MTX(メトトレキサート)|大阪大学 免疫内科

免疫疾患の診療

MTX

MTX(Methotrexate: メトトレキサート)

メトトレキサート(Methotrexate: MTX)は、葉酸を活性化する際に働く酵素を阻害し、その葉酸が補酵素として働かなくなることで、核酸やアミノ酸合成を阻害する。MTXは、関節リウマチ(RA)に低用量間欠投与で使用され、RA治療の中心的薬剤として治療成績を飛躍させた。我が国では、2011年から週16mgまでの投与が承認されている。

また、欧米ではMTXは、ステロイド減量効果のために、巨細胞性動脈炎、リウマチ性多発筋痛症に推奨され、その他皮膚筋炎、SLEなどの疾患でも使用が考慮されている。MTXは薬価が安く、比較的安全に長期使用でき、整形外科待機手術前後でも継続使用可能である。しかし、重篤な副作用も報告されており、リウマトレックス(MTXの商品名のひとつ)適正使用情報Vol.18によると、2012年までに、本邦でMTX使用RA患者465例の死亡報告がある。

死亡原因内訳は、
  • 血液障害161例(34.6%:汎血球減少97例、骨髄抑制39例、白血球減少18例など)
  • 肺障害131例(28.2%:間質性肺炎120例など)
  • 感染症83例(17.8%:ニューモシスチス肺炎25例、肺炎19例、敗血症11例など)
  • 悪性新生物63例(13.5%:リンパ腫36例、リンパ増殖性障害7例、白血病5例など)
  • 肝障害14例(3.0%:劇症肝炎5例など)
の順で、血液障害と肺障害が多い。また、感染症死亡例のうち25例(5.4%)がニューモシスチス肺炎(PCP)であることが目立っている。こうした重篤な副作用を避けるため、MTX投与前検査と、投与中の副作用モニター検査を定期的に行うべきで、さらに週一回の5mgの葉酸投与を併用することが望ましい。副作用全体の中では、口内炎、嘔気などの消化器症状、肝機能障害は頻度が高く、MTX用量依存性である。MTX関連リンパ増殖性疾患ではMTX中止だけで軽快することがある。腎機能が低下し、感染症をおこしやすい高齢患者では通常より少量から開始する。

服用方法の注意

関節リウマチでの処方では「内服は週に1〜2日のみの1機会」であることを患者に十分伝える必要がある。高齢患者の場合は家族に服薬管理をしてもらうことも考える。また、医師側の処方ミスを防ぐため阪大病院では連日での内服の処方指示ができないよう電子カルテ上にて制限を付け、服薬に関する注意を記したパンフレットを渡すなどしている。

MTX投与に際して行われることのある検査

血球検査

骨髄抑制により白血球や血小板が減少することがあるため、投与前値を確認する。好中球が異常低下した場合は、G-CSFのみでは回復しにくく、ロイコボリンを投与する。長期内服では葉酸欠乏による赤血球の大球性変化(MCVの上昇)をきたす。MCVが105を超えてくるようなら注意する。

肝酵素

AST、ALTが上昇するなら減量する。上限の3倍以上を超える場合はMTXを中断し、正常化ののち減量して再開する。

血清アルブミン

アルブミン低値は、MTX肺炎のリスク因子との報告がある。

血清クレアチニン、腎機能

腎障害が存在する場合、MTXの血中濃度が上昇して副作用が出やすくなる。筋量の少ないRA患者では、血清クレアチニンが低値になりやすく、腎機能の指標として不適切な場合があり、その場合はシスタチンCの測定が勧められる。eGFR 60ml/minを下回る場合は特に注意する。

胸部レントゲン

既存の肺疾患(間質性肺炎など)は、MTX肺炎のリスク因子とされる。活動性の感染症がある場合はMTX投与を控える。

B型肝炎、C型肝炎、HIV検査

活動性肝炎がある場合は投与しない。B型肝炎の既往感染であっても、HBV-DNAを定期的にフォローし、免疫抑制によるde novo肝炎に注意する。

ツベルクリン反応、結核菌IFNγ分泌試験

MTX使用中に結核発症のリスクが上昇すると報告されており、陽性の場合はイソニアジド予防内服を考慮する。

妊娠していないことの確認

MTXには、妊娠に際して胎児の奇形や不可逆的障害の発生頻度を増す可能性がある。妊娠を予定する男性・女性は、最低3ヶ月間はMTXを使用しないこと、女性の妊娠中・授乳中は使用しないこと、が強く推奨される。

