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第14回セミナー報告

大阪小児先進医療研究会の第14回セミナーが平成17年4月26日(火)に銀杏会館大会議室で行われました。

セミナーの模様(講演者:原 宏 先生)

 

 演 題

 

臍帯血移植
【講師】
原 宏 先生
兵庫医科大学
総合内科学 血液・腫瘍科

 

 セミナー要旨

 
<はじめに>
 臍帯血移植は1989年Gluckmanらによる成功以後、同胞間の臍帯血移植は次第に広まったが本格的に普及するには臍帯血バンクの設立を待たねばならなかった。1992年New York血液センターに臍帯血バンクが設立され、1995年には日本でも臍帯血バンクが設立された。2003年度には非血縁者間臍帯血移植の施行例数は年間700例にのぼる。骨髄移植を必要とする患者で血縁者間にHLA適合ドナーが見つからない場合、骨髄バンクからの非血縁者間骨髄移植を考慮することになるが、コーディネート期間が長いため、それまでに原病の再然を招いたり、全身状態が悪化して移植を受けられなくなること患者さんが年間500例以上になることが明らかにされている。その点、非血縁者間臍帯血移植ではコーディネート期間がなく、早期に移植できるなどのメリットがある反面、生着までの期間が長く、感染症の合併、生着不全の発生の頻度が高く、移植後の生存率には施設差が大きく、長期生存率の低い施設が多い等の短所も明らかとなっている。

<臍帯血移植成績に対するHLA適合度の関与>
 臍帯血バンクが設立された当初はHLA 1座不一致までの臍帯血を移植に用いることになっていたが移植に適当な臍帯血が見つからないことが多く、兵庫さい帯血バンクが緊急避難的に2座不一致の臍帯血を提供して以来、現在では2座不一致までの臍帯血が移植に用いられるようになった。しかし、1座不一致の臍帯血移植と2座不一致に臍帯血移植間の成績に差があるか、否かは検討されていない。そこで、NPO法人兵庫さい帯血バンクが提供した移植例において、これらの間に有意差があるか否かを検討した。その結果、単変量解析・多変量解析とも、HVG(host vs. graft)方向のHLA一致度が少ないほど好中球および血小板生着率が早く、高かった。重症急性GVHDの発症とHLA不一致度の間には有意な相関を認めなかった。HLA 1座不一致移植におけるClass T不適合とClass U不適合、2座不一致移植におけるClass T+U不適合とClassTあるいは Class Uだけの不適合群の間で生着率、EFS、TRMに有意差を認めなかった。HLA不一致度は単変量解析および多変量解析でTRM、再発率に有意な影響をおよぼさなかった。また、EFSについては単変量解析の結果では有意な影響を認めたものの、多変量解析では有意な相関を示さなかった。

<複数臍帯血移植の試み>
 成人の臍帯血移植の成績は小児の成績に比較して、明らかに悪くその原因は不明である。しかし、従来の研究では患者体重あたりの有核細胞数の多少が臨床成績に強い影を及ぼすことが知られている。これらを解決する手段として、(1)臍帯血幹細胞の体外増幅(現在神戸の先端研で試みられており、間もなく治験が開始される)、(2)臍帯血+HLAの異なる血縁者間のCD34(+)細胞の移植、(3)複数臍帯血移植、等が考えられている。このうち複数臍帯血移植について、臍帯血移植の適応となるが、単一の臍帯血では必要な細胞数が不足する成人造血器腫瘍患者11人を対象として2つの臍帯血を同時に移植し、その短期の安全性を検討した。その結果、複数臍帯血輸注による重篤な副反応を認めず、移植後28日以内の早期死亡例2例を除き、全例で持続生着をみた(移植後4週で全例が単一ドナー由来の完全キメラ)。重症急性GVHD(grade V以上)は9例中1例で認めた。現在のところ1年無病生存率72%と良好な成績を得ている。この成績は諸外国の多施設共同研究や日本臍帯血バンクネットワークから報告されたpreliminaryな成人単一臍帯血移植の成績と比較して生着率および生存率とも優れていた。今後、症例を増やし、単一臍帯血との前方視的比較試験、さらにはHLA 2~3座不適合血縁者のCD34(+)細胞の同時移植やex vivo増幅臍帯血移植などと比較・検討を行い複数臍帯血移植の役割を明らかにしていく必要がある。