血管性浮腫|大阪大学 免疫内科

免疫疾患の診療

血管性浮腫

遺伝性/ 後天性血管性浮腫の概念

皮膚、気道、消化管などに反復する局所的な血管性浮腫である。蕁麻疹と異なり境界不明瞭で局所がパンパンに腫れるが、数日で症状が消失するため未診断のまま放置されることもある。月に何度も起こることもあれば、数年ぶりに起こるようなこともある。上気道に浮腫が生じると窒息の危険があり、診断は重要である。補体C1インヒビター(C1-INH、C1エステラーゼインヒビター、C1インアクチベーター)活性の先天的あるいは後天的な欠損で生じる。診断にはこの疾患を念頭に置き、CH50、C3、C4、C1-INHを測定。さらにC1qを測定することによって、分類を確定する。

遺伝性血管性浮腫では幼少時は無症状か軽度であるが、10代ころから最初の症状が出始める。皮膚深部の浮腫では、圧痕を伴わない境界の不明瞭な浮腫が、顔面(眼瞼、口唇、舌)、四肢、外陰部に出現し、通常2-5日間で自然消失する。熱感、痛み、かゆみは伴わない。誘因として外傷、物理的刺激、感染症、医療行為、情緒的ストレス、身体ストレス、寒冷暴露、月経など。誘因不明のこともある。

上気道に浮腫が生じると呼吸困難を生じる。喉頭より上部で浮腫が生じ窒息様となることがあり、重症な場合は気管切開を必要とすることがある。症状出現から窒息様の状態まで至る時間は20分から14時間と様々である。消化管に浮腫が生じると、悪心、嘔吐、腹痛、腹部圧痛など様々な閉塞症状をきたす。皮膚の局所浮腫症状がなく、消化管症状のみの場合、急性腹症として緊急手術されたり、心身症と診断されていたりする。通常12-24時間で消化器症状は軽快する。

遺伝性あるいは後天性血管性浮腫は比較的稀な疾患で、本疾患を疑う前に一般的な浮腫の鑑別が必要である。心不全、肝臓疾患、腎臓疾患、甲状腺機能低下症、静脈血栓症、好酸球増多症、アレルギー疾患、高齢者の血流うっ滞、RS3PE、寝起き顔のむくみなどは本疾患とは異なる機序の浮腫である。C1q活性の低下による浮腫は変形するほどに腫れ上がり、繰り返すという特徴があり、N Eng J Medに掲載された画像は参考になる。

こうした浮腫が気道や腸管に生じることがあり、窒息や腸閉塞をきたすこともあるため本疾患の知識が必要である。CSFベーリング社によるHAE情報センターのホームページが参考になる。

分類

遺伝性血管性浮腫(Hereditary Angioedema: HAE)

Type頻度C3C4CH50C1qC1-INH活性C1-INH抗原
180-85%正常低値低値正常低下低下
215-20%正常低値低値正常低下正常〜高値

後天性血管性浮腫(Aquired Angioedema: AAE)

通常40歳以降に発症。HAEより稀。
TypeC3C4CH50C1qC1-INH活性C1-INH抗原
1, 2正常低値低値低下低下正常〜低下

機序

IFNやIL-6などの炎症性サイトカインによって産生誘導されるC1-INH(C1インヒビター)は、補体系の因子C1r、C1s、凝固系因子 (XIa, XIIa, XIIf)、キニン系(kallikrein)を抑制している。しかし、本症では、C1-INH(C1インヒビター)が欠損あるいは機能低下があるため捕体系を十分に抑制できない。そのような準備状態にさまざまな発症要因が加わることにより、皮膚や粘膜における補体系・凝固系・キニン系が調節できず、血管浮腫が出現する。

治療

ステロイド、抗ヒスタミン薬、エピネフリンは症状軽減に有効だが、発作を抑えるには不十分で、浮腫発作にはトラネキサム酸点滴(トランサミン15mg/kg 4時間毎)による治療、重篤な場合はC1-INH血漿分画製剤であるベリナートP(CSLベーリング社)を投与する。月に一回以上の発作を繰り返すようであれば、トラネキサム酸(30〜50mg/kg/day)、あるいはダナゾール(200〜400mg/day)の投与を検討する。発作の誘因を避けるなどの注意も重要である。

その他の血管性浮腫

薬剤誘発性血管性浮腫

降圧剤(ACE阻害剤、アンギオテンシンII受容体拮抗薬、ペニシリン、アスピリン等のNSAIDs、経口避妊薬(ピル、エストロゲン)、線溶系酵素などにより誘発されることがある。ACE阻害剤による血管性浮腫では喉頭浮腫による窒息死の報告がある。基礎にC1-INHの異常があると症状が重篤になる。原因薬剤の中止とC1-INHの補充(ベリナートP)を検討する。

好酸球性血管性浮腫

反復性(Episodic angioedema with eosinophilia: EAE)と非反復性(non-episodic angiodema with eosinophilia: NEAE)に分けられる。

参考文献

* Autoimmune acquired form of angioedema that responded to danazol therapy. Higa S, Hirata H, Minami S, Hashimoto S, Suemura M, Saeki Y, Kawase I, Tanaka T. Intern Med. 41(5):398-402. 2002.
* Hereditary angioedema: a broad review for clinicians. Nzeako UC, Frigas E, Tremaine WJ. Arch Intern Med. 161(20):2417-29. 2001.
* Acquired C1 esterase inhibitor deficiency. Markovic SN, Inwards DJ, Frigas EA, Phyliky RP. Ann Intern Med. 132(2):144-50. 2000.
* Nonepisodic angioedema associated with eosinophilia: report of 4 cases and review of 33 young female patients reported in Japan. Chikama R, Hosokawa M, Miyazawa T, Miura R, Suzuki T, Tagami H. Dermatology. 197(4):321-5 1998.
* 遺伝性血管性浮腫のガイドライン2010
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