MTX肺炎

MTX肺炎は薬剤に対する過敏反応であり、乾性咳嗽や呼吸困難感を訴え、比較的速い進行の呼吸器障害とCRP上昇を伴う間質性肺炎として現れる。MTXの投与量、投与期間は関係ないと考えられており、約1%の頻度で現れる。MTXを中止するとともにステロイドを投与する。以降、MTXは使用しない。MTX肺炎の危険因子に関していくつかの報告がある。

MTX肺炎のリスク因子(Alarconら)
1.高齢(>60歳)
2.リウマチ性の肺病変、胸膜病変あり
3.DMARDsの使用歴
4.低Alb血症(発症前or治療中)
5.糖尿病
MTX肺炎のリスク因子(Ohosoneら)
1.高齢
2.既存の間質性肺炎・肺線維症の存在
3.過去に投与されたDMARDsへの副作用歴

* リウマトレックス適正使用情報Vol.18
* 日本リウマチ学会 『関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン』
* Visser K et al. Ann Rheum Dis, 68(7): 1086, 2009
* Alarcon GS et al. Ann Intern Med, 127: 356, 1997
* Ohosone Y et al. J Rheumatol, 24: 2299, 1997

MTX使用中の間質性肺炎

MTX使用中に間質性肺炎を生じた場合、関節リウマチによる肺炎(リウマチ肺)、非定型肺炎、MTX肺炎、ニューモシスチス肺炎(RA-PCP)の鑑別が必要となる。MTX肺炎であればMTXは今後使用できないが、PCPでは肺炎の治療後にMTXの再開は可能で、以後の治療方針が左右される。MTX肺炎、PCP(RA-PCP)を理解する為に、AIDS患者でみられるPCP(AIDS-PCP)と比較して述べる。

CT画像の検討

徳田均らのMTX肺炎10例、AIDS-PCP11例、 RA-PCP14例の検討でCT画像を3タイプに分けている。

Type画像の特徴
TypeAGGO(ground-grass opacity: すりガラス影)が均一に肺門から胸膜まですきまなく拡がり、基盤の目あるいは市松模様のような形で明確な境界が認められる。1つ1つが小葉を反映し「汎小葉性」分布と言われる。
TypeBGGOの陰影の濃淡は無秩序で規則性が無い(健常肺との境界が不明瞭)。
TypeCGGOと浸潤影が混合している。

MTX肺炎はTypeAが多く(7例、70%)、AIDS-PCPはTypeBが多い(10例、91%)。しかし、RA-PCPはTypeA 6例(43%)、TypeB 5例(36%)、TypeC 3例(21%)と特徴的なパターンはなかった。

症状や検査の特徴

MTX肺炎とRA-PCPは比較的急速に進行するのに対して、AIDS-PCPは緩慢に進行することが多い(診断までの日数)。CRPは、MTX肺炎とRA-PCPではAIDS-PCPより高値。β-D-glucan は、AIDS-PCPではRA-PCPより10倍高い。これは、RA-PCPでは菌量が少ないのに強い炎症反応が生じており、免疫能をある程度保ちながら肺炎を生じていることが伺われる。AIDS-PCPでは、基礎疾患の特徴としてCD4リンパ球数が極度に低い免疫不全であり、菌量が多いことが伺われる。

項目MTX肺炎RA-PCPAIDS-PCP
診断まで日数8.0 ±6.07.6 ±6.437.8 ±24.3
CRP(mg/dl)11.6 ±6.28.6 ±4.82.3 ±2.2
βD-glucan(pg/ml)正常98.5 ±94.8969.5 ±1064.6

