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第58回セミナー報告

大阪小児先進医療研究会の第58回セミナーが、Web開催により行われました。

松本 直通先生
講演者:松本 直通 先生

 

 演題

 

難病ゲノム解析:到達点とその先へ

【講師】
松本 直通 先生
横浜市立大学大学院医学研究科遺伝学 教授


 

  セミナー要旨

 

 難病プロジェクト全体での遺伝学的解決率は2021年度末までの解析で、独立した7534症例のうち解決症例は2696症例(35.8%)であった。2019年以降新たに解明した疾患数と遺伝子数は31疾患と77遺伝子であった。ゲノム解析技術と原因解明率としてはマイクロアレイで10%前後、全エクソーム解析(WES)で26-30%、構造解析でさらに7-8%増加し全ゲノム解析(WGS)で最終的に診断率は40-45%に増加するという状況である。最終的には様々な手法を組み合わせて診断率は50%に到達するという見込みであるということが2020年の総説で発表された。

 難病全ゲノム先行解析(國土班)においてこれまで病的バリアントが同定されなかった症例に対してWGSで解析する事業が展開されており、1220例のWGSを施行した。いずれもトリオ解析を行っており、741症例(247トリオ)中4家系例で病的copy number variant (CNV)を同定(4/247=1.6%)した。CNV解析はMantaで行った。ジョイントvariant call format (VCF)を用いたところ、7家系例でディープイントロン領域に病的single nucleotide variant (SNV)を同定した(7/247=2.8%)。新規病因同定は合計11/247=4.5%であった。CNVが少ない印象であるが、それはWESですでにCNVを詳細に解析しているためであると考えられる。実際に同定された病態の一例としてPURAの欠失やSCN1Aの3エクソンがタンデム配列に重複している症例を同定した。またNIPBLのディープイントロンの変異も同定された。本バリアントに対しては今後RNAseqで確認を行う必要がある。

 次世代シーケンサーはこれまでshort readシークエンスについてはイルミナ社が主流であったが現在MGI社がシェアを広げている。long readシークエンスとしてはPacBio社とOxford Nanopore社が出てきておりそれぞれ独自の技術を採用している。long readシークエンスでは15 kb以上を解読でき、増幅する必要がなく、GCリッチな領域でも解読できるという利点がある。repeated sequenceも解読できうるという点がlong readシークエンスの強みである。ヒトタンデムリピート病は2021年の総説では47種取り上げられているが、そのような疾患の解析に適用できうる。現在も新規発見が増加していることが2022年のGenome Researchに報告されている。タンデムリピート検出法としてはLASTというアライナーとtandem-genotypesを組み合わせて検出する方法がある。発表者はNOTCH2NLCリピート伸長を同定した。これまではリピート病はサザンブロッティング法やrepeat-primed PCR法やamplicon-length analysisなどを用いて解析していたが、long readシークエンスを行う意義としては、元々GCリッチでPCR抵抗性があり、short readにおいて反復領域が大きすぎた問題などを解決しうる点にある。正確性の低さが問題であったがその点も改善が進んでいる。Cas9-mediated enrichment法では分子間コンセンサスを取得でき、HiFiを用いたPacBio社の手法では分子内コンセンサスを取得することで正確性を格段に増加させることが可能となる。現在もそれぞれプロトコールが改訂されておりいずれも改善が進んでいる。

 良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)25例におけるSAMD12リピート伸長の完全配列を決定したところ、パターンは一様ではないことが、これまでのサザンブロッティングなどでは解読できなかった異常が解析できるようになってきている。

 神経核内封入体病(NIID)の孤発例の発症機序はこれまであまりよく分かっていなかった。そこで演者らはその機序を解明するために孤発例家系を両親とともに解析が可能であった4家系症例をトリオベースでナノポアを用いてlong-readシークエンスによるWGSを行った。その結果患者には100以上のリピート配列があるのに対して、父にワイドレンジ(390-650リピート)なリピート超伸長が認められた。母にはリピート伸長は認められなかった。当初はモザイクではないかと仮定したが、PacBioによるHiFiで解析を行ったところ、ヘテロなリピート伸長を有していることが判明した。父親のリピートが異常に長く、病気を発症していないため不活化されていることを想定し、DNA polymerase kineticsで塩基修飾を検出するPacBioの手法で解析したところ、父由来のみkineticsが遅延しており、メチル化されていることが示唆された。メチルsensitiveサザンブロット法でメチル化の解析を行ったところ父のリピート伸長アレルはメチル化されていることが同定された。つまり父の異常に伸長したアレルは高度にメチル化されることで不活化されていて、病気を発症していないことが想定された。このように孤発NIIDのリピート伸長はリピート超伸長を有する非発症父由来であることが明らかとなった。

 アダプティブサンプリングはナノポアの技術で、各リードを興味の対象かどうか判断して選択して解析を進める方法である。この手法により情報を濃縮することが可能となり、例えばリピート病領域のみを解析することが可能である。このような技術を用いることで包括的リピート病解析が可能となり、今後臨床応用例が増えてくることが予想される。

(文責:大幡泰久)