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第19回セミナー報告

大阪小児先進医療研究会の第19回セミナーが平成18年7月25日(火)に附属病院14階会議室で行われました。

セミナーの模様(講演者:倉橋 浩樹 先生)

 

 演 題

 

染色体構造異常症の発生メカニズム
【講師】
藤田保健衛生大学総合医科学研究所分子遺伝学研究部門 教授
倉橋 浩樹

 

 セミナー要旨

 

 染色体の構造異常には相互転座、部分欠損、逆位などがある。その中でconstitutional t(11;22)は生殖細胞の中で唯一の反復性の染色体転座である。この転座の11番、22番両染色体上の転座切断点には、AT含量の高い回文配列(palindromic AT rich repeat:PATRR)が存在し、これが十字架型の不安定なDNA構造をとることが、この反復性の染色体転座の原因である。この染色体転座は生殖細胞特異的に発生することがわかっており、それ故に減数分裂時の相同組換えにおける2重鎖DNA切断の際のエラーである可能性がある。ヒト17番染色体に存在するPATRRも同様に反復性の染色体転座をおこし、神経線維腫症1型の原因となる。その他、t(X;22)、t(4;22)、t(1;22)といった染色体転座においても同様のPATRRが関与している。演者は、2次元電気泳動、ヌクレアーゼ感受性試験、ゲルシフト法、原子間力顕微鏡を用いることによって、実際に11番染色体由来PATRRのin vitroでの立体構造を解析し、生理的条件下で十字架型構造をとることを証明した。また、11番染色体由来PATRRの塩基配列と、ヒト精子におけるt(11;22)新生転座の関係を詳細に解析した結果、11番染色体由来PATRRには遺伝子多型が存在し、中心部が欠失した配列、もしくは非対称性になった配列をもっている多型を持つヒトの場合、転座の発生頻度が減少することが判明した。このことは、生体内でPATRRが十字架型構造をとっていることを間接的に示している。また、転座を防ぐため、進化の過程においてPATRRが欠失させられてきた可能性を示唆している。また、このPATRRを利用し、新たな遺伝子診断・治療の開発に向けても動き始めている。