コラム|大阪大学 免疫内科

免疫疾患の診療

コラム

4リウマチやアレルギーを扱う診療科のいろいろな名称2017/4/1
3自己免疫疾患遺伝率2012/5/
2全身性エリテマトーデスの名称由来2012/9/24
1生物学的製剤の開発2012/8/28

リウマチやアレルギーを扱う診療科のいろいろな名称

免疫疾患を診療する診療科名に関して、日本の大学病院や市中病院ではリウマチ科、膠原病科、アレルギー科、免疫内科など、あるいはこれらを組み合わせてリウマチ・膠原病科が多く、他にアレルギー・リウマチ科、アレルギー・膠原病科、免疫・膠原病科、免疫・アレルギー内科などさまざまな名称が使用されているのが現状です。

名称の由来を考えるとリウマチ(rheumatology)は「リウマチ性疾患(流れるに由来する)」、アレルギー(allergy)は「異なった反応」で、ともに臨床の症状を表す言葉です。一方、膠原病の名称は病理学に由来します。

例えば、関節リウマチは多関節痛を伴う「リウマチ性疾患」であり、「古典的膠原病」のひとつであり、「広義のアレルギー疾患」であり、免疫異常から発病することより「免疫疾患」と考えられています。リウマチ性疾患、膠原病、アレルギー、免疫疾患は、同じ疾患であっても異なった視点で呼称していることになり、これがざまざまな診療科名に反映されています。

自己免疫疾患遺伝率

「私の自己免疫疾患は子供に遺伝するでしょうか」
という質問を外来で受けることがあります。SLEは結婚適齢期の女性に発症することが多く、患者さんの深い悩みのひとつでしょう。今のところ自己免疫疾患は多遺伝子疾患と考えられています。また遺伝因子のみならずタバコ、ウイルス感染、紫外線、放射線などの環境因子が加わって初めて発症すると考えられています。

自己免疫疾患によっては家族内での発症がみられることがあり、遺伝因子の関与を知るため兄弟の発症のしやすさ(兄弟の疾患罹患率/一般人口の疾患罹患率)を調べた報告では、乾癬6倍、関節リウマチ8倍、バセドウ病15倍、1型糖尿病15倍、強直性脊椎炎54倍、多発性硬化症20倍、潰瘍性大腸炎12倍、SLE20倍、クローン病20倍、原発性胆汁性肝硬変100倍、となっています。

また、一般人口での疾患罹患率は、乾癬2.8%、関節リウマチ1.0%、バセドウ病0.5%、1型糖尿病0.4%、強直性脊椎炎0.13%、多発性硬化症0.1%、潰瘍性大腸炎0.1%、SLE0.1%、クローン病0.06%、原発性胆汁性肝硬変0.008%、となっています。

そこで、実際に患者さんの兄弟が疾患にかかる確率は、兄弟の発症のしやすさと一般人口での疾患罹患率との積で得られることになります。つまり、乾癬17%、関節リウマチ8%、バセドウ病7.5%、1型糖尿病6%、強直性脊椎炎7%、多発性硬化症2%、潰瘍性大腸炎1.2%、SLE2%、クローン病1.2%、原発性胆汁性肝硬変0.8%、となります。

人種間の差もありますが、また、親子間の発症率は兄弟間の発症率と同じかやや低いと考えられていますが、とりあえずこの数字を最初の質問に対する説明に使うことができると思います。質問の返答として約2%の確率で子供さんがSLEを発症するかもしれませんと伝えるとき、患者さんにとっては2%を高いと思われるかもしれませんので、慎重に伝えなければなりません。

** Vyse TJ, Todd JA. Genetic analysis of autoimmune disease. Cell. 3;85(3):311-8. 1996

全身性エリテマトーデスの名称由来

日本語病名では全身性エリテマトーデスという病名が一般的だが、英語表記ではsystemic lupus erythematosus(SLE)である。ラテン語の「ループス」は狼を「エリテマトーデス」は紅斑を意味する。英語ラテン語混在し、狼まで出てくる病名から、私はいつもこの疾患の多様な症状と不思議さを思い浮かべる。なぜ狼のイメージが特定の皮膚病変を表すようになったのかは不明とされているが、狼に噛まれた部位とその周囲の皮膚の損傷の外観が特定の皮膚病変の外観と似ていたからではないかと考えられている。ループスという表現がHerbernusによって最初に文献に記されたのは916年で、聖Martin in Tours教会の司祭Eracliusが重篤な病気から奇跡的に治癒する記述の中で使用されている。その後ループスという言葉は狼によって噛まれ損傷した皮膚を想起させる様々な皮膚病変に対して使用されており、ドイツの病理学者Virchowは中世のループスの記述は明確でないと結論づけたようである。

