不明熱(Fever of unknown origin: FUO)
定義・分類
RG PetersdorfとPB Beesonによる不明熱(Fever of unknown origin)の定義(1961)では、『発熱が3週間以上持続し,かつ少なくとも3回 38.3℃以上となり,1週間の入院精査にもかかわらず診断の確定しないもの』とされている。この「38.3度」というのは口腔内温度であり、腋窩温度であれば若干低くなる。一過性のウイルス感染症を除外するため3週間以上という基準が含まれている。
その30年後のDT DurackとAC Streetによりいくつかに区別された不明熱の定義(1991)では、入院精査が3日間に短縮されている。(Curr Clin Top Infect Dis 11:35-51 1991)。
古典的な不明熱 |
発熱が3週間以上続く |
38℃以上の発熱が数回出現する |
外来で3回、入院で3日間適切な検査(2日間の血液などの培養を含む)をしても原因不明 |
院内における不明熱 |
様々な急性疾患で入院した患者の発熱 |
潜伏期間も含め感染症を示す所見がない |
38℃以上の発熱が数回出現する |
3日間適切な検査をしても原因不明 |
好中球減少にともなう不明熱: petersdorf |
38℃以上の発熱が数回出現する |
好中球数が500/ul以下 |
3日間適切な検査をしても原因不明 |
HIV感染における不明熱 |
38℃以上の発熱が数回出現する |
血清診断によってHIV感染が証明 |
発熱期間は、外来で4週間以上、入院で3日以上 |
3日間適切な検査をしても原因不明 |
文献上の不明熱の内訳
内訳 | 1992年(n=199) | 1997年(n=167) | 2007年(n=73) | 当科2007年(n=88) |
感染症 | 22.7% | 25.7% | 16% | 17% |
悪性新生物 | 7.0% | 12.6% | 7% | 6% |
非感染性炎症性疾患 | 23.1% | 24.0% | 22% | 56% |
−膠原病 | (8.5%) | (11.4%) | | (44%) |
−血管炎 | (10.6%) | (8.4%) | | (9%) |
−肉芽腫性疾患 | (4.0%) | (4.2%) | | (1%) |
薬剤 | 3.0% | 1.8% | 3% | 3% |
詐病 | 3.5% | 1.2% | | |
その他 | 15.1% | 4.8% | | |
未確定 | 25.6% | 29.9% | 51% | 11% |
* 大嶋弘子他 順天堂医学 51:167-173 2005
(本邦の215例の解析。感染症47.4%では、頻度順に伝染性単核球症、髄膜炎、深部膿瘍、感染性心内膜炎、結核、智歯周囲炎など。悪性疾患6.5%では悪性リンパ腫が、非感染性炎症性疾患18.6%では亜急性壊死性リンパ節炎が多かった)
* Bleeker-Rovers CP et al. Medicine 86(1):26-38 2007
(病歴、理学所見、通常検査後、薬剤性発熱と詐病を除外した後、FDP-PETによる検索、胸腹部CT等画像検索で確認することをすすめている)
* de Kleijin et al. Medicine 76(6):392-400 1997
* Knockaert DC et.al. Arch Intern Med 152: 51-55. 1992
当科におけるFUOの原因(2002-2007, n=88)
膠原病およびその類縁疾患(56%) | n=49 |
リウマチ性多発筋痛症 | 12 |
全身性エリテマトーデス | 7 |
顕微鏡的多発血管炎 | 7 |
成人スティル病 | 5 |
多発筋炎/皮膚筋炎 | 3 |
RS3PE症候群 | 3 |
孤発性脳血管炎、再発性多発軟骨炎、未分類結合組織病 | 各2 |
関節リウマチ、結節性多発動脈炎、多発血管炎性肉芽腫症、ベーチェット病、若年性特発性関節炎 | 各1 |
感染症(17%) | n=15 |
伝染性単核球症 | 5 |
結核 | 3 |
細菌感染症(感染巣不明) | 2 |
感染性心内膜炎 | 2 |
サイトメガロウイルス感染症、クリプトスポリジウム感染症(HIV関連)、化膿性関節炎 | 各1 |
悪性腫瘍(6%) | n=5 |
悪性リンパ腫 | 3 |
固形癌、悪性胸膜中皮腫 | 各1 |
その他(10%) | n=8 |
薬剤性 | 3 |
自己炎症症候群 | 2 |
壊死性リンパ節炎、結節性紅斑、小腸クローン病、ミュンヒハウゼン病 | 各1 |
診断にいたらず(11%) | n=10 |
発熱の鑑別での留意
- 感染性心内膜炎:血液培養・心エコー(疣贅)・心雑音は、繰り返し確認する。ある診察機会に陰性であっても別の機会に陽性となりえる。
- 腹部深部の膿瘍:症状や理学所見に乏しい場合がある。画像で疑ったら留意しておく。
- 化膿性関節炎:痛みと熱感・緊満が著しい。穿刺して膿を確認する。
- 血管内リンパ腫:どこのリンパ節も腫れず、どこの臓器も障害されていないが、LDH・sIL2Rなどのリンパ球活性化の所見が持続している場合がある。
- 高安動脈炎:症状が自制内で日常生活を送れている状況でも、血管雑音・上肢虚血(血圧左右差など)・炎症値(CRP/血沈)がみられうる。
- ベーチェット病:炎症(発熱、関節炎、血管炎、皮膚炎など)が周期的で、その間は症状に乏しいことがある。
- 薬剤性過敏症症候群(DIHS):カルバマゼピン・フェニトイン・フェノバルビタール・ゾニサミド・アロプリノール・サラゾスルファピリジン・ジアフェニルスルホン・メキシレチン・ミノサイクリンなどの服用に併うウイルス活性化(HHV6など)、全身紅斑・肝障害を伴う。
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