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第50回セミナー報告

大阪小児先進医療研究会の第50回セミナーが、平成30年6月19日に最先端医療イノベーションセンター(CoMIT)1階マルチメディアホールで行われました。

講演者:矢澤 真幸 先生

 

 演 題

 

“Novel Technologies Open New Avenues in Life Science”
- iPS cells and Optogenetics -
【講師】
コロンビア大学メディカルセンター幹細胞研究所 assistant professor
矢澤 真幸 先生


 

  セミナー要旨

 

 今回のセミナーは2部構成とする。1つ目のテーマは疾患特異的iPS細胞を用いた創薬への試みである。稀少疾患として知られるTimothy syndrome(TS)の患者由来のiPS細胞から心筋細胞に分化させ、創薬を目指している。TSは先天性心疾患、QT延長症候群、合指症、自閉症などを発症するとされ、平均寿命は2歳程度で予後不良であり、治療が望まれる症候群の1つである。その中で注目したものはQT延長症候群についてである。TSのiPS細胞由来の心筋細胞では、拍動は細胞間で非同期であり、収縮力は健常心筋細胞に比べ低かった。その心筋細胞に薬剤Fを投与することにより、心筋細胞の拍動は同期し、収縮力の改善を認めた。その後作用機序の特定にも成功した。患者数が多いとされる家族性QT延長症候群の患者由来のiPS細胞から分化させた心筋細胞でも、薬剤Fの効果を認めた。稀少疾患から得られた知見で、多くの患者が患う疾患への適応も示唆され、有意義な結果であったと考える。その薬剤は他の疾患に対してすでに臨床の場で使われている薬剤であり、臨床応用に向け、ヒトへ投与するプロトコールを現在作成途中である。

 2つ目のテーマは、近年神経分野で大きな発展を遂げてきた、optogenetic technologiesに関してである。LED lightを細胞や組織に照射し、その照らされた領域のみ目的の遺伝子を発現させることのできる画期的なシステムである。しかし、既存のoptogenetic technologiesでは、目的の遺伝子発現量の程度は十分ではなく、暗所でも予期せぬ遺伝子発現が生じるという課題が残されていた。植物の光受容体FKF1とGIGANTEAという蛋白に着目し新システムの構築を目指した。DNA配列においてあらゆるコンストラクトを作成し、従来のものより約300倍、目的遺伝子の発現量を増加させ、リークも最小限に抑えたシステムの構築に成功した。この成果は2017年にNucleic Acids Researchに発表した。今後様々な生物種において、このシステムの応用を検討し、またさらなるシステムの向上のため研究を継続している。

(文責:川谷 圭司)