2024年秋の講演会のお知らせ <2024.10更新>
第36回講演会を、下記の要領にて開催いたします。
特別講演といたしまして「マスギャザリングと感染症のリスク」という演題にて、神谷 元 先生(三重大学大学院医学系研究科 公衆衛生・産業医学・実地疫学分野 教授)にご講演いただきます。また一般演題の発表も2題予定しております。
なお今回の講演会も、参加事前申込制のオンライン開催を予定しております。
会員の方々には、講演会のご案内を郵送します。会員以外の方々も、どうか多数ご出席くださいますようお願いいたします。
(本講演会は医療関係者を対象としております。)
本講演会の担当世話人は、井村 元気 先生(大阪市健康局保健所 感染症対策課)、奥野 英雄 先生(大阪市立総合医療センター 小児救急・感染症内科)です。
共催:大阪小児感染症研究会・一般財団法人 阪大微生物病研究会
参加申込方法
・参加希望の方は、申込メールを、事務局のアドレス【kansen*ped.med.osaka-u.ac.jp(*を@に変えて)】宛てにお送りください。
【記載事項】
・メール件名:大阪小児感染症研究会 講演会(36)申込
①お名前
②ご施設・ご所属
③連絡先(電話番号と、メールアドレス)
・その後1週間以内をめどに、zoom視聴のための登録用URL情報を、事務局より返信メールいたします。
・その返信メールに記載されておりますURLにアクセスいただき、登録を完了されましたら、登録者専用の視聴用URLがzoomより発行されます。講演会当日は、そのURLにアクセスしてご視聴ください。
(本講演会は医療関係者を対象としております。知り得たURL情報は他の方に転送されないようご留意ください。)
・申込メール締切【11/15(金)】の期限厳守にご協力のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
<<講演会>>
日時:令和6(2024)年11月21日(木)19:00〜21:00 |
方法:ライブウェブ配信(zoomウェビナー) |
<<講演要旨>>
■19:15-19:55 一般演題 |
①香港から旅行中に日本国内で呼吸不全を呈した、ムコイド型肺炎球菌による重症肺炎の一例 |
演者 堤 英世(大阪市立総合医療センター 小児救急・感染症内科/神戸市立医療センター中央市民病院 小児科) |
【はじめに】
血清型3型肺炎球菌(Pn3)は、小児結合型肺炎球菌ワクチン(PCV)導入後も、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の原因となり、世界的にも問題となっている。ムコイド型は特に重症度が高く、急激に進行し、致死的な呼吸不全を引き起こす。
【症例】
香港在住の9歳女児で1歳までにPCV13は4回の接種歴があった。来日前のX-6日から発熱、咳嗽を認めていた。X-4日に香港で受診し、インフルエンザ、COVID-19迅速検査実施するも陰性であり、その後も発熱持続したが、両親と共に観光目的でX-1日来日した。来日後、咳嗽悪化し、経口摂取不良のためX日に前医受診した。顔色不良、多呼吸、酸素化低下、胸部Xpで右肺野全体に透過性低下を認め、当院搬送となった。当院到着後、急性呼吸不全として挿管し、人工呼吸管理を開始した。胸部CTでは両肺野に浸潤影とともにすりガラス影が散在しており、両側大葉性肺炎と診断し、抗菌薬投与を開始した。人工呼吸管理開始後も酸素化を維持できず、同日体外式膜型人工肺(ECMO)を導入した。その後、肺野透過性は改善見られず、X+10日に撮像した胸部CTでは両側広範囲に嚢胞を多数伴う壊死性変化を認め、壊死性肺炎と考えた。ECMO離脱は困難であり、日本国内では急性期の肺感染に対する肺移植適応はないことから、両親は帰国し香港での治療継続を希望された。X+22日、国際搬送チーム(International SOS)によって、ECMO管理下のもとHong Kong Children’s Hospitalへ搬送された。その後、X+50日にECMOから離脱出来たとの報告があった。なお、入院時の血液培養、痰培養からはムコイド型Pn3が同定された。
【結語】
PCV13導入後も、Pn3の制御は困難であり、ムコイド型Pn3はたった数日で急激に症状が進行する可能性がある。医療機関受診から帰国を選択する猶予もなくECMO導入が必要となる症例もあるが、ECMO管理下でも患者の状態によっては海外への搬送も可能であり、自国での治療も一つの選択肢であると考えられた。
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②大阪市の結核発生動向と来日した祖母より感染・発病した乳児肺結核事例 |
