肝臓研究室・肝疾患臨床研究グループ

 私たちの研究グループは、以下を主なテーマとして、基礎研究で得られた成果や欧米での大規模臨床試験の結果を踏まえて、大阪大学関連施設(OLF: Osaka Liver Forum参加施設)における多数の肝疾患症例のデータを集計・解析することによって、実際の診療において“個々の患者様の状態に応じた最適の医療”を実現することを目標としています。

B型慢性肝炎に対する核酸アナログ療法の抗ウイルス効果と変異株出現

 大阪大学肝疾患臨床研究グループでは、大阪大学と大阪府下の主要病院から構成されるOsaka Liver Forum(OLF)において、B型肝炎に対する治療成績をまとめ、一般臨床でのB型肝炎患者さんの治療に役立てるように様々な臨床研究を行っています。核酸アナログ治療においては、ラミブジン、アデホビル、エンテカビルの3剤が使用されています。ラミブジン治療においては、ラミブジン耐性ウイルスの出現頻度や、アデホビル併用例の治療成績などを報告してきました(1、2)。また、ラミブジンの発癌抑制効果については、肝硬変症例ではラミブジン治療によりウイルス量の中央値を4logcopies/mL未満に維持された症例において、発癌率が有意に抑制されていたことを報告しました(3)。2006年9月からは、エンテカビルが使用可能となり、OLFにおいても多くの症例に投与が行われています。核酸アナログ未治療例において、エンテカビルを導入し3カ月以上経過した555例を対象とした検討では、エンテカビル治療開始後のウイルス陰性化(HBV DNA<2.6logcopies/ml)率は、全症例では、6カ月で72%、1年で86%、HBe抗原陽性症例では、6カ月で50%、1年で76%、HBe抗原陰性症例では、6カ月で89%、1年で95%であり、良好な治療成績が得られていました(図1)。また、6カ月目にHBV DNA<2.6logcopies/mlとなった症例において、HBe抗原セロコンバージョンとなりやすいことが分かりました。一方、エンテカビル薬剤耐性ウイルスが出現したのは1例のみでした。この他、ラミブジンからエンテカビル投与に切り替えた症例については、ラミブジンからエンテカビルに切り替えた52症例のうち、HBV DNA<2.6 logcopies/mlでエンテカビルに切替えた35例(ラミブジン投与 3年未満30例、3年以上5例)では、観察期間内(3~17カ月)にウイルスの再増殖は認めませんでした。しかし、ラミブジン耐性変異のないラミブジン不応例(ラミブジン2年投与、HBV DNA7.6log超)の1例からエンテカビル薬剤耐性ウイルスが検出されています(4、5)。この投与方法については、今後さらに症例を集積し、検討することが必要と考えられます。現在のところ、エンテカビルは核酸アナログ治療の第一選択薬となっておりわが国でも多くの患者さんにエンテカビル治療が行われていますが、さらに長期間の治療を続けた場合の治療効果や発癌抑制効果などについては明らかではありません。また、エンテカビル薬剤耐性ウイルスが出現した場合の治療法も定まっていません。今後も、エンテカビル投与症例についてさらに詳細な検討を加えていく予定としています。
一方、2011年9月からは従来のインターフェロン製剤に加えて、インターフェロン徐放剤であるペグインターフェロンがB型慢性肝炎においても保険収載され、治療効果の向上が期待されています。ペグインターフェロンを投与した32例と従来型インターフェロン(インターフェロンα)を投与した9例を比較・検討した結果、治療終了後6カ月において、ペグインターフェロン投与群は従来型インターフェロン投与群よりも有意にHBV DNAが抑えられていることが示されました。また、HBe抗原セロコンバージョン率は、ペグインターフェロン投与群において経時的に上昇し、治療終了後3年で約50%と、従来型インターフェロンの13%よりも高率でした(図2)。 核酸アナログの抗ウイルス効果は、ウイルスの複製を阻害することで発揮されます。そのため治療を中止するとウイルス複製が再開し肝炎が再燃することから、一旦治療を開始した後に治療を中断することは困難です。一方、インターフェロンは核酸アナログとその作用機序において異なり、肝細胞核内のウイルスに直接作用し抗ウイルス効果を発揮し、また、治療効果を認めた症例では治療終了後も治療効果が持続します。従来のインターフェロンより治療効果の高いペグインターフェロンの登場により、我が国におけるB型肝炎診療は大きく変わりつつあります。今後も、B型慢性肝炎患者さんの治療成績を向上させる新たな情報を発信するために、エンテカビル投与症例やペグインターフェロン投与症例についてさらに詳細な検討を加えていく予定としています。

図1. ETV投与後のHBV DNA量の推移(新規導入例)


