消化器癌先進化学療法開発学

 

大腸がん

大腸がんに対する化学療法

大腸がんに対する化学療法は、下部消化管グループと協力・相談しながら診療を行います。下部消化管の診療内容のページもご参照ください。(https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/gesurg/consultation/kabu_shouka/daicho.html

1)切除不能・進行再発大腸がん

1-1)用いる薬剤

大腸がんに対する全身化学療法では、以下の薬剤を単剤もしくは2〜4種類を併用して投与します。

 

① フッ化ピリミジン系薬剤(5-FU注, S-1, カペシタビンなど)

② イリノテカン

③ オキサリプラチン

④ 血管新生阻害薬(ベバシズマブ、ラムシルマブ)

⑤ 抗EGFR抗体(セツキシマブ、パニツムマブ)

⑥ レゴラフェニブ

⑦ TAS-102

 

これまでの臨床試験の結果から、殺細胞性抗がん薬(①②③)、と分子標的薬(中でも特に④と⑤)を組み合わせて使うことで生存期間延長や腫瘍縮小が得られるというデータが蓄積されてきました。ひとりひとりがんの拡がりや合併症の有無など状況が異なるため、それらを勘案して薬剤の選択がなされます。また、薬剤によっては血圧が上がりやすい、皮疹が出やすいなどの副作用に特徴があるため、患者さんの生活スタイルやご希望も考慮した上で治療薬の組み合わせを決定します。

 

レゴラフェニブやTAS-102は①〜⑤の薬剤の効果がなくなった(=がんの勢いが勝ってきた)、または副作用で継続困難になった場合に単独で用いられるのが一般的です。

1-2)バイオマーカーによる治療薬選択

一般的にバイオマーカーとは様々な内容を含みますが、「ある種の薬剤の効果を事前に予測するための因子」でもあります。大腸がん領域ではバイオマーカーとしてがん細胞のRAS遺伝子の変異の状態を調べます。RAS変異型の特徴を持つ大腸がんでは抗EGFR抗体が効かないとされており、RAS変異型大腸がんには抗EGFR抗体は用いられません。(RAS変異のないRAS野生型の大腸がんでは、抗EGFR抗体が効く可能性がある、と判断され治療に用いられます。)

 

大腸がん領域のバイオマーカーは現時点ではRASのみですが、今後、他のマーカーが確立されるとともに治療や薬剤の選択の助けになることが期待されています。

2)術前または術後に行う化学療法

術前化学療法は他のがん種同様に、手術可能ながんの術前に化学療法を行うことでがんを縮小させ手術を行いやすくすること等を指しますが、広義には「そのままでは手術適応が乏しい状態のものを縮小させることで手術可能状態に移行させること」を含む場合もあります。ただし、進行大腸がんにおいては「手術適応があるもの→まず手術を行う」「手術適応がないもの→全身化学療法を行う」のが標準治療とされており、術前化学療法は大腸がんにおいては一般的ではありません。しかしながら術前化学療法の効果や有用性には期待される部分も大きく、臨床試験などで研究されているものも幾つかあります。

 

術後化学療法(別名:術後補助化学療法)は、肉眼的には完全に取りきれた(=根治切除)手術の後に、再発率を低下させるために行う治療です。大腸がんにおいてはステージやその他の種々の要素を考慮した上でフッ化ピリミジン系薬剤単独もしくはフッ化ピリミジン系薬剤とオキサリプラチンの併用が行われます。術後化学療法では分子標的薬は通常は用いられません。

3)当教室での取り組み

大腸がんに限らず、全身化学療法においては「どの抗がん剤の組み合わせが最も効果的か」「どの順番で薬剤を用いるのが効果的か」などの疑問を解決すべく、日本のみならず全世界で臨床試験が行われています。当科では多くのがん診療連携拠点病院や大学病院、がんセンター等と協力し合うことで臨床試験を推し進めています。これは、少しでも良い治療法を開発し、次世代の治療成績を向上させるために大切なことだと考えています。

 

一例として、当科および私共が所属する臨床試験グループからSENRI試験の報告がなされました。これは制吐剤アプレピタントの効果を検証するために計画された第III相臨床試験です。この試験の結果から、抗がん剤投与を受ける患者さんができるだけ軽度の悪心(吐き気)で治療を続けられるためのエビデンスがさらに蓄積されました。こういった臨床試験の結果はガイドラインにも記載され、ガイドラインは日々進歩していきます。このように抗がん剤そのものの臨床試験だけではなく「どのようにしたら十分な治療効果を損なわず副作用を軽減して治療できるか」という問題も非常に重要であり、支持療法の臨床試験も当科では精力的に行っています。

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