19世紀の初めにロンドンのR.Willanとその生徒W.Batemanは外観に基づいて皮膚病を分類した本 Manual of Skin Diseaseを出版した。このなかで破壊的で潰瘍形成を特徴とする顔面に現れた皮膚病に対して「ループス」という単語があてられている。しかし、この中には後の尋常性狼瘡(皮膚結核であるlupus vulgaris)と紅斑性狼瘡(lupus erythematosus)の2つの皮膚疾患が含まれるようである。後に、パリのP.CazenaveとH.Schedel、L.Biettらは見た目の特徴でループスを3つにタイプ分けした。1833年P.Cazenaveは、L.Biettがerythema centrifugumという言葉で円板状の皮膚病変を表した、と報告した。1847年にP.CazenaveとH.Schedelは、lupus erythemateux(フランス語)という語を初めて使用し、紅斑性狼瘡、結核性狼瘡、潰瘍性狼瘡、肥厚性狼瘡に分類した。この時点で顔面の尋常性狼瘡(lupus vulgaris)は紅斑性狼瘡と区別されたことになる。1851年P.Cazenaveはerythena centrifugumをlupus erythematosusと呼び直したが、これが今で言う円板状皮疹(discoid lupus)である。

一方、1846年までにはウィーンのF.von Hebraはループスに対して円板状病変と集簇小病変の2つの病変を記載し、ループスを説明する「蝶形紅斑」という言葉を主張した。1856年にはラテン語表記のlupus erythematosusという単語を用いて彼の有名な図解本Atlas of Skin Diseasesに精緻な画で蝶形紅斑を最初に示した。光線過敏症を最初に記載したのは梅毒の研究で有名なJ.Hutchinsonである。

これまではlupus erythematosusの名称は慢性の皮膚病変に対して用いられていたが、この疾患を全身性のものと捕らえたのはF.von Hebraの生徒であり娘婿でもあるカポジ肉腫で有名なM.Kaposiで1872年の報告である。円板状皮疹のdiscoid lupus erythematosus(DLE)と、リンパ節腫大、関節痛と腫脹、発熱、体重減少、貧血、中枢神経障害などの症状を伴うsystemic lupus erythematosus(SLE)の2つの臨床病態を提唱した。

まとめると、10世紀ころよりループスという語が皮膚病変を表す語として文献に現れるが、最初に「ループス」と表した正確な由来は中世の歴史に埋もれ、古いことはよくわからないとVirchowも困ったのだろう。P.Cazenaveによる円板状皮疹の記載と、F.von Hebraがlupus erythematosusとして蝶形紅斑の女性を描いたことより、円板状皮疹と蝶形紅斑がlupus erythematosusの由来のようである。さらにM.Kaposiが重篤な全身性疾患でもあると指摘し現代の全身性ループスエリテマトーデスの概念に繋がっている。しかし、現在の日本語の一般名では歴史的な語である「ループス」を抜いて全身性エリテマトーデスと呼ぶことが多い。

現代では狼は動物園でしか見ることができないが、ループスという病変に関しては過去のものとなる日を祈りたい。

* Smith CD, Cyr M. The history of lupus erythematosus. From Hippocrates to Osler. Rheum Dis Clin North Am. 1988 14(1):1-14.
* Scofield RH, Oates J. The place of William Osler in the description of systemic lupus erythematosus. Am J Med Sci. 2009 338(5):409-12
* F von Hebra. Altas of Skin Diseases 1856
* Lupus Foundation of America, Inc.

生物学的製剤の開発

ジフテリアに対する血清療法の開発に対して1901年、第1回ノーベル生理医学賞は、Emil Adolf von Behring博士に授与されています。このジフテリア毒素を打ち消す血清療法の有効成分は免疫を担っている抗体であることが明らかとなっています。それから1世紀のち、分子生物学の進歩によってこうした抗体を均一に人工的に大量に作ることが出来るようになり臨床現場に広く普及してきています。現代ではジフテリア毒素に対してではなく、病気の鍵となる分子に対して抗体を作成し、その分子を特異的に抑えることができるようになったのです。こうした抗体は、製薬企業の特殊な大型タンクの中で抗体産生細胞を超大量に培養し、その上澄み液から精製濃縮して製造されます。抗体なので抗体医薬、あるいは、細胞に作らせるので生物学的製剤とも呼ばれます。疾患のメカニズムを基礎に開発され、ピンポイントで働く特異的な薬剤であり、今では世界の医薬品売り上げの上位を占めるようになってきています。

