肝胆膵 膵移植

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膵臓移植、膵島移植について

 膵臓には、消化酵素を分泌する役割(外分泌機能)と血糖コントロールに重要なインスリンなどのホルモンを分泌する役割(内分泌機能)があり、この膵内分泌細胞(ランゲルハンス島)は、食事摂取など体内の血糖値の変動に合わせてインスリンと呼ばれるホルモン(血糖値を下げるホルモン)を分泌することにより、血糖値を常に一定範囲内にコントロールしています。

1. 膵臓移植の必要性および意義

 1型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)の患者様では、若年時より膵組織にあるインスリンを産生するβ(ベータ)細胞が自己免疫反応などにより完全に破壊され、インスリン分泌が全くできない状態となります。インスリン分泌が完全になくなると高血糖状態が持続してしまい、これを放置すると糖尿病性網膜症、腎症(腎不全)、神経障害など糖尿病性合併症が増悪し、末期症状として腎不全となり血液透析の導入や網膜出血などにより失明に至ってしまいます。1型糖尿病に対する初期治療として、まず内科的(内分泌内科)にインスリン強化療法が導入されます。インスリン強化療法では血糖測定およびインスリン注射は1日に複数回(1日4回以上)必要で、しかも注射による血糖コントロールは、糖尿病専門医による管理をもってしても困難を極め、高血糖発作や低血糖発作(意識消失)を繰り返し、患者様の命を脅かすケースも多く見られます。また1型糖尿病の患者様では、たとえインスリン注射により血糖コントールを試みたとしても動脈硬化などの糖尿病性合併症が徐々に増悪し、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが通常の方よりかなり高く生命予後をも悪化させてしまいます。

2.膵臓移植の適応、登録の手順について

 このような1型糖尿病の患者様に脳死(または生体ないしは心停止)ドナーの方より提供いただいた膵臓を移植すると、移植した膵臓が機能し血糖値に合わせてインスリン分泌を再開するようになり、インスリン自己注射から解放され、高血糖発作や低血糖発作も消失します。また、すでに腎不全を併発している1型糖尿病の患者様に、膵臓に加えて腎臓も同時に移植(膵腎同時移植)することで透析からも離脱でき患者様の"生活の質"(Quality of life; QOL)(注1)が格段に向上する効果をもたらします。 1型糖尿病に対する膵腎同時移植は、糖尿病網膜症や動脈硬化などの糖尿病性合併症の進行を遅らせる、あるいは改善させる効果も報告されており、生命予後も改善する可能性が確認されています。

膵臓移植の適応、登録の手順について

 膵臓移植は、先ずは腎不全に陥った(透析を受けている)1型糖尿病患者様が優先となり膵腎同時移植の適応となります。中でも血糖コントロールがインスリン投与など内科的治療に抵抗性の方が移植適応となります。すでに腎移植(生体または献腎)を受けて透析から離脱されている方には、膵臓だけを移植する腎移植後膵移植も行われています。また、一般的にレシピエント(移植を受ける方)は60歳以下が望ましいとされています。活動性の感染症、肝機能異常、消化性潰瘍や悪性腫瘍を有する方は移植手術の禁忌(手術を受けることができない)ですが、評価結果によっては移植を行うことも可能と判断されることがありますので、移植を希望される方は、ぜひ一度相談下さい。

 

 先ずは、かかりつけの医師(糖尿病を診てもらっている先生、透析病院の先生)に相談していただき、大阪大学 消化器外科へ紹介いただければ、膵(腎)臓移植の適応の有無に関して、当院、内分泌内科と共同して移植の適応・評価をさせていただきます。その検査結果をもとに移植の「適応あり」と判定されれば、日本臓器移植ネットワークに登録申請することになります。また、評価を行っても必ず移植を行わなければならないとも限りません。あくまでも患者様の意思が尊重され移植辞退はいつでも可能です。

 

 また、臓器移植法改正に伴い、臓器提供者数は2010年以降、それまでの約4倍に増加しましたが、その後は横ばいとなり、現在では年間40例前後の脳死膵臓移植が全国で施行されています。しかし、2016年3月31日現在、膵臓移植を待っておられる患者様の数は、全国で150名前後いらっしゃいます。臓器提供者数が少ない、日本の現状では、登録待期期間が長く、平均で3〜4年となることが一つの問題となっています。最新の待機患者数に関しては日本臓器移植ネットワークのホームページで公開されていますのでご参照下さい。

