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2019年春の講演会のお知らせ  <2019.3更新>

 第28回講演会を、下記の要領にて開催いたします。
 特別講演といたしましては、「日本ではなぜ先天性風疹症候群をゼロにすることができないのか」という演題にて、平原史樹 先生(日本産婦人科医会副会長/“風疹ゼロ”プロジェクト実行委員長/横浜医療センター院長)にお話しいただきます。また一般演題の発表も、3題予定しております。どうかご期待ください。

 なお、本研究会の活動の更なる充実を図るため、誠に申し訳ございませんが、当日に参加費500円を徴収させていただきます。ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

  会員の方々には間もなく、講演会のご案内を郵送します。会員以外の方々も、どうか多数ご出席くださいますようお願いいたします。

 本講演会の担当世話人は、大阪市保健所の廣川秀徹先生と、大阪市立総合医療センターの天羽清子先生です。

共催:大阪小児感染症研究会・一般財団法人 阪大微生物病研究会


出欠は、次の2つのどれかでご返事ください。
a. 郵送するご案内に同封の「FAX出欠回答用紙」に記入の上、事務局あてFAXする。
b. 氏名と所属を明らかにして「kansen*ped.med.osaka-u.ac.jp」へ出欠を電子メールで知らせる。
(お願い:メールで連絡を送る際には、上記*を、@に変えてお送りください。)


<<講演会>>

日時:平成31年4月13日(土)14:10〜16:50

会場: 大阪大学中之島センター10F 佐治敬三メモリアルホール

〒530-0005 大阪市北区中之島4-3-53(Tel:06-6444-2100)
京阪電車 中之島線 中之島駅または渡辺橋駅下車徒歩5分
大阪市バス 53系統 船津橋ゆき 中之島4丁目下車すぐ

<<講演要旨>>

14:30〜15:30 一般演題
1;2012〜2014年に出生した先天性風疹症候群調査の現状から得られた知見
演者 金井瑞恵 先生(大阪市保健所 感染症対策課)

 風疹は2012〜2013年の流行以降、年間100〜300例であったが、2018年8月頃から再度増加し始め、2019年2月現在も、14,000例を超えた2013年を上回るペースで全国的に報告されている。大阪市でも、ワクチン接種歴の無いまたは不明の30〜50代の男性を中心に患者が増加しており、風疹の抗体検査やワクチン接種費用助成等を実施し、先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome; CRS)の発生を予防するため取り組んでいる。

  2012〜2013年の流行の影響で、全国で45例のCRSが報告された。厚生労働科学研究班および日本新生児成育医学会感染対策・予防接種推進室の連携により、これら45例の臨床情報や母親の背景情報について調査を行った。今回、国立感染症研究所FETPとして同調査に携わった内容を報告する。

  CRS 45例のうち6例が大阪府から届出られ、東京都に次いで多かった。診断方法(重複あり)は、風疹特異的IgM抗体の検出が42例(93%)、PCR法による病原体遺伝子の検出が37例(82%)、分離・同定による病原体の検出が7例(16%)で、43例(96%)が生後3か月までに診断された。診断時のCRSの3徴は、それぞれ難聴30例(67%)、先天性心疾患(主に動脈管開存症)26例(58%)、白内障7例(16%)で認められた。診断時3徴全て揃っていた症例は3例(7%)のみで、1徴のみの症例が約半数であった。3徴以外では血小板減少症が多かった(33例、73%)。また、調査時点で11例(24%)が死亡の転帰をとっていた。死亡例の多くは先天性心疾患があり、1例を除き生後6か月までに死亡した。妊娠前の母親の風疹含有ワクチン接種歴は、無しまたは不明が34例(76%)、1回が11例(24%)で、2回の接種歴があった母親はいなかった。

  CRSの発生予防のためには、妊娠前の2回の風疹含有ワクチン接種、もしくは十分な抗体価保有の確認の徹底が重要である。また、CRSの診断では、必ずしも3徴全てを認めないことを念頭に、風疹の流行状況や母親のワクチン接種歴等の情報から、鑑別することが重要である。

