
アメリカ研修医事情 by Dr. Eguchi
理屈ぬきでしなければならないことを・・・・: 研修プログラム |
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アメリカ研修医(レジデント)生活の体験を紹介させていただく6回シリーズのうち、前2回はレジデント生活の実際について紹介させていただきました。今回はレジデントの研修内容について全般的な事を紹介させていただきたいと思います。
一般内科または小児科で3年、一般外科で5年と定められているレジデント生活は、基本的にどのようなトレーニングを受け、どのような生活を過ごすかは、ほぼ完全に決められており、言わば軍隊の士官養成学校のようです。24時間、理屈抜きでしなければならないことを、責任をもってきちっとできるように訓練されます。
コース開始前のオリエンテーションでは、映画の「愛と青春の旅立ち」の一シーンを見せられ、コースの期間中は辛くても頑張るようにと、初めから暗示がかけられます。またBLS (Basic Life Support)、ACLS (Advanced Cardiac Life Support)、小児科ではPALS (Pediatric Advanced Life Support)、NALS (Neonatal Advanced Life Support)のCertificateを、オリエンテーション期間内に取得することが要求されます。
コースが始まりますと、前回までに紹介しましたように、毎日Attending Doctorに症例の経過を報告し、またAttendingからの質問に答え、Long Callの翌朝はカンファレンスで症例発表と質疑応答があります。毎月1ヶ月のローテーションが終了すると、ジュニアレジデントはAttendingとシニアレジデントから評価されますが、その評価表は勤務態度や協調性など細かく項目が規定されています。ジュニアレジデントはその評価が適切でないと感じた場合、Attendingまたはシニアレジデントと協議します。また逆にシニアレジデントはAttendingとジュニアレジデントから評価を受けます。
最終的にそれらの評価と毎年実施されるBoardの模擬試験の結果は、毎年の上の年度へのpromotionや最終的なプログラム修了の決定に重要視されます。毎年私の所属していたプログラムでも、到達度が不十分なため何人かの人は、数ヶ月場合によっては1年promotionが遅れていました。
逆にプログラムが厳しく規定されているために良い点もありました。年間通して3-4週間ある長期休暇は一年の初めに予定がわかりますので、予め十分な計画が立てられます。また交代のシステムが確立していますので、女性のレジデントは計画的に妊娠し、休暇を全部まとめて産前産後の休暇に振り替えるということも実施されていました。
チーフレジデントは、優秀なレジデントの中から本人の希望により選ばれます。内科や小児科ではチーフレジデントは、正規の3年間のプログラム終了後1年間専任で従事します。また私の所属していた内科・小児科合同プログラムや外科系などのプログラムでは、最終年度のレジデントが一人または数人でチーフレジデントを兼任していました。
チーフレジデントの仕事はプログラム全体の現場監督です。Program Directorとともに実際のプログラムの運営、苦情処理にあたり、またレジデントがBoardを取得するための教育を担当します。競争の厳しいフェローシッププログラムに応募する場合はチーフレジデントの経歴は重要であり、現に指導者として活躍されているほとんどのDoctorはチーフレジデントの経験者でした。
ところでこのように厳しくプログラムが運営されている大きな要因は、実はプログラムそのものが第3者機関によって評価されており、もし大きな問題点があればプログラム自体が存続できなくなること、またBoardの取得は研修修了後の就職に必須であり、毎年公表される病院ごとのBoardの取得率にレジデントは敏感になっていることが挙げられます。プログラム内容が十分に組織化されず、また適切に実施されなければそれはレジデントのBoard取得率に反映し、ひいては優秀なレジデントが集まらなくなります。
よって毎年終了するごとに、Director、Attending、チーフレジデントとシニアレジデントが協議を行い、プログラム内容の改善が図られます。私の所属していた4年間でも少しずつ改革され、例えば内科ではLong Callの負担を軽減するため、当番のレジデントが深夜のみ入院業務を手助けするシステムが導入されていました。
最後にレジデントの給料に関してですが、基本的に物価スライド制であり、病院によりまたその地域により少しずつ異なりますが、標準的な生活は保証されています。それでも米国の医学校出身者は卒後1年の研修にて多くの州で医師免許が取得できますので(外国の医学校出身者は一般に3年の研修が必要)、医師免許取得後アルバイト(米国ではmoon-lightingと呼ばれる)に行くレジデントも一部存在していました。
以上、レジデントのプログラムと生活一般について述べさせていただきました。次回はアメリカの医療全体について述べさせていただきたいと思います。
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