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第15回セミナー報告

大阪小児先進医療研究会の第15回セミナーが平成17年10月14日(金)に銀杏会館大会議室で行われました。

セミナーの模様(講演者:今井 賢治 先生)

 

 演 題

 

脊椎形成の発生分子遺伝学
【講師】
ドイツGSF哺乳類遺伝学研究所
今井 賢治 先生

 

 セミナー要旨

 
 脊柱の発生過程は多段階のステップからなり、複雑な組織間相互作用により進行する。まず沿軸中胚葉の分節化によって形成された体節から、脊索や神経管底板から分泌されるShhの刺激により将来中軸骨格を作る硬節が分化する。ついで、側板中胚葉から分泌されるBmpに対する硬節細胞の応答性が変化する過程を経て軟骨形成が適切に開始されるようになり、将来の脊柱を形作る軟骨性骨原基が形成される。最終的に軟骨組織は内軟骨性骨化により骨組織へと置換される。
 我々は、硬節分化過程の分子メカニズムについて分子遺伝学的アプローチによる解析を長年に渡り行って来た。硬節特異的に発現されるPax1遺伝子の自然発生変異マウスであるundulatedやPax1ノックアウトマウスは椎体や椎間板の異常を示す。一方、Pax1同様に硬節で発現されるパラログPax9のノックアウトマウスでは脊柱の異常を示さない。しかし、Pax1とPax9のダブルノックアウトマウスでは、非常に重篤な脊柱形成異常の表現型を呈し、椎体、椎間板、肋骨近位端の形成が完全に抑制される事を明らかにした。これら一連の解析により、Pax1とPax9の協調的な作用が脊柱の正常な発生に必須である事を示した。ついで、転写調節因子としてのPax1/9の下流ターゲット遺伝子の探索の結果、ホメオボックス遺伝子Bapx1(Nkx3.2)がPax1/9のダイレクト・ターゲットである事を明らかにした。さらに、Pax1/9の上流で働く調節遺伝子の探索の結果、ホメオボックス遺伝子であるMeox1ならびにそのパラログMeox2がPax1/9の活性化に必須であること、さらに興味深い事に、Meox1/2もPax1/9と同様にBapx1プロモーターに直接結合しその転写を活性化することを明らかにした。これらの一連の解析により、硬節分化における主要な分子プレーヤーを同定し、それらが形成する遺伝子のカスケードを明らかにすることが出来た。
 さらに、ポストゲノム的アプローチを駆使してPax1ならびにPax9のシス調節エレメントの探索を行っているが、Nkx2.2 - Pax1 - Foxa1ならびにNkx2.9 - Pax9 - Foxa2という様に、Shh応答性の3種類のパラログ遺伝子が物理的に連鎖していることを見いだした。このようなゲノム構成は脊椎動物の種を超えて保存されている。これらの各ゲノムセグメント内には、種を超えて保存されている多数の非蛋白コード領域が存在する。現在、Pax1/9遺伝子の体節特異的エンハンサーの同定を目指し、これらの保存された非蛋白コード領域の遺伝子の発現調節活性について解析を行っている。