演者 井村 元気(大阪市保健所 感染症対策課) |
【はじめに】
2023年の全国の結核罹患率(人口10万対)は8.1で、2021年以降、結核低まん延国の水準とされる10以下を継続している。しかし、大阪市は同年で18.3と全国の2.3倍高く、長らく都道府県・政令市でワースト1の状況にある。小児結核に限っては、日本は世界的に罹患率の低い国と評価されているものの、大阪市では、外国にルーツをもつ乳児の発病事例が続いており、今回はその一例を報告する。
【症例】
症例は、診断時、生後76日の女児。両親とも中国から9年前に来日。大阪市内A病院で、在胎40週、3624gで出生。分娩経過は良好で、生後Day5に退院。Day12頃から軽度の咳、鼻汁を認めていたが、A病院での2週間健診、1か月健診では特記所見なく、その後も外来で経過観察されていた。Day67に多呼吸、啼泣時の陥没呼吸が出現し、胸部X線検査を実施。症状の改善がないため、Day76に胸部造影CT検査を実施。両肺に空洞を伴う浸潤影を認め、胃液の抗酸菌塗抹3+、TRC法陽性より、肺結核・肺門縦隔リンパ節結核と診断された。
本児の診断を受け、同居家族へ接触者健診が実施され、両親、祖母の3人が肺結核と診断された。特に、祖母は養育支援のため出生9日前に来日したが、喀痰の抗酸菌塗抹2+であった。来日4か月前から呼吸器症状を認め、のちにVNTR法による遺伝子型別の一致も判明したことから、祖母が感染源と考えられた。
また本児の感染性期間内に通院していたA病院に対し、感染管理部門と連携しながら、速やかに疫学調査を行い、集団接触者健診が実施された。外来等で接触のあった職員12名、およびBCG未接種児を含む24名の計36名に対してIGRA検査、またはツベルクリン反応検査を実施し、全員陰性であった。
【結語】
小児の場合、同居や濃厚接触の家族が感染源であることが多い。特に結核高まん延国をルーツにもつ小児は、養育者の背景や健康状態に注意し、感染源となりうる成人の結核を早期発見・早期治療することが重要である。
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■19:55-20:55 特別講演 |
マスギャザリングと感染症のリスク |
演者 神谷 元(三重大学大学院医学系研究科公衆衛生・産業医学・実地疫学分野 教授) |
日本人の海外渡航者数ならびに海外からの流入人口(インバウンド)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がパンデミックを起こすまでは毎年過去最高を更新し、渡航者がきっかけで地域へ感染症が持ち込まれ、アウトブレイク事例がしばしば発生した。交通の便が発達した今日では、病原体の伝搬速度は増し、地球の裏側で発生した感染症が、24時間以内に日本国内で発生しても不思議ではない。加えて、交通手段のスピード化は、患者が潜伏期間内、つまり症状を呈していない時期での入国を可能にする。さらに、COVID-19への対応のために世界中の行動変容が、Post COVID-19の感染症の疫学に大きく影響を及ぼしている。このような状況に加え、世界的なCOVID-19対応緩和や円安によるインバウンドの増加は、人の往来の増加は病原体が伝播する機会を増やし、感染拡大が発生するリスクを増加させる。このような状況下において開催される国際的なマスギャザリング(一定期間、制限された地域において、同一目的で集合した多人数の集団)は、通常の感染症対策では対応しきれない可能性も考慮しなくてはならない。
海外から持ち込まれる感染症には、日本国内に存在しない、あるいは希な感染症が持ち込まれる場合、国内ですでに存在する感染症でも耐性菌が海外から持ち込まれる場合、日本人観光客が海外で感染し国内で発症する場合など、様々なパターンが想定されるが、国際的マスギャザリング、特に、開催期間が長く、関係者がかなり長期間国内の同一地域に滞在する人が増え、かつ世界中から参加者が集うことも考慮すると、国内で流行していない感染症が持ち込まれ、感染伝播、集団発生へと進展する恐れがある。
Post COVID-19の今、国内で開催されるマスギャザリングにおける感染症対策について、皆様と一緒に考えたい。
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ご不明の点があれば当研究会事務局「kansen*ped.med.osaka-u.ac.jp」あてに電子メールでお問い合わせください。
(お願い:メールで連絡を送る際には、上記*を、@に変えてお送りください。) |
大阪小児感染症研究会代表世話人 北畠康司
事務局担当世話人 外川正生、山本威久