TOPへ戻る
第60回セミナー報告

大阪小児先進医療研究会の第60回セミナーが、Web開催により行われました。

黒澤 健司先生
講演者:黒澤 健司 先生

 

 演題

 

ゲノムのコピー数変化(CNV)と先天異常

【講師】
黒澤 健司 先生
神奈川県立こども医療センター遺伝科 部長


 

  セミナー要旨

 

 CNV(Copy Number Variant/Variation)とは、1kb以上のゲノムの欠失または重複と定義されている。1Mbを超えるような病原性のより高いCNVでも一般集団の1-2%に見られ、pathogenicとbenignの境目は難しい。Recurrent CNVなどcommonであってもpathogenicityについては慎重な評価が必要である。ダウン症などの染色体異常症自体は極端なゲノムのコピー数変化とも表現できる。ゲノムは一続き、phenotypeもある程度は一続きであるが一つの症候群の境界は明瞭ではなく、CNVはgenotype-phenotypeを考える時、非常に興味深い現象である。診断未確定の精神発達遅滞患者において、マイクロアレイ、全エクソーム解析、全ゲノム解析(WGS)を合わせるとCNVのdiagnostic yieldはおよそ60%、WGSで判明した病因変異の半数はCNVであったという報告もあり、CNVが臨床に与えるインパクトは大きいことが示されている。CNVは連続性でスペクトラムを呈するが、臨床症状も連続性でスペクトラムを呈するかは一部で一致しないかもしれない。CNVは臨床としても、発症メカニズムとしても重要である。
 マイクロアレイ染色体検査は幅広く使用できる臨床検査であり、診療レベルの向上に有用である。日本においては保険収載までが海外とひらきが生じた。対象疾患は現時点で59疾患であり、適用については各学会のガイドラインも重視する。また、検査の限界を念頭においておくことが重要である。二次的所見、検査の必要性、遺伝学的検査情報が予後の改善や予測に有用であること、保因者診断、同胞の診断等について説明を行った上で、遺伝カウンセリングにつなげることも大事である。結果解釈には浸透率、表現度にも注意する。CNV解析は進展を見せ、DECIPHERも充実し新しいCNV syndromeも想定できるようになってきた。データベースやゲノムブラウザーを適切に活用し、検査結果、pathogenicityと臨床症状をつきあわせて検討する。小さな欠失、複合ヘテロ、モザイク、複雑構造異常、非翻訳領域の欠失など多様なパターンのCNVが疾患発症に関わるため、例えばexomeデータを読み替えてexon単位のCNV評価といった見落とさない工夫を我々の施設では行っている。染色体異常のメカニズムは量的、再構成、インプリンティング、位置的効果などが挙げられるがCNVの疾患発症メカニズムはそれだけであるのか、またより微細なCNVを検出することが課題となってくる。
 全ゲノムの時代となるが、基本の流れは共通している。マイクロアレイの診断精度は向上しており医療としても重要である。CNVは医療だけでなく、疾患発症のメカニズムの大きなヒントを与えてくれる。

 

(文責:山田知絵子)