生物学的製剤が世界に登場した当初、大阪大学免疫アレルギー内科の医師が英国Imperial College of Londonに赴き、Marc Feldmann博士より抗TNFα抗体(当時はcA2と呼ばれていたが、後のインフリキシマブである)を譲り受けました。彼は大英博物館にも立ち寄らず、すぐに阪大病院に折り返して、免疫アレルギー内科病棟で待つ関節リウマチ患者に投与しました。大学の倫理委員会審査承認のもと抗TNFα抗体が日本で初めて使用された経験でした。この時の病状の変化はビデオ撮影され、「投与前後で、別人が同じパジャマを着て階段を上り下りしている」のではないかと言われるくらいの劇的な効果でした。その後、大阪大学では独自の抗体医薬として、大阪大学で長く研究されていたIL-6に対するオリジナルな抗体を臨床導入していくことになりました。このIL-6受容体に対する抗体は開発当初MRAと呼ばれていましたが、のちのトシリズマブであり、初めて日本で開発された抗体医薬です。この抗体は関節リウマチに対して抗TNFα抗体と同等以上の効果を示し、今では世界中に広まる抗体医薬となっています。

モノクローナル抗体はもともとマウスに抗原を投与し作成されます。人に投与するときに抗マウス抗体が生じないよう、人が持っている本来の抗体に近いかたちになるように工夫されてきました。このときの作成手法の違いが薬剤一般名の語尾に現れています。例えば、
・キメラ抗体(…ximab)は、可変領域がマウス由来で、定常領域をヒト化(例:インフリキシマブ)
・ヒト化抗体(…zumab)は、可変領域の相補性決定領域以外をヒト化(例:トシリズマブ)
・ヒト抗体(…mumab)は、ヒト抗体遺伝子を導入したマウス由来の完全ヒト型(例:ゴリムマブ)
・可溶性受容体(…cept)は、受容体のリガンド結合部位をヒトIgGのFc部分に結合(例:エタネルセプト)

従来のTNFやIL-6を阻害する抗体のみならず、分子レベルで様々な病態の解明が進むに連れて、次々と新しい抗体医薬が登場してきており、1分子を標的にして様々な疾患の制圧を目指す医療が普及し始めています。Behring博士の血清療法に対しては、「病気に対する輝かしい武器を医師の手にもたらした」、とノーベル賞受賞理由に記されていますが、今では抗体医薬という洗練された病態特異的な武器を医師は手にしたのです。

* Saeki Y, Ohshima S, Mima T, U-Sasai M, Nishioka K, Shimizu M, Suemura M, McCloskey RV, Kishimoto T. Suboptimal clinical response to anti-tumor necrosis factor alpha (TNFa) antibody therapy in a patient with severe rheumatoid arthritis and lymphadenopathy. Scad J Rheumatol 27(4):303-5. 1998
* Ohshima S, Saeki Y, Mima T, U-Sasai M, Nishioka K, Ishida H, Shimizu M, Suemura M, McCloskey RV, Kishimoto T. Long-term follow-up of the changes in circulating cytokines, soluble cytokine receptors, and white blood cell subset counts in patients with rheumatoid arthritis (RA) after monoclonal anti-TNFa antibody therapy. J Clin Immunol 19(5):305-13, 1999 国内初の抗TNF抗体(cA2)の自主臨床試験の報告。
* Nishimoto N, Sasai M, Shima Y, Nakagawa M, Matsumoto T, Shirai T, Kishimoto T, Yoshizaki K. Improvement in Castleman's disease by humanized anti-interleukin-6 receptor antibody therapy. Blood. 95(1):56-61. 2000 キャッスルマン氏病7症例に対する抗IL-6受容体阻害抗体(hrPM-1)の投与報告。
* Nishimoto N, Yoshizaki K, Miyasaka N, Yamamoto K, Kawai S, Takeuchi T, Hashimoto J, Azuma J, Kishimoto T. Treatment of rheumatoid arthritis with humanized anti-interleukin-6 receptor antibody: a multicenter, double-blind, placebo-controlled trial. Arthritis Rheum. 50(6):1761-9. 2004 関節リウマチに対する抗IL-6受容体阻害抗体(MRA)の多施設無作為化比較試験。