ニューモシスチス肺炎(PCP)の診断

MTX肺炎とRA-PCPを臨床症状やCT画像だけで鑑別することは難しく、βD-glucan値とともに喀痰やBAL(気管支肺胞洗浄)検体で、P.jiroveciiの有無(検鏡やPCR法)を検討する。和光純薬(阪大採用)のβD-glucan検査では、陽性カットオフ値は11pg/mlだが、PCP診断のカットオフ値として31.1pg/mlとすると、感度92.3%、特異度86.1%である。P.jiroveciiの染色法には鍍銀染色、Diff-Quik法、直接・間接蛍光抗体法があり、これらはAIDS-PCP検体で感度90%、特異度90-100%である。PCR検査でも検出可能だが、高齢RA患者ではP.jiroveciiを保菌していることが多く、偽陽性の可能性があることを心に留めておく。

誘発喀痰、蓄痰の検体、BAL検体などで菌体の検出を試みる。ただしRA-PCPはAIDS-PCPと違ってP.jiroveciiの菌量が少なく、喀痰で検出できない可能性もある。

RA-PCPの病理機序

PCPを考える上で、菌の増殖と宿主の免疫反応のふたつの要素を考えなければならない。P.jirovecii自身は組織障害性が低く、組織障害は主にこの菌に対する「宿主の免疫反応」による。AIDS-PCP の場合は宿主の免疫反応が弱くP.jiroveciiが大量に増殖し発病に至る(菌側の因子の寄与が大)。一方RA-PCPは、AIDS-PCPに比べて菌量が1/10程度でも、炎症は強く肺障害は深刻であり、症状は「宿主の免疫反応の強弱」に規定される(宿主側の因子の寄与が大)。

RA-PCPのリスク

AIDS-PCPでは、発症リスクが末梢血CD4リンパ球数で評価されうる。しかし、一般に免疫抑制治療中の患者では、年齢50歳以上で、かつ以下のうちいずれかを満たす場合に、ST合剤内服あるいはペンタミジン定期吸入の予防が推奨される。

  1. プレドニゾロン換算 1.2mg/kg/日以上
  2. プレドニゾロン換算 0.8mg/kg/日以上かつ免疫抑制剤併用時
  3. 免疫抑制剤使用中で末梢血リンパ球数500/μL以下

RA患者における、TNF阻害薬使用時のPCP危険因子の報告として、年齢(65歳以上)、呼吸器疾患合併、ステロイド6mg以上、の3つが指摘されている。3つあると半年以内に8割の患者でPCP発症が認められた。なおST合剤の投与においては、MTXろの併用での骨髄抑制に注意を要する。

症例

78歳女性

【画像】TypeA
10年前にRA発症。呼吸器疾患の合併や糖尿病はなし。MTX 12mg/week、PSL 11mg/day、TAC 2mg/dayを内服。数日前より全身倦怠感、歩行時呼吸困難が出現。喫煙歴: 10本×20年。
【所見】 SpO2 90%(酸素2L/分)。WBC 6890/μl (Ly 10.9%)、CRP 9.1 mg/dl、IgG 968 mg/dl、β-D-glucan 243.2 pg/ml
【喀痰】P.jirovecii検出(間接蛍光抗体法)
ニューモシスチス肺炎と診断し、MTX・TAC中止。ST合剤 12g/day×14日、同時にmPSL 500mg/day×3日、その後PSL 60mg/day×5日、30mg/day×5日、15mg/dayと減量した。ST合剤 12g投与中に低Na血症をきたしたが、Naを補給しつつ継続し、肺炎は改善した。ST合剤を予防量(1g)まで減じた。第20病日退院。外来にてMTXを再開した。本患者は高齢でもあり、ステロイドをさらに減量する必要があった。

参考文献

* リウマトレックス適正使用情報Vol.18
* Tokuda H et al. Intern.Med.,2008;47:915
* Tasaka S et al.Chest 2007;131:1173-1180
* Cregan P et al.J.Clin.Microbiol.1990;28(11):2432-36
* 免疫疾患に合併するニューモシスチス肺炎の予防基準. 厚生労働省免疫疾患の合併症と治療法に関する研究班 2004年度報告書
* Harigai M et al.New Eng J Med.2007;357(18):1874
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