TOPへ戻る

 

第20回セミナー報告

大阪小児先進医療研究会の第20回セミナーが平成19年2月27日(火)に銀杏会館大会議室で行われました。

セミナーの模様(講演者:畠山昌則 先生)

 

 演 題

 

ピロリ菌CagA蛋白によるPTPN11遺伝子産物SHP-2の脱制御と胃癌
【講師】
北海道大学遺伝子病制御研究所 分子腫瘍分野 教授
畠山 昌則

 

 セミナー要旨

 

 胃癌は全世界の部位別癌死亡の第二位を占め、特に日本、韓国、中国など東アジアは胃癌多発地域として知られる。Helicobacter pyloriは萎縮性胃炎や胃癌の発生に重要な役割を担う。なかでも、cytotoxin-associated gene A (cagA)遺伝子を保有するH. pyloriは強い胃粘膜病変を惹起し、その持続感染が胃癌発症に深く関わることが明らかにされている。CagAタンパクはH. pyloriの付着・接着を介して胃粘膜上皮細胞内に直接注入された後、Srcファミリーキナーゼによりチロシンリン酸化される。チロシンリン酸化されたCagAはSH2ドメイン含有チロシンホスファターゼSHP-2と特異的に結合し、そのホスファターゼ活性を脱制御する。したがって、CagAはGabタンパクに代表されるシグナル伝達に関わる足場タンパクの機能を模倣する能力を有すると考えられる。CagAにより脱制御されたSHP-2はmitogen-activated protein kinase (MAPK)の持続的活性化を介する異常増殖シグナルを生成するとともに、FAKキナーゼを脱リン酸化することにより細胞運動能の亢進ならびに異常な細胞形態変化を誘導する。最近の研究から、SHP-2をコードするPTPN11遺伝子の機能獲得型変異が種々のヒト癌の発症に関与することが明らかとなり、SHP-2はRasと同じヒト癌タンパクとして働くことが示唆されている。 CagAによるSHP-2の脱制御は機能獲得型変異SHP-2と同様の状況を細胞内に作り出すと考えられ、その結果、癌化につながる胃上皮細胞の異常増殖が誘起されるものと推察される。