シェーグレン症候群|大阪大学 免疫内科

免疫疾患の診療

シェーグレン症候群 Sjögren syndrome (SjS)

概要

口腔乾燥症(xerostomia)と乾燥性角結膜炎(keratoconjunctivitis sicca: KCS)をきたし、抗Ro(SS-A)抗体、抗La(SS-B)抗体などの免疫異常とポリクローナル抗体増加を伴う自己免疫疾患である。涙腺、唾液腺、上気道、膣などの外分泌腺障害による乾燥症状とともに、関節、肺、腎臓、甲状腺などが障害されうる。

19世紀に外科医ミクリッツが報告した時は、乾燥症状より外分泌腺の腫大に主眼がおかれていた。20世紀にスウェーデンの眼科医師シェーグレン(Henrik Sjögren)は乾燥症状に注目し、関節リウマチを合併した乾燥症状という疾患概念が定着した。現在は単独で発症する一次性シェーグレン症候群と、関節リウマチなどの自己免疫疾患に伴う二次性シェーグレン症候群に分類される。

本症と同様に乾燥症状を呈するミクリッツ病は、IgG4との関連がある可逆性病態であり、自己免疫性膵炎や後腹膜線維腫などと共に全身性IgG4関連症候群に分類されている。

日本では人口10万人あたり15人程度で、男女比は約 1:17と女性に多い。発症年齢としては20-30歳代と中年-50歳代の2つピークがある。

病因

遺伝的素因などの内的因子にウイルス感染などの環境因子が加わり、免疫異常を起こすと考えられる。ウイルス感染などによる唾液腺などの外分泌腺の障害により、抗原提示やサイトカインの産生等が起こり、T細胞系が活性化される。ついで、外分泌腺にリンパ球の浸潤が起こり外分泌腺の破壊がさらに進んでいく。同時に起こるB細胞系の活性化により、自己抗体(抗SS-A抗体や抗SS-B抗体など)を含むポリクロナールな免疫グロブリンの産生が引き起こされる。リンパ系の活性化が慢性的に持続するうちに、リンパ球が外分泌腺以外の臓器にも浸潤する様になり、腺外症状が出現する。さらに慢性的なリンパ球の活性化が続くとリンパ系の悪性腫瘍の発症をみることがある。

症状

腺病変
乾燥性角結膜炎眼の違和感(ころころする)、眼痛、涙が出ない、まぶしさ、充血など
口腔乾燥症乾いた食物の飲み込み難さ(クラッカーサイン)、発声困難、口腔灼熱感、味覚変化、歯周病・う歯の増加
その他の乾燥症耳下腺腫脹、乾性咳嗽(上気道の乾燥)、性交時痛(膣の乾燥)など
腺外病変
関節炎約半数に関節痛
皮膚症状顔面・背部・四肢などに繰り返す環状紅斑、下肢の点状紫斑、レイノー症状
甲状腺障害機能低下症、または機能亢進症
間質性肺炎リンパ球性間質性肺炎(lymphocytic interstitial pneumonia)
消化器障害唾液減少による嚥下障害、吐気・心窩部痛・消化不良など、組織学的に萎縮性胃炎
膵病変自己免疫性膵炎の合併
肝障害原発性胆汁性肝硬変・自己免疫性肝炎の合併
腎障害間質性腎炎(尿細管萎縮、遠位尿細管性アシドーシス)、低カリウム性四肢麻痺
膀胱障害間質性膀胱炎の合併、頻尿、夜間尿
神経障害末梢神経障害(四肢末端の知覚低下、筋力低下)、三叉神経炎・視神経炎・精神症状などの中枢神経障害

検査所見

血液検査では、疾患特異的な自己抗体として抗Ro(SS-A)抗体、抗La(SS-B)抗体があり、高頻度に陽性となる。リウマトイド因子(RF)はしばしば陽性となる。また多クローン性の免疫グロブリンの増加をきたす。

口腔検査では、唾液分泌量はガムテストで評価する。10分間ガムを噛んで唾液を集めると健常人では10mL以上の唾液が分泌される。唾液腺造影では、破壊が進むと特徴的なapple tree像が見られる。MRIでは唾液腺の構造破壊を精査できる。唾液腺シンチグラフィーでは唾液腺機能を評価するが、アイソトープの唾液腺への集積と刺激による口腔への排泄を確認することができる。

涙の分泌量は下眼瞼にろ紙をはさみどれだけ濡れるかを見るシルマーテストにて評価する(正常は5分で5mm以上濡れる)。角膜の損傷程度は色素染色による評価法(ローズべンガル試験、蛍光色素試験)にて行なう。

組織検査は診断において重要な検査である。下口唇裏側の小唾液腺の生検が良く行なわれる。50個以上の形質細胞やリンパ球の浸潤したfocusが4mm2に1カ所以上あることが所見となる。

診断

口腔乾燥と自己抗体出現だけで安易にシェーグレン症候群と診断せず、乾燥症状や免疫異常に加えて客観的な組織所見が診断に重要である。多彩な腺外病変の合併があるため全身検索が必要となる。診断には1999年の厚生労働省の診断基準を用いる。抗ヒスタミン剤や抗コリン作用(ムスカリン受容体遮断薬)を持つ頻尿治療剤、抗うつ薬などの内服でもしばしば口腔乾燥をきたすため、薬剤性乾燥症状の除外が必要。

Sjsの診断基準:厚生省1999年

1: 生検病理組織検査(次のいずれか)
口唇腺組織で4mm2辺り1focus(導管周囲に50個以上のリンパ球浸潤)以上
涙腺組織で4mm2辺り1focus以上
2: 口腔検査(次のいずれか)
唾液腺造影でstageI(直径1mm未満の小点状陰影)以上の異常所見
唾液分泌量低下(ガム試験にて10分間で10ml以下またはSaxonテストで2分間で2g以下)があり、かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見
3: 眼科検査(次のいずれか)
Schirmer試験で5分間に5mm以下で、かつローズベンガル試験(Van Bijsterveldスコア)で3以上
Schirmer試験で5分間に5mm以下で、かつ蛍光色素試験で陽性
4: 血清検査(次のいずれか)
抗Ro/SS-A抗体陽性
抗La/SS-B抗体陽性
* 上記4項目のうち、2項目以上で診断する

治療

根治的な治療法はないので、乾燥症状に対する対症療法が基本となる。

乾燥性角結膜炎には点眼による涙液補充が行なわれる。涙蒸発防止のためのゴーグルや、涙点プラグによる鼻涙管の