 

 当科では糖尿病に関するに日常生活に関しても指導することも可能です。日本臓器移植ネットワークへの登録の手続き、移植手術および術後管理や免疫抑制剤の服用や合併症に関する説明、入院費用などについて移植専任コーディネーターを交えて詳しく説明させていただきます。また、当院では膵臓移植に関することを分かりやすくまとめた「膵臓移植、膵島移植を受けられる方へ」という冊子を無料でお配りしておりますので、遠慮なくお申し出ください。担当医が学会などで不在の場合もございますので、あらかじめ大阪大学大学院医学系研究科消化器外科学まで (医局直通06-6879-3251、移植医療部 06-6879-5053)ご連絡をいただければ、診察可能な日をお知らせいたします。先ずは気軽にご相談下さい。

 

 移植登録が完了した後も今まで通りの生活を送っていただいて結構です。登録後、ドナー(臓器提供者)が発生し、日本臓器移植ネットワークにより移植候補に選ばれますと、当院に連絡があり、当院よりレシピエントの患者様に連絡させていただき、移植担当医師より移植の意思を再度、確認させていただき、レシピエントの全身状態が移植手術に耐術可能と判断されましたら、阪大病院に入院していただき手術説明の後、移植に臨むことになります。

 

 当院では、2015年末までに39回の膵臓移植を経験しており、そのうち、38例が脳死膵臓移植です。ドナー(レシピエントの近縁者)より膵臓の約半分を摘出し、1型糖尿病の患者様に移植する生体部分膵臓移植も1例行っています。

3.手術法

3-A 膵腎同時移植(膵臓と腎臓を同時に移植する場合)

 脳死ドナーより膵臓の全部を十二指腸とともに取り出し、レシピエントに移植します。膵腎同時移植の場合、同じドナーより同時に左腎臓も摘出し、腎移植も行ないます。移植した両方の臓器が働けば、レシピエントはインスリン注射からも透析からも解放されることになります。膵臓を移植する際、ドナーの十二指腸とレシピエントの膀胱、あるいは腸管(小腸)と吻合します(膀胱ドレナージと腸管ドレナージ)。当院ではいずれの方法も取り入れ、患者様の病態に合わせて術式を選択しています(現在は、大部分の症例で腸管ドレナージを行っております)。通常は、膵臓は右の下腹部に移植し、腎臓は左の下腹部(後腹膜)に移植します。なお、患者様の膵臓と腎臓はそのままです。

3-B 腎移植後膵移植(すでに腎移植を受けておられる方に、膵臓のみを移植する場合)

 すでに生体ドナーの方より腎移植を受けておられる患者様では、腎移植後膵臓移植を行うことにより血糖値が安定化し、すでに移植を受けた腎臓を糖尿病曝露から守り長期に機能させる効果もあります。この場合、譲り受けた腎臓は生体でも脳死ドナーでも構いません。腎移植後膵移植では、移植する臓器は膵臓のみです。この膵臓グラフトも脳死ドナーを待つ方法とご家族から膵臓を半分頂く方法(生体膵移植)とがあります。移植する場所は腎臓を左下腹部に移植している場合は右下腹部移植します。腎臓を右下腹部に移植している場合、膵臓は左下腹部に移植します。

 

4.予後、手術成績

 膵(腎)臓移植を受けた患者様は、移植片に対する拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤の服用が必須(一生服用が必要です)となります。現在、膵臓移植後に一般的に使用されている免疫抑制剤は、タクロリムス、MMF(セルセプト®)、ステロイド(プレドニン®)であり、移植時の免疫抑制導入時にバシリキシマブ(シムレクト®)というお薬を使用します。これらの4剤を併用することにより移植後に一番問題になる拒絶反応はほぼ回避されています。 膵臓移植が世界で最も多く行なわれているアメリカのデータによりますと、脳死下膵臓移植後1年目のレシピエント生存率(注2)は95%、膵臓の生着率(注3)(1年後にちゃんと膵臓が働いている率)は85.5%、腎臓の生着率は93.4%で、非常に高い率で1型糖尿病を克服されています (International Pancreas Transplant Registry; IPTR)。

