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第8回セミナー報告

大阪小児先進医療研究会の第8回セミナーが平成16年1月27日(火)に銀杏会館大会議室で行われました。

セミナーの模様(講演者:鍋島 陽一先生)

 

 演 題

 

Klothoの分子機能と生体恒常性の維持
【講師】
鍋島 陽一先生 (京都大学大学院医学系研究科 腫瘍生物学教授)

 

 セミナー要旨

 
 鍋島教授のグループはNa+/H+ exchangerの解析のためにトランスジェニックマウスを作製する過程で、短命な挿入変異マウスを得、その解析からklothoと命名された新規遺伝子を同定した。これは、運命の糸をつむぐ女神の名に因んで命名されたものである。ホモのklothoの変異マウス(kl/kl)においては、短命、発育不全、運動失調、皮膚の萎縮、肺気腫、徐脈、突然死などの他に、骨密度の低下、メンケベルグ型動脈硬化などカルシウム(Ca)代謝と関わりのある表現型が認められた。このような表現型はklotho遺伝子の約5kbp上流への挿入変異により遺伝子発現が抑制されて生じる。このkl/kl変異マウスと同様の特徴はklothoのnull mutation(kl -/- )でも得られ、かつklothoのcDNAの導入によって特徴が消失した。そのため、klothoがkl/klの表現型の責任遺伝子であることが示された。このklotho遺伝子は、β-klothoの同定により現在はα-klothoと呼ばれている。
KlothoはTypeT-β-glycosidase familyの一員であり、その発現部位は腎臓の遠位尿細管、脳の脈絡叢、副甲状腺などである。α-klotho遺伝子がコードしているタンパク質はN端にシグナル配列を有するT型膜タンパクであるが、分泌型のものも存在する。kl/klマウスでは血清Ca及びリンの上昇が認められた。このことより、klothoタンパクはCa制御において何らかの機能を持っているものと考えられる。実際に、Ca制御に関与するECaCやCalbindinD28Kが発現する遠位尿細管細胞でklothoタンパクが発現しており、また、細胞表面で膜蛋白質と複合体を形成している。このα-klotho複合体は遠位尿細管における電解質輸送の制御に関与しており、Ca恒常性維持に関わっていることが示唆されている。一方、β-klothoはコレステロールの輸送に関わっていると考えられる。
α-klothoの変異マウス(kl/kl及びkl -/- )ではまた、血清1,25(OH)2Dの高値及び1α-hydroxylaseの発現上昇が認められた。ビタミンD欠乏食の投与あるいはVDRノックアウトマウスとの交配によりklotho変異マウスで認められた様々な特徴が消失した。そのため、klotho変異マウスではビタミンD代謝の異常が、表現型に影響を与えていると考えられる。また、1,25(OH)2D3はklothoを誘導する。これらのことから、klothoは1α-hydroxylaseの発現制御を介してビタミンD代謝に関わると考えられるが、1α-hydroxylaseの発現部位は近位尿細管上皮細胞であり、その機序は不明である。
Klothoはβ-glycosidase-familyに属するが、glycosidase活性は有さず、glucuronidase活性を持ち、ステロイドβ-グルクロドからグルクロン酸を切断する。そのため、生体内においてステロイドなどのコレステロール構造をもつ分子がklothoの基質となる可能性が示唆される。
Klothoの機能には不明な点が多いがCaやコレステロールなどの恒常性の維持を介して老化に関与していると考えられる。