 

2;大阪府における2018年の風疹流行について
演者 上林大起 先生(大阪健康安全基盤研究所 微生物部)

【はじめに】日本国内では、2012年から2013年に大規模な風疹流行が発生して以降、風疹流行は確認されてこなかった。しかし、2018年9月以降、首都圏を中心に風疹患者が増加し、大阪府内においても2008年の全数届出開始以降では、2012・2013年に次いで3番目に大きな流行となった。本発表では、大阪府における2018年の風疹の疫学情報、遺伝子型解析の結果について報告する。

【方法】2018年に感染症発生動向調査(NESID)に風疹として届出された症例を対象として、年齢、性別、ワクチン接種歴を調査した。風疹ウイルスの検出、並びに、遺伝子型解析は、病原体検出マニュアル(国立感染症研究所)に準拠して実施した。系統樹解析は、E1遺伝子の型別領域(739塩基)の核酸配列を用いて最尤法により行った。

【結果】2018年は大阪府内で123例の風疹患者が報告された。最初の患者は、5月(第20週)に報告された。第42週から45週にかけて1週間に10例以上報告され、この期間がピークとなった。123例中、93例は男性、30例は女性であった。年齢中央値は、男性41歳(範囲:1-71)、女性33歳(範囲:17-65)であった。ワクチン接種歴は、不明(82例、66.7%)、0回(31例、25.2%)1回(10例、8.1%)であった。遺伝子型別を実施した風疹ウイルスの遺伝子型は、全て1Eであった。これらを系統樹解析に基づき細分類すると東アジア・東南アジア地域、並びに2018年に首都圏で検出された風疹ウイルスと単系統群を形成し近縁性が高かった。

【考察】2018年も過去の流行と同様に、風疹の予防接種を公的に受ける機会がなかった成人男性を中心として感染が拡大した。系統樹解析の結果から、東アジア・東南アジア地域から風疹ウイルスが持ちこまれ、感受性集団の間で感染が拡大したものと推察される。(2019年1月17日現在)

 

3;当院での先天性風疹症候群・先天性風疹感染症の2例
演者 岡本駿吾 先生(大阪市立総合医療センター 新生児科)

【緒言】妊婦が風疹に罹患した場合、児は先天性風疹感染症を罹患する可能性があり、感染が妊娠初期の場合には先天性風疹症候群を発症するリスクが高くなる。2013年をピークとした風疹の流行時に経験した2例を報告する。

【症例1】在胎39週0日、出生体重2610g、女児、経膣分娩で出生。母21歳、風疹ワクチン接種歴不明。妊娠初期に発疹が出現し、妊娠13週の風疹IgM陽性、羊水検査で風疹PCR陽性。出生後、臍帯血の風疹IgM陽性、児の血清で風疹PCR陽性であった。外表奇形・心奇形なし。眼底検査で網膜炎と多数の出血斑を認めた。自動聴性脳幹反応では両側要精検であった。頭部MRIは少量の硬膜下血腫を認めた以外明らかな異常はなかった。日齢8に退院した。風疹PCRは生後4ヶ月時、7ヶ月時と2度の陰性を確認した。眼病変は生後1ヶ月時には概ね消失し、生後4ヶ月で正常化した。生後3ヶ月時の聴性脳幹反応で難聴を認め、生後5ヶ月時に補聴器装用を開始した。3歳半時に人工内耳埋め込み術目的で他院へ紹介した。

【症例2】在胎41週5日、出生体重3290g、女児、経膣分娩で出生。母15歳、風疹ワクチン接種歴不明。妊娠に気づかず妊娠26週で当院産科初診。妊娠16〜18週に風疹罹患歴あるが詳細は不明。母の風疹HI抗体価512倍と高値であった。臍帯血の風疹IgM陽性で、児の血液・咽頭・尿は風疹PCR陰性であった。外表奇形・心奇形なし。眼科診察、自動聴性脳幹反応共に異常なし。頭部CT検査は異常所見認めず。日齢7に乳児院へ退院した。