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図2. ペグインターフェロン投与例と従来型インターフェロン投与例の治療成績
A. HBV DNA<5logcopies/mlとなる割合 B. HBe抗原セロコンバージョンの割合


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  1. Kurashige N, Hiramatsu N, Ohkawa K, et al. Initial viral response is the most powerful predictor of the emergence of YMDD mutant virus in chronic hepatitis B patients treated with lamivudine. Hepatol Res. 2008 May;38(5):450-6.
  2. Kurashige N, Hiramatsu N, Ohkawa K, et al. Factors contributing to antiviral effect of adefovir dipivoxil therapy added to ongoing lamivudine treatment in patients with lamivudine-resistant chronic hepatitis B. J Gastroenterol. 2009;44(6):601-7.
  3. Kurokawa M, Hiramatsu N, Oze T, et al. Long-term effect of lamivudine treatment on the incidence of hepatocellular carcinoma in patients with hepatitis B virus infection. J Gastroenterol. 2012;47(5):577-85.
  4. Kurashige N, Ohkawa K, Hiramatsu N, et al. Lamivudine-to-entecavir switching treatment in type B chronic hepatitis patients without evidence of lamivudine resistance. J Gastroenterol. 2009;44(8):864-70.
  5. Kurashige N, Ohkawa K, Hiramatsu N, et al. Two types of drug-resistant hepatitis B viral strains emerging alternately and their susceptibility to combination therapy with entecavir and adefovir. Antivir Ther. 2009;14(6):873-7.
(2013年2月6日更新)

C型慢性肝炎に対する抗ウイルス療法の検討

 大阪大学肝疾患臨床研究グループでは、大阪大学と大阪府下の主要病院から構成されるOsaka Liver Forumにおいて、C型肝炎に対する抗ウイルス療法の治療成績をまとめ、一般臨床でのC型肝炎患者さんの治療に役立てるように様々な臨床研究を行っています。インターフェロン単独療法、インターフェロン/リバビリン併用療法では、治療期間の延長により、治療後にウイルスが再び現れる率(ウイルス再燃率)を低下させ、最終的にウイルス排除率が向上することを報告しました(1、2)。また、インターフェロン治療やインターフェロン/リバビリン併用療法を受けた患者さんを長期に経過観察することによって、治療で治療効果が得られた患者さんでは発癌率が低下し、生命予後が改善することを報告しています(3、4、5)。
インターフェロン/リバビリン併用療法においては、わが国のC型慢性肝炎の特徴でもある、高齢者C型慢性肝炎治療の実際についても報告しました(6)。さらに、リバビリンの副作用である貧血によって治療を中断する例が少なくないことから、このような重度の貧血例を少なくし、安全に治療を行う投与法の必要性を考え、治療開始後早期(2週間)のヘモグロビン減少が重度の貧血の予測因子となることを明らかにしました(7、8)。
ペグインターフェロン/リバビリン併用療法においても、約4500症例を蓄積し、国内最大規模の治療成績について検討してきました。遺伝子型1型高ウイルス量症例の解析では、治療完遂例のウイルス排除率は53%で、高齢者C型慢性肝炎(9)や、ALT正常C型肝炎(10)治療の実際、難治例として考えられるC型肝炎ウイルスコア領域のアミノ酸変異例に対する治療での特徴(11)について報告しました。さらに、治療開始4週時のウイルス減少度によって、治療効果が予測できることを明らかにしました(図1)。また、ウイルス排除率はウイルス陰性化時期により異なり、治療開始12週までに陰性化が得られるEVR(Early virologic response)例では80%にウイルス排除が得られますが、治療効果の良いEVRとなるためには、最初の12週の間、ペグインターフェロンを1.2?g/kg以上投与することが大切で、1.2?g/kg未満の場合でも、できる限り多くのペグインターフェロンを投与することが必要であること(12、13)、治療後のウイルス再燃を抑止するためには、リバビリンを12mg/kg以上投与することが大切であること(14)を明らかにしました。治療開始13週以降24週までに陰性化が得られるLVR(Late viroligic response)例では48週投与でのウイルス排除は37%にとどまりますが、72週の長期投与により、48週投与と比較して良好なウイルス排除が得られること(ウイルス排除率:59%)や、48週投与では治療効果が十分得られない高齢者、肝線維化進展例においても治療効果が向上することなどを明らかにしました(15)。一方、遺伝子型2型の症例の解析では、治療完遂例のウイルス排除率は75%で、治療効果にはペグインターフェロンやリバビリンの量は関係しないことを明らかにしました(16)。また、ペグインターフェロン/リバビリン併用療法でウイルス排除が得られなかった患者さんに再治療を考える場合、積極的に勧めるべき患者さんと、次世代治療を待つべき患者さんの特徴についても報告しました(17)。さらに、ペグインターフェロン/リバビリン併用療法を受けられた2600症例を長期に経過観察することによって、治療効果が得られた患者さんでは肝細胞癌の発生リスクが低下することなどもわかってきています(図2)(18)。
現在は、テラプレビル/ペグインターフェロン/リバビリン併用療法での治療成績を検討し、治療効果を向上させる方策などを検討しています。今後も、C慢性肝炎患者さんの治療成績を向上させる新たな情報を発信するために、詳細な検討を加えていく予定となっています。

