で一定の見解が得られていない。そこでカテーテル採尿で得た検体を用いた培養でのUTIの診断における細菌量を≧103 CFU/mlとすることの妥当性を検証することを目的に検討を行った。
【対象】2001〜2013年に演者らの施設に発熱性UTIの診断で入院した月齢36か月未満の乳幼児287例(月齢中央値4か月、男児206例)を対象とした。
【方法】入院時に全例カテーテル採尿で得た検体を用いた尿培養の結果で、A群(103CFU/ml)58例、B群(104 CFU/ml)55例、C群(≧105 CFU/ml)174例の3群分け、年齢、性差、体温、白血球数、最高CRP値、起炎菌種、およびVURの有無を後方視的に検討した。
【結果】3群間に、年齢、性差、体温、白血球数、最高CRP値に有意差は認めなかった。また、VURの合併率は、A群33%(V度以上の高度VUR26%、以下同様)、B群35%(20%)、C群35%(24%)であり、3群間で有意差は認めなかった。一方で、起炎菌種は、A群(E.coli 54%、E.feacalis 29%、その他17%、以下同様)、B群(80%、16%、4%)、C群(81%、8%、11%)であり、A群はC群と比し、有意に起炎菌に占めるE.coliの割合が低かった(P<0.0001)。
【結語】今回の検討で、103 CFU/ml の菌量であってもVURの合併率は同等であり、≧105CFU/ml を診断基準とした場合、高度VURを見逃してしまう。したがって、乳幼児においてカテーテル採尿で得た尿検体によるUTIの診断基準は、≧103 CFU/mlをカットオフ値とすべきであると思われた。
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BYersinia pseudotuberculosis感染により多彩な症状を呈した4小児例の検討 |
演者 駿田竹紫 先生(関西医科大学 小児科学講座) |
【背景と目的】Yersinia pseudotuberculosis(Y.p)感染は、消化器症状のみならず多彩な臨床症状を呈し、川崎病(KD)の診断基準を満たすものが12%、急性腎障害(AKI)を呈するものが10%存在するとされる。Y.p感染の4小児例を経験した。その特徴および対策を明らかにするために検討を行った。
【対象と方法】当科に入院したY.p感染の4例[年齢中央値8.5(範囲2〜14)歳、男児4例]の臨床像を後方視的に検討した。
【結果】検出されたY.pの血清型は、4b、5a、5bであった。全例、嘔吐、下痢、腹痛で発症し、そのうち1例で急性虫垂炎を疑われ虫垂切除術を施行した。検査所見でCRP(10.5〜26.8mg/dl)の上昇を認め、全例で抗菌薬が投与され、有熱期間は、4〜10日であった。また、KDの診断基準を満たした2例ではどちらも冠動脈病変を認め、γグロブリン大量療法を施行し冠動脈瘤を残さず軽快した。2例で乏尿を認めたため脱水の疑いで輸液を受けた。しかし、BUN、Crが上昇し、体重増加および低比重尿を呈し、尿中β2ミクログロブリンの上昇を認めたため、腎性AKIと診断した。いずれも透析は行わず、水分管理のみで軽快した。
【考察と結語】Y.p感染であってもKDの診断基準を満たす場合は冠動脈瘤を合併することもありKDに準じた治療を行ってもよいと思われた。また、Y.p感染は腎性AKIを呈するため、胃腸炎であるからと言って、安易に脱水と診断し輸液負荷を行うべきではないと思われた。抗菌薬投与に関しては、他の細菌性腸炎と同様に基本的にはSelf-limitedな経過をとるため適応はないと思われた。Y.p感染症の頻度は減少しているとされているが、水系感染以外にペットからの感染も報告されているため、消化器症状で発症しKD様症状、AKIを呈する場合には、Y.p感染を鑑別する必要がある。
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15:45-16:45 特別講演 |
小児科領域における感染症の問題点 |
演者 花木秀明 先生(北里大学 感染制御研究センター センター長) |
小児科領域の耐性菌として問題視されているのは、肺炎球菌、インフルエンザ菌とマイコプラズマである。肺炎球菌とインフルエンザ菌は形質転換によって口腔内連鎖球菌等の遺伝子を取り込む能力がある。取り込まれた遺伝子によって細胞壁合成酵素(PBPs)の遺伝子が部分的に置き換わり、β-ラクタム薬の結合能力が低下する事でβ-ラクタム薬耐性となる。この様な耐性菌に対してAMPCは32倍以上の抗菌力低下がおきており、治療薬としてのβ-ラクタム薬は慎重に選ぶ必要がある。
既に、肺炎球菌に対するマクロライドの効果は期待できない。マクロライドは23Sリボゾームに結合して抗菌力を発揮するが、結合部位のアデニンがメチル化(ermB)される事で結合能が低下し耐性化する。さらに、取り込まれたマクロライドを排出するポンプ(mefA)が亢進する事でも耐性化する。これら両者が組み合わさって高度耐性化がおきており、分離株の80%以上が耐性を獲得している。
キノロン耐性肺炎球菌は成人では数%の割合で確認されているが、小児科領域でキノロンは使用できなかったため、その耐性菌はほとんど検出されなかった。しかし、小児科領域でもTFLXが使用出来るようになったことから、今後の感受性動向には注意が必要である。インフルエンザ菌に対するキノロン薬の感受性は充分に維持している。
また、マイコプラズマに対するマクロライドの耐性化率は70-80%と高頻度であり、安易にマクロライドは使えない。その耐性機序は、マクロライドの結合部位である23S rRNAのdomain V遺伝子のアデニン(A)2063グアニン(G)に変異する事で結合能が低下して耐性化する。TFLXとMINOの抗菌力は維持されているが、MINOは8歳児以下には原則禁忌である。
感受性細胞集団の中で出現する耐性細胞は自然発生的に生じるので人為的に止めようがないが、この様な集団に抗菌薬を投与して感受性細胞を殺し、耐性細胞のみを選択する事で高度耐性菌を増やしている行為は人為的である。具体的には、同一系統の抗菌薬使用や少量長期使用の行為は、より耐性菌を増やす結果となる。耐性菌を増やさないために、抗菌薬の使い方には工夫が必要な時代になっている。
最後に、肺炎球菌ワクチンで肺炎球菌感染症が本当に減ったのか? 95種類ある血清型のわずか9種類(13種類)しか入っていないワクチンでは、他の血清型が増加(Serotype Replacement)する可能性はないのか? 肺炎球菌ワクチンを接種していれば肺炎球菌を原因菌から除外してもいいのか? 疑問が出てきます。
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