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第41回セミナー報告

大阪小児先進医療研究会の第41回セミナーが、平成26年2月19日に吹田キャンパス 銀杏会館会議室で行われました。

講演者:栗原 徳善 先生

 

 演 題

 

Pathobiology of Paget's Bone Disease
【講師】
栗原 徳善 先生
Indiana University School of Medicine Hematology/Oncology, Senior Research Professor

 

  セミナー要旨

 

 Paget’s bone disease(PD)は1876年に最初の報告がなされており、現在アメリカ合衆国では55歳以上の人の約2%に見られる疾患である。また15-30%では家族性がみられることも報告されている。PDではALPの増加、X線によるパンチアウト像、疼痛、骨折、骨変形を認める。頭蓋骨や椎体骨などが好発部位であり全身性でないことも特徴である。そして本疾患では破骨細胞(osteoclast: OCL)の数と大きさが増加していること、核数/OCL比が増加していること、OCLの骨吸収能が増加していることが報告されてきた。またOCL形成能において、1,25(OH)2DやRANKLに対する反応性が増強していること、VDRのcoactivatorであるTAF12の発現が増加していること、骨髄腫と同レベルのIL-6の過剰発現があることが見いだされてきた。
 PDではOCLのRANKLシグナル伝達にかかわるp62というアンカープロテインにp62P392L変異を有する症例が報告されている。またPDには地域性もあり、環境要因もその発症に関与している可能性があり、PDのOCLにおいて麻疹ウイルスヌクレオカプシドタンパク(measles virus nucleocapsid protein: MVNP)の発現が増加していることが見いだされた。さらに健常のOCLにMVNPを導入することにより、多核のOCLが形成され、これはPDのOCLに類似していた。次にp62P392L変異を有する12人のPD患者の骨髄を採取し、MVNPの発現を確認したところ8/12人でMVNPがmRNAでもタンパクでも発現が増加していた。さらにMVNPが陽性であった8人全例でTAF12の発現が増強していた。p62P392L/MVNP+患者のOCL前駆細胞ではOCL形成能において1,25(OH)2DやRANKLに対する反応性が増強していた一方で、antisense-MVNP(AS-MVNP)によりMVNPの発現を抑制するとTAF12の発現は低下し、1,25(OH)2Dに対する反応性は低下するがRANKLに対する反応性は変化がなかった。またMVNPによりIL-6が増加することと、IL-6によりTAF12が増加することも明らかとなった。これらの結果からMVNPがIL-6を介してTAF12発現を増加させ、1,25(OH)2Dに対する反応性を増強させている可能性が示唆された。
 次にp62P392LとMVNPのOCL形成能における作用を調べるため、p62P392Lノックイン(p62KI)マウスとtartrate-resistant acid phosphatase (TRAP)プロモーター下にMVNPを過剰発現するトランスジェニックマウス(MVNPマウス)を交配し、p62KI/MVNPマウスを作出した。OCL形成能においてMVNPマウスとp62KI/MVNPマウスは1,25(OH)2Dに対する反応性が増加していた一方で、p62KIマウスとp62KI/MVNPマウスはRANKLに対する反応性が増加していた。PD発症に関わるIL-6の役割を検討するためにMVNPマススからIL-6をノックダウンしたマウスを作出した。MVNP/IL-6KOマウスではTAF12の発現が低下し1,25(OH)2Dに対する反応性も低下していたが、RANKLに対する反応性は変化が見られなかった。またp62KI/MVNPマウスとMVNPマウスは骨形成と骨吸収がともに増強していたのに対し、p62KIマウスは骨吸収は増強していたが、骨形成は変化が見られなかった。
 PDでは骨吸収にみあう骨形成がしばしば見られる。この骨形成のメカニズムを調べるために、OCLと骨芽細胞(osteoblast: OB)の相互作用を促進する分子であるOCLに発現するEphrinB2(リガンド)と、OBに発現するEphB4(レセプター)に着目した。このOCLからのシグナルがOBに伝わることによりGTP-RhoAの発現が減少し、Runx2やオステリクスの発現が増加する一方で、OCLではc-fosやNFATc1の発現が抑制される。MVNPマウスではこのEphrinB2とEphB4の発現がタンパクレベルで増強していたのに対し、p62KIマウスでは変化がなかった。またMVNP+PD患者ではEphrinB2が増加していた。MVNP/IL-6KOマウスではEphrinB2の発現は低下し、IL-6投与により増加した。またOBにおいてEphB4はIL-6の投与で増強した。さらにMVNPを発現するOCLにおいてIGF1の発現が増加していることがマイクロアレイによる解析で明らかとなった。これらの結果はIGF1の発現がIL-6により制御されていることを示唆するものである。またMVNPを発現するOCLにIGF1を添加するとEphrinB2の発現が増強した。これらの結果からMVNPによりIL-6やIGF1が関与してEphrinB2とEphB4を介したOCLとOBの相互作用が制御されていることが示唆される。(文責:大幡 泰久)