日本人の2型糖尿病は欧米人と異なり「非肥満のインスリン分泌不全」を特徴とする。日本人の2型糖尿病の遺伝素因を同定するために、単一遺伝子異常の若年糖尿病MODY
(maturity-onset diabetes of the young) をモデル疾患として解析した。MODY2はグルコキナーゼ異常により惹起され、膵β細胞のグルコースに対するインスリン分泌閾値が上昇することによって耐糖能異常を示す。また、胎生期のインスリン低分泌により、罹患児の出生児体重は正常に比して有意に低いことが示されている。MODY3は転写因子HNF
(hepatocyte nuclear factor)-1αの異常により惹起され、日本人MODYにおいて最も頻度が高い。罹患例では重度のインスリン分泌不全が多いことから、インスリン依存型糖尿病と不適切に診断されることがある。他方軽症例も多く、同一家系内でも重症度が多様であることから、何らかの因子が病態を修飾すると推定される。新規MODY遺伝子と修飾因子を探索する過程で、HNF-4α(MODY1蛋白)とBeta2/NeuroD1(MODY6蛋白)を抑制するオーファン受容体SHP
(small heterodimer partner) がMODYの病態を修飾する肥満因子であることを見い出した。各MODY
家系においてSHP変異を有する者だけが肥満、インスリン抵抗性、出生児過体重を呈し、連鎖解析の結果、SHP変異とMODY因子は独立した遺伝素因であることが判明した。SHP異常型肥満はレプチンー中枢経路の異常による肥満症に比べ軽く、日本人に通常認められる程度のものであった。変異蛋白の機能解析の結果、SHP変異によりHNF-4αに対する抑制能が低下することが明らかとなった。すなわち、HNFカスケード機能が低下すればインスリン分泌不全を、逆に亢進すればインスリン過分泌を介して出生児過体重と肥満を生じるという図式が描かれる。MODY2の出生児低体重とは鏡像関係になる。変異スクリーニングの過程で、SHP変異を有するMODY3症例を1例見いだすことができた。本症例では、「非肥満インスリン分泌不全」というMODY3の病態がSHP変異により修飾され、「肥満インスリン抵抗性」に変化した考えられる。以上より、糖尿病と肥満の発症機構および相互関連を理解するためには、HNFカスケードの参加分子を包括的に解析することが有効である。