図1. ウイルス減少率別のウイルス排除率:48~72週間投与(1型高ウイルス量症例)


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図2. ウイルス効果別の累積発癌率


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  1. Kasahara A, Hayashi N, Hiramatsu N, et al. Ability of prolonged interferon treatment to suppress relapse after cessation of therapy in patients with chronic hepatitis C: a multicenter randomized controlled trial. Hepatology. 1995;21(2):291-7.
  2. Hiramatsu N, Kasahara A, Nakanishi F, et al. The significance of interferon and ribavirin combination therapy followed by interferon monotherapy for patients with chronic hepatitis C in Japan. Hepatol Res. 2004l;29(3):142-147.
  3. Kasahara A, Hayashi N, Mochizuki K, et al. Risk factors for hepatocellular carcinoma and its incidence after interferon treatment in patients with chronic hepatitis C. Osaka Liver Disease Study Group. Hepatology. 1998;27(5):1394-402.
  4. Kasahara A, Tanaka H, Okanoue T, et al. Interferon treatment improves survival in chronic hepatitis C patients showing biochemical as well as virological responses by preventing liver-related death. J Viral Hepat. 2004 Mar;11(2):148-56.
  5. Kurokawa M, Hiramatsu N, Oze T, et al. Effect of interferon alpha-2b plus ribavirin therapy on incidence of hepatocellular carcinoma in patients with chronic hepatitis. Hepatol Res. 2009;39:432-438.
  6. Hiramatsu N, Oze T, Tsuda N, et al. Should aged patients with chronic hepatitis C be treated with interferon and ribavirin combination therapy? Hepatol Res. 2006;35(3):185-9.
  7. Oze T, Hiramatsu N, Kurashige N, et al. Early decline of hemoglobin correlates with progression of ribavirin-induced hemolytic anemia during interferon plus ribavirin combination therapy in patients with chronic hepatitis C. J Gastroenterol. 2006;41(9):862-72.
  8. Hiramatsu N, Kurashige N, Oze T, et al. Early decline of hemoglobin can predict progression of hemolytic anemia during pegylated interferon and ribavirin combination therapy in patinets with chronic hepatitis C. Hepatol Res. 2008;38(5):450-6.
  9. Oze T, Hiramatsu N, Yakushijin T, et al. Indications and limitations for aged patients with chronic hepatitis C in pegylated interferon alfa-2b plus ribavirin combination therapy. J Hepatol. 2011;54:604-611.
  10. Hiramatsu N, Inoue Y, Oze T, et al. Efficacy of pegylated interferon plus ribavirin combination therapy for hepatitis C patients with normal ALT levels: a matched case-control study. J Gastroenterol. 2011;46:1335-1343.
  11. Inoue Y, Hiramatsu N, Oze T, et al. Amino acid substitution in the core protein has no impact on relapse in hepatitis C genotype 1 patients treated with peginterferon and ribavirin. J Med Virol. 2011;83:419-427.
  12. Oze T, Hiramatsu N, Yakushijin T, et al. Pegylated interferon alpha-2b (Peg-IFN alpha-2b) affects early virologic response dose-dependently in patients with chronic hepatitis C genotype 1 during treatment with Peg-IFN alpha-2b plus ribavirin. J Viral Hepat. 2009;16:578-585.
  13. Oze T, Hiramatsu N, Song C, et al. Reducing Peg-IFN doses causes later virologic response or no response in HCV genotype 1 patients treated with Peg-IFN alfa-2b plus ribavirin. J Gastroenterol. 2012;47:334-342.
  14. Hiramatsu N, Oze T, Yakushijin T, et al. Ribavirin dose reduction raises relapse rate dose-dependently in genotype 1 patients with hepatitis C responding to pegylated interferon alpha-2b plus ribavirin. J Viral Hepat. 2009;16:586-594.
  15. Oze T, Hiramatsu N, Yakushijin T, et al. The efficacy of extended treatment with pegylated interferon plus ribavirin in patients with HCV genotype 1 and slow virologic response in Japan. J Gastroenterol. 2011;46:944-952.
  16. Inoue Y, Hiramatsu N, Oze T, et al. Factors affecting efficacy in patients with genotype 2 chronic hepatitis C treated by pegylated interferon alpha-2b and ribavirin: reducing drug doses has no impact on rapid and sustained virological responses. J Viral Hepat. 2010;17:336-344.
  17. Oze T, Hiramatsu N, Yakushijin T, et al. Efficacy of re-treatment with pegylated interferon plus ribavirin combination therapy for patients with chronic hepatitis C in Japan. J Gastroenterol. 2011;46:1031-1037.
  18. Harada N, Hiramatsu N, Oze T, et al. Incidence of hepatocellular carcinoma in HCV-infected patients with normal alanine aminotransferase levels categorized by Japanese treatment guidelines. J Gastroenterol.; in press.
(2013年2月6日更新)

