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第25回セミナー報告

大阪小児先進医療研究会の第25回セミナーが、平成20年2月1日(金)に大阪大学 吹田キャンパス 銀杏会館 大会議室で行われました。

セミナーの模様(講演者:池田 恭治 先生)

 

 演 題

 

骨代謝の司令塔osteocyte
【講師】
国立長寿医療センター
池田 恭治先生

 

 セミナー要旨

 

骨量は骨形成と骨吸収のバランスによって維持されている。骨形成は骨芽細胞が担い、骨吸収は破骨細胞が担当している。骨細胞は骨組織に最も豊富に存在する細胞で、細胞体は一定の方向に配列し多数の突起を出してネットワークを形成している。しかしながら、骨細胞は硬組織中に埋まっており増殖能もないことから、今まで充分な解析が進んでいなかった。今回、toxin receptor-mediated cell knockout systemを用いて骨細胞を特異的に死滅させたマウスを作出し、骨代謝における骨細胞の役割を解析した。具体的には骨細胞に特異的に発現するdentin matrix protein 1 (DMP1) プロモーターの制御下にヒトジフテリア毒素受容体を発現させたトランスジェニックマウスを作出した。ジフテリア毒素(DT)を投与されたマウスにおいては(DT-Tgマウス)70〜80%の骨細胞が死滅もしくは異常をきたした。骨芽細胞における分化や機能の異常やアポトーシスの増加は見られなかったことから、DTによる骨芽細胞に対する直接的な作用はないと考えられる。DT-Tgマウスにおいては骨量の減少と微小骨折を認めた。また、皮質骨は非薄化し、海綿骨梁厚の減少、骨強度の減少、脂肪髄の増加を認めた。DT-Tgマウスにおいては破骨細胞が増加し、骨芽細胞におけるRANKLの発現が増加しosteoprotegerinの発現が減少した。骨髄細胞をex vivoにて培養すると、破骨細胞様多核細胞が形成された。したがって、生理的状況下で骨細胞は破骨細胞分化・活性化因子であるRANKLの発現を減少させることで、骨吸収を抑制していると考えられる。また、DT-Tgマウスにおいて、骨芽細胞数は変化しないものの、類骨が増加し石灰化速度が減少したことから、骨芽細胞の石灰化機能障害があると考えられた。さらに、骨細胞において主に発現すると考えられているDMP1、FGF23、E11、SOST、PHEX、MEPEの発現減少が見られた。血清中のカルシウム、リン、副甲状腺ホルモン、性ホルモンに変化は見られなかったが、血清FGF23は約半分にまで減少していた。尾部懸垂による免荷によって観察される骨量減少に対して、DT-Tgマウスは抵抗性であり、破骨細胞数やRANKL発現の増加を認めなかった。以上の結果から、骨細胞は機械刺激を媒介し骨芽細胞の石灰化機能やRANKL発現を調節することで骨量を制御していると考えられる。