アメリカ研修医事情 by Dr. Eguchi

第1章: 臨床研修、博士号取得、海外留学そしてアメリカのレジデントへ
 「厳しい厳しいといわれるアメリカの研修医(レジデント)生活とはどのようなものなのだろう?」 学生時代より噂には聞くものの、一方で実際に経験した人の話を聞く機会もなくただ夢のように思っていました。ところが研究者としてアメリカ留学後、様々な巡り合わせと偶然が重なり、アメリカニュージャージー州の病院にて内科小児科合同プログラムのレジデントを体験する機会に恵まれました。
 今回「病態情報内科学」教室よりその経験を紹介する機会をいただきましたので、(1)自己紹介 (2)研修医の一日 (3)研修医の生活 (4)研修医制度のシステム (5)アメリカの医療システム (6)まとめと皆様からの質問と答え、と6回に分け報告させていただきたいと思います。尚、ここで述べさせていただくのは私の個人的な経験に基づいたもので、「病態情報内科学」教室に文責はございません。

 私は昭和63年に第一内科学(現、病態情報内科学)の大学院(消化器研究室所属)を卒業後、大学院時代の研究にて知己を得たMcCuskey教授(解剖学)の下で研究を続けるためアメリカのアリゾナ大学に留学しました。そこで初めてアメリカの臨床医Earnest教授(消化器学)と研究グループとして知り合いましたが、彼は臨床医として優れているだけでなく人間的な魅力にあふれ、また研究者として非常に謙虚な人であり、私はその品格に強く惹かれました。私の中でアメリカの臨床医が「夢」から現実の「憧れ」に変わった瞬間でした。2年間の研究生活終了後、私は日本にて本格的な臨床のトレーニングを開始することになったのですが、その帰国に際しアメリカの臨床へのぼんやりとした憧れ、噂に聞く厳しいレジデントプログラムへの興味から、当時まだ存在していたFMGES(外国の医学校卒業生を対象とした研修プログラムを受けるための試験)を帰国前に受験しました。ところがその受験手続で訪れたアリゾナ大学の事務局で、アリゾナ大学での研修プログラムについて尋ねたところ、思いがけずアリゾナ大学にはいつも定員に空きがあると聞かされ(後になって誤解であったことがわかるのですが)、それならFMGESの試験に通れば私も研修のプログラムに参加できるのではと思ったのです。それで日本に戻り国立大阪病院にて消化器科の医師として3年間勤務後、レジデントプログラムに参加するため再びアリゾナ大学に戻ることを決心しました。
 さて、当時、アメリカの臨床研修出願の前提となるFMGESの試験は私の場合Clinicalの部のみPassしていましたので、Basicの部については日本でECFMG Part I(米国と外国の医学校卒業生共通の試験)を受けPassしました。しかし、結局アリゾナ大学では見学はできましたがプログラム自体への参加はかないませんでした。アリゾナ大学病院は全米で3ヶ所ある心臓移植センターのうちの一つがあるため、3年間の内科のFullプログラムの人気は高く、空きがあるのは1年間のTransientプログラムだったのです。外国の医学校卒業生にはハンディがあったようなのですが、幸い私の場合にはその後、ニューヨーク近郊のニュージャージー州パターソンにあるセントジョセフ病院というその地方の中核病院で、内科小児科の合同プログラムに参加できることになりました。パターソンはアメリカ最初の計画的工業都市であり、その周辺を含めると富裕層から貧困層まで、また白人からヒスパニック系まであらゆる階層の人が住んでいました。セントジョセフ病院は日本の江戸時代末期に創設され、州で3つしかないChildren's Hospitalの一つでもありました。その上日本では不可能である内科小児科双方を同時に修得できるプログラムは非常に魅力的でありました。それで私は一般臨床家を目指すトレーニングを受けるには最適であると思いました。

 しかしながら現実に研修生活が始まると想像していた以上に厳しく、日本とは病院のシステムが異なっていたこともあり、一年目が終わったところで解雇される可能性があるような状態でした。それでも次第にシステムに慣れると成績も上がり、最終年度にはチーフレジデントにも選ばれ、卒業同年度に内科小児科両方の専門医(Board)の試験を共に優秀な成績でPassすることができました。元来、内科小児科の合同プログラムはそれぞれだと計6年を要するところを4年間で修了するため、米国の医学生の中でもトップクラスが志願するところだったのです。おそらく日本人として卒業したのは私が初めてであり、結果として内科小児科の両方のBoardを有する日本人は他にいないのではないかということでした。

 では次回よりどのような生活であったかその実際について述べさせていただきます。なお最後第6回目に皆様からの質問に私の知る範囲内でお答えする機会を設けましたので、どのような疑問でも知らせていただければ幸いです。

質問やご意見がありましたら、次のメールアドレスにお願いいたします。こちらで責任をもって、江口先生に転送させて頂きます。mailto: gastro@medone.med.osaka-u.ac.jp


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