アメリカ研修医事情 by Dr. Eguchi

アメリカの研修医に課せられる業務
 今回はアメリカ研修医(レジデント)生活の体験を紹介させていただく第3回目として、レジデントにとって最も忙しい入院業務の実際と、一般病棟以外のローテーションについて述べさせていただきたいと思います。



 入院の連絡はまずER (Emergency Room) 担当医師より当日病棟担当のシニアレジデント(2年目または3年目)に入り、シニアレジデントはジュニアレジデント(1年目または2年目)と共に入院の業務を行います。内科ではグループリーダーである3年目のレジデントがMICU (Medical Intensive Care Unit)、CCU (Coronary Care Unit) と一般病棟のMedical Serviceの患者を、2年目のレジデントがAIDS (Acquired ImmunoDeficiency Syndrome) 病棟と一般病棟のPrivateの患者を、小児科では3年目のレジデントが一般病棟の患者を担当します。PICU (Pediatric Intensive Care Unit)、PSD (Pediatric Step Down Unit)、NICU (Neonatal Intensive Care Unit) はそれぞれその日担当のレジデントが単独で担当します。

 レジデントはERに隣接する当直室に控えており、連絡が入りしだいERに駆けつけ、ERの医師から病状について説明を受けます。説明を受けた時点で基本的に患者に対する責任はレジデントに移りますので、それからは迅速で的確な判断と行動が必要とされます。まずERチャートに目を通し、ERで実施された検査結果と処置を把握します。次に患者さんのベッドサイドに行き、チャートから得た情報を念頭に置きながら問診と診察を行います。
 気をつけなければならないのは、ERの医師がチャートに書いた情報が必ずしも正しくないことです。また私がレジデントとして勤務した病院のあったパターソンという町はヒスパニック系(中南米出身)の患者さんが多く来られるところでしたので、うまく通訳を介してスペイン語でコミュニケーションを取ることも必要でした。
 問診と診察が終了すると、病状と入院してからの治療方針について患者さんとその家族に説明し、入院OrderとH&P (History and Physical) を作成します。正式なH&Pはジュニアレジデントが作成するのですが、シニアレジデントも必要事項を簡便に記載したH&Pを書きます。以前に入院歴のある患者さんでは過去の入院チャートを病歴室から取り寄せ、それまでの病状の経緯を把握し、できるだけ完全なH&Pの作成に努めます。また緊急に追加で必要な検査(敗血症の疑いで入院時の脊椎穿刺による脳脊髄液の検査等)や処置(中心静脈穿刺等)は、レジデントがERまたは病棟にて実施します。

 ところで3年目のレジデントはAttendingの医師に当直中2回程度に分けて電話で入院や病棟の状況について報告をします。よってMedical Serviceの患者は、翌朝Attendingの医師が診察するまで、実際上3年目のレジデントが入院後の経過については責任を負っており、的確な報告の可否はまさにシニアレジデントの実力が問われるところです。
 一方、Privateの患者は日頃から主治医が病状をフォローし、入院についてもERの医師が予め主治医と連絡をとっていますので、入院後に大きな責任問題が生じることはありません。

 結局当直の日は、内科の3年目のレジデントはMICU、ICUを含めて20-25人程度の入院業務を担当し、入院患者一人当たりでは30分から1時間程度で対応していく必要がありました。またジュニアレジデントは分担する一般病棟のフォローと前回紹介させていただきました日常業務があり、さらに当日の入院症例から一例を選んで翌朝のカンファレンスで発表する用意もありましたので、ともに当直の日はかなりの激務となります。

 一般病棟以外のローテーションには、集中治療室 (MICU, CCU, PICU, PSD, NICU) と専門科 (Cardiology, Gastroenterology, Nephrology, Infectious Disease, ERなど) のローテーションがあります。集中治療室の担当では4日に1度入院業務がありますので、基本的な生活は一般病棟と同様です。しかし専門科のローテーションでは入院業務はなく、各科のFellow(専門医になるため専攻する2-3年のFellowshipプログラムの研修者)またはDoctorとコンサルトされた入院患者のフォローをします。より専門的な知識を実症例に基づいて勉強でき、勤務は基本的に月曜日から金曜日の午前8時から午後5時まででしたので、専門科はレジデントにとって最も楽しめるローテーションでありました。

 次回は、レジデントをとりまく生活一般について述べさせていただきたいと思います。



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