肝細胞癌発生の危険因子と治療

 大阪大学肝疾患臨床研究グループでは、大阪大学と大阪府下の主要病院から構成されるOsaka Liver Forumにおいて、肝細胞癌の治療成績をまとめ、一般臨床での肝細胞癌患者さんの治療に役立てるように様々な臨床研究を行っています。慢性ウイルス性肝炎の患者さんでは、抗ウイルス治療による肝細胞癌の発癌抑制効果について検討しています。C型肝炎では、インターフェロン治療を受けたC型慢性肝炎患者さんを長期に経過観察することによって、インターフェロン治療で治療効果が得られた患者さんでは肝細胞癌の発生リスクが低下することや、生命予後が改善することを報告しています(1-3)。また、ALT正常(40IU/L以下)のC型慢性肝炎患者さんに対するペグインターフェロン/リバビリン併用療法により、血小板値が15万未満の患者さんでは肝細胞癌の発生リスクが低下することを報告しています(4)。また、B型肝炎では、ラミブジン治療を受けたB型慢性肝炎患者さんを長期に経過観察することによって、HBVのウイルス量の中央値が4logcopies/mL未満に維持された患者さんでは、肝細胞癌の発生リスクが低下すること、特に肝硬変の患者さんで顕著であったことを報告しました(図1)(5)。肝癌治癒後の患者さんでは、肝細胞癌治癒後の抗ウイルス治療による肝細胞癌の再発抑制効果について検討しています。肝細胞癌に対し手術、局所療法を行った後にペグインターフェロン/リバビリン併用療法を行ったC型肝炎患者さんでは、治療効果が得られた患者さんで肝細胞癌の再発リスクが低下することを報告しています(図2)。
今後も、肝細胞癌の治療成績を検討し、治療効果を向上させる方策など、肝細胞癌患者さんの治療成績を向上させる新たな情報を発信するために、詳細な検討を加えていく予定となっています。

図1. B型慢性肝炎に対するラミブジン治療におけるMVR(*)と発癌率
A. 全症例 B. 慢性肝炎 C. 肝硬変
((*) MVR:ラミブジン投与中のウイルス量の中央値が4logcopies/mL未満に維持されたウイルス反応が良好な症例)


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図2. 肝癌癌治癒後C型慢性肝炎に対するペグインターフェロン/リバビリン併用療法におけるSVR例とnon-SVR例の発癌率
(SVR;ウイルスが排除された症例、Non-SVR;ウイルスが排除されなかった症例)


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  1. Kasahara A, Hayashi N, Hiramatsu N, et al. Ability of prolonged interferon treatment to suppress relapse after cessation of therapy in patients with chronic hepatitis C: a multicenter randomized controlled trial. Hepatology. 1995;21(2):291-7.
  2. Kasahara A, Hayashi N, Mochizuki K, et al. Risk factors for hepatocellular carcinoma and its incidence after interferon treatment in patients with chronic hepatitis C. Osaka Liver Disease Study Group. Hepatology. 1998;27(5):1394-402.
  3. Kasahara A, Tanaka H, Okanoue T, et al. Interferon treatment improves survival in chronic hepatitis C patients showing biochemical as well as virological responses by preventing liver-related death. J Viral Hepat. 2004 Mar;11(2):148-56.
  4. Kurokawa M, Hiramatsu N, Oze T, et al. Effect of interferon alpha-2b plus ribavirin therapy on incidence of hepatocellular carcinoma in patients with chronic hepatitis. Hepatol Res. 2009;39:432-438.
  5. Harada N, Hiramatsu N, Oze T, et al. Incidence of hepatocellular carcinoma in HCV-infected patients with normal alanine aminotransferase levels categorized by Japanese treatment guidelines. J Gastroenterol.; in press.
  6. Kurokawa M, Hiramatsu N, Oze T, et al. Long-term effect of lamivudine treatment on the incidence of hepatocellular carcinoma in patients with hepatitis B virus infection. J Gastroenterol. 2012;47(5):577-85.
(2013年2月6日更新)