【考察】症例1、2共に出生前の風疹感染を示す所見を認め、症例1は症候性で先天性風疹症候群と診断し、症例2は無症候性であったため先天性風疹感染症と診断した。2013年をピークとした風疹の流行に伴って2012−2014年の先天性風疹症候群の発生数は増加した。先天性風疹症候群発症例には風疹ワクチン接種歴のある妊婦が20%認められた。先天性風疹症候群を防ぐためには風疹を流行させないことが重要である。

 

15:45〜16:45 特別講演

○日本ではなぜ先天性風疹症候群をゼロにすることができないのか
演者 平原史樹 先生(日本産婦人科医会副会長/“風疹ゼロ”プロジェクト実行委員長/横浜医療センター院長)

  2018年夏からふたたびわが国で風疹の流行が再燃している。近くでは2004年に久しぶりの風疹大流行がみられて以降、『風疹流行→予防接種を!』のキャッチコピーを呪文のように何百回も唱え、叫んできた。流行が起こるとマスメディアも社会もみなあわてて「ワクチン、ワクチン」と大騒ぎとなりやがて「ワクチンがない、ない」の合唱となる。流行が止むとすっかり忘れ去られたような静けさが訪れ、期限切れのワクチンが廃棄される。だから普段から、地道に計画的にワクチン接種をとの声が専門家から上がる。

  2004年の風疹大流行では先天性風疹症候群(CRS)の児が10例確認され、2011~13年の大流行では45組の父母が「お子さんはCRSです」と宣告をうけ、児を抱きしめながら精いっぱい守り慈しみ、育んでいたがすでに11人のCRSのこどもたちは力尽きてこの世にいない。

  「原因もわかっている」、「防ぐ方法もわかっている」、「防ぐ道具(ワクチン)もある」、でもなんで医学も医療も先進国と自負するわが国でこのようなことがおこるのだろう。そのような中で声をさらに強めなくてはこのままだ、との危機感から“風疹ゼロ”プロジェクトを始めた。日本産婦人科医会、日本産科婦人科学会、日本周産期新生児学会、国立感染症研究所、日本小児科学会、日本小児科医会が共同で声、力を結集し社会に向けて風疹撲滅を図りたいとの一念からの行動である。

 産科医としてCRSの児の誕生に立ち会う。その一方でやむに已まれぬ不安から苦渋の決断として中絶を選ぶ場面にも立ち会うこととなる。大人同士が風疹をうつし合うこのコミュニティ、妊婦がなんでそのような危険地帯に引きずり込まれることになるのだろう。妊婦自身が風疹社会から緊急逃避して自分を守るしかないのだろうか。妊婦が蔓延する風疹から恐怖におののきながらひたすら逃げ回らなければならない私たちの社会とはいったいなんなのだろう。次世代の担い手を託され、わが子を大切に育んでいる妊婦さんがまもられない社会で女性が光り輝く我が国を作れるのだろうか?政治も社会も経済界もこぞって女性活躍推進法の成立を喜びさまざまな取り組みが進められている。

  おりしも39−56歳男性に対する抗体検査、接種が国を挙げて導入されようとしている。企業、事業体、社会が本気で取り組まなければCRSはゼロにできない。多くの疑問と課題を抱えながら風疹流行のなかで歩む“風疹ゼロ”プロジェクトである。



ご不明の点があれば当研究会事務局「kansen*ped.med.osaka-u.ac.jp」あてに電子メールでお問い合わせください。
(お願い:メールで連絡を送る際には、上記*を、@に変えてお送りください。)

大阪小児感染症研究会代表世話人 大薗恵一
                                    事務局担当世話人 塩見正司、山本威久

 
 
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