大阪小児先進医療研究会の第16回セミナーが平成17年11月15日(火)に医学部D講堂で行われました。
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演 題
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中枢神経系による骨代謝調節の分子機構
【講師】
東京医科歯科大学大学院
医歯学総合研究科 整形外科学
竹田 秀 先生
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セミナー要旨
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骨量を一定に保つためには骨形成と骨吸収のバランスが保たれることが必要である。閉経による性腺機能低下は骨粗鬆症の原因となり、肥満は骨粗鬆症を発症しにくい、といったことから、演者らは、脂肪組織から分泌されエネルギー消費、摂食、性腺機能を調節するアディポサイトカインであるレプチンに注目し、レプチンは性腺機能調節や体重を調節するのと同時に骨量を中枢性に調節しているのではないかと想定した。実際にレプチン欠損ob/obマウスは著明な性腺機能低下、肥満と同時に骨量が増加しており、特にbone
formation rate(BFR)が亢進していた。また、脂肪細胞を持たない「fat-freeマウス」は痩せており、レプチン産生の低いマウスであるが、このマウスでも骨量は増加していた。このことは体重の増減に関わらずレプチン分泌低下により骨量が増加していることを示すものであり、ヒトにおいても脂肪萎縮症患者の骨量は増加していた。
レプチンは視床下部のレセプターを介して、その作用を発揮する。演者らはob/obマウスの第4脳室にレプチンを投与したところ骨量が減少した。脳室に投与したレプチンが循環血中に漏出していないことから、レプチンが視床下部に作用して中枢性に骨量を調節していることが考えられた。視床下部に作用したレプチンが骨形成を抑制するメカニズムを明らかにするため、2匹のob/obマウスを併体接合し、片方のマウスの脳室のみにレプチンを投与したところ、対側のマウスの骨量には変化がなかったことから、視床下部に作用したレプチンは、視床下部から液性因子ではなく神経性に骨量を減少させると推測された。レプチン欠損マウスは交感神経系の活性が低下していることが報告されていることから、演者らは交感神経系を介して視床下部から骨形成を調節しているのではないかと考えた。そこで、マウスにβ2受容体刺激薬であるisoproterenolを投与したところ、骨形成の低下、骨量の減少を認めた、また、β2受容体欠損マウスは骨形成亢進による骨量の増加を示し、レプチンを投与しても骨量は変化しない(脂肪量は減少する)ことから、交感神経系がレプチンによる骨形成調節作用を仲介していることが示された。なお、骨芽細胞はβ2受容体を発現している。
また演者らは、レプチンー交感神経系が破骨細胞の機能や形成にも影響しているかどうかを検討した。マウスにレプチンを投与すると破骨細胞数が増加し、骨量が減少したが、β2受容体欠損マウスにレプチンを投与しても破骨細胞数は変化しなかった。このことより、レプチンは交感神経を介して破骨細胞も調節していることが示唆された。この破骨細胞数の増加は骨芽細胞のRANKL発現上昇を介したものである。また、卵巣摘除β2受容体欠損マウスは破骨細胞増加による骨量減少をきたさなかったことから、性腺機能低下による破骨細胞形成促進に交感神経系が必要であることが示唆された。
ob/obマウスでは骨吸収も亢進している。これは当初、性腺機能低下による結果だと考えていたが、上述のように交感神経系の活性が低下した状態では卵巣摘除しても骨量は減少しない。したがってob/obマウスでは性ホルモン以外の因子が骨吸収を調節している可能性が考えられた。視床下部でレプチンの摂食調節作用を仲介する因子として知られているCART(cocaine
and amphetamine-regulated transcript)はレプチンによって発現が誘導され、ob/obマウスではCARTの発現は減弱している。演者らはレプチンの破骨細胞への作用を仲介する因子としてCARTに注目し解析を進めた。CART欠損マウスは骨芽細胞におけるRANKLの発現が上昇しており骨吸収が増加していた。CART欠損マウスにレプチンを投与すると骨吸収の促進作用がさらに増強された。これらのことより、レプチンは交感神経系に加えてCARTを介した系からも破骨細胞形成を調節していることが明らかになった。
以上のように、中枢神経系は骨芽細胞、破骨細胞の両方をコントロールし骨量を調節していることが演者らのグループによって明らかにされた。また、レプチンー中枢神経系による骨量調節メカニズムに骨芽細胞の時計遺伝子が関与しているというKarsentyらの報告(Cell,
vol. 122, Sep 9, p803-)も紹介され、今後のさらに詳細なメカニズムが明らかになることが期待される。
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