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第37回セミナー報告
大阪小児先進医療研究会の第37回セミナーが、平成24年11月29日(木)吹田キャンパス 銀杏会館大会議室で行われました。
講演者:林 克彦 准教授

 

 演 題

 

多能性幹細胞からの配偶子形成とその課題
【講師】
京都大学医学研究科 生体構造医学講座 機能微細形態学教室 准教授
林 克彦

 

  セミナー要旨

 

 マウス発生において、発生段階の比較的早い時期に始原生殖細胞(Primordal Germ Cells; PGC)のspecificationが生じる。しかしマウス胎児の一個体から単離できるPGCは、E6で~10細胞、E7で~50細胞と非常にわずかであるため、研究に用いるには不適であった。そのことが多能性幹細胞(ES細胞・iPS細胞)からPGCを作成する動機となった。

 In vitroでの多能性幹細胞からのPGC誘導は、epiblastへの分化、その後のPGCへの分化の2段階からなる。演者らは、in vivoにおいて、E6でPGC precusorで発現されるBlimp1遺伝子と、それに引き続くspecificationによりE7で発現されるStella遺伝子に注目した。PGCで発現される両遺伝子(Blimp1, Stella)のプロモーター誘導下に蛍光タンパクが発現されるES細胞lineを用いることにより、PGCへの誘導の条件の最適化を行った。それによって得られたPGC like cells(PGCLC)は、確かにトランスクリプトーム、DNAメチル化、ヒストンメチル化のパターンがPGCに類似していた。主成分解析(PCA)でもin vivoのPGCへの発生分化のパターンに類似する系譜をたどった。

 得られたPGCLCをマウス精細管に移植することにより、fertileな精子形成が得られ、同様の実験結果はiPSを用いても再現された。しかし卵子形成は困難であった。そこで、演者らの行った工夫は、メス胎児のGonadからPGCを除去したsomaticな組織と、PGCLCをMixするという実験であった。その結果、PGCLCの増殖能が上昇する結果となり、Late PGCやMitosisのマーカー遺伝子も発現上昇し、in vivoの発生のパターンと類似するようになった。さらに、PGCの後期で生じるX染色体再活性化も、ヒストンメチル化の減少が認められ証明された。

 以上のような工夫で作成されたgonad + PGCLCを卵巣被膜下に移植することにより、fertileな卵子を誘導することが可能となった。さらにiPS細胞でもその結果は再現された。しかし問題点としては、効率の低さ(5/127; 3.9%)、極体放出が正常通りに生じずにその結果前核が3つになっていること、などが認められている。次なる課題としては、そのような問題に対する解決や、減数分裂を誘導する転写因子を見つけていくことを挙げられていた。最後に、今回の技術を単にprocedureの向上だけで終わらせずに、不妊治療などの医療に将来的に還元できることを目指していると語られていた。

(文責:坂野 公彦)