 

 本邦では、脳死を人の死と認めた臓器移植に関する法律が1997年10月に施行されて以後、246回の脳死下膵臓移植が行なわれています。移植後5年での生着率は、膵臓で73.9%、腎臓で89.5%と欧米の移植成績に匹敵する良好な手術成績が得られています。

 当院での移植成績もほぼ同様で、移植後10年経過された方もいらっしゃいます。

 

(注1) QOLとは「生活の質」を意味し、膵腎同時移植では、患者さんの生活からインスリンの注射や人工透析が不要となることです。

(注2) この場合の1年生存率とは、患者さんが移植後1年に生存されている確率を表します。

(注3) 1年生着率とは、移植された膵臓や腎臓が1年後に患者さんの体の中で働いている確率を表します。

5.1型糖尿病根治への新しい取り組み(生体膵臓移植と膵島移植について)

①生体膵臓移植について

 生体膵臓移植とは、血縁者(親または兄弟)などより膵臓の約半分(膵体尾部)を譲り受ける手術です。膵臓(腎臓を含む)を提供する方を生体ドナーといいます。したがって、生体ドナーの方は膵臓を右図のごとく膵体尾部の半分を切除する手術を受けることになります。また同時に腎臓も提供することも可能です。取り出された膵臓(腎臓)は脳死移植と同じようにレシピエントに移植されます。生体膵臓移植には以下に示すように多くのメリットがあります。

 

1.予定手術:脳死ドナーはいつ出現するのか分かりませんが、生体移植の場合は、予定を組んで十分な準備と体制のもとに手術を行なうことができます。

2.臓器を運ぶ時間がない:脳死ドナーの場合、提供先の病院で臓器を摘出し、飛行機や電車などで移植施設(阪大病院)に運ぶため、臓器に血流が途絶える時間(虚血時間)が存在しその間、臓器が傷害される可能性がありますが、生体移植の場合は、阪大でドナーの手術を行い、そのまま隣の手術室でレシピエントに移植するので、臓器の虚血時間が最短ですみます。

3.提供者が血縁者の場合は拒絶反応が少ない:近親者であれば白血球の型がドナーと合いやすいので、一般的に拒絶反応は少ないといわれています。 生体膵臓移植の成績は、アメリカで一番多く生体移植を行っているミネソタ大学でのデータでは脳死下膵臓移植よりも若干生着率が良いといわれています。

 

②膵島移植について(組織移植の範疇に入ります)

 心停止あるいは脳死ドナーより取り出された膵臓を特別な酵素(コラーゲナーゼ)で消化処理し、膵臓の中にある膵島(ランゲルハンス島)といわれるインスリンを分泌する細胞の塊(膵臓組織全体の約1〜3%がランゲルハンス島と言われています)のみを純化・回収し、レシピエントの門脈内に点滴にて移植する方法です。従って、膵臓移植など侵襲のかかる手術を行うことなく、点滴注射の要領で移植できる1型糖尿病根治術であり、理想的な治療法と言えます。しかし1回の膵島移植でインスリン注射から離脱するのは難しく、平均2〜3回の膵島移植が必要となります。また、すでに腎不全を来たしている患者様では生体腎移植を先行しその後、膵島移植を行う腎移植後膵島移植をおこなう方法も可能です。

 

 当院は平成18年9月7日より膵島移植の分離・移植施設の認定を受けており、さらに平成20年4月からは膵島分離技術の開発者として知られているCamillo Ricordi教授が主催されている Diabetes Research Institute, University of Miami (DRI-Miami)と日本の膵島移植認定施設が共同研究を行うことなり、大阪大学もDRI-Japan, Osaka Universityとしてメンバー入りし、新しい知見を世界に発信していきたいと考えています。

 

 当院では、膵臓移植、膵島移植の両輪で1型糖尿病根治を目指しております。膵島移植は現時点では、臓器移植と異なり保険診療ではありません。従って、膵島の分離や移植後に服用する免疫抑制剤の費用などが発生することになります。詳細につきましては、外来受診をしていただき説明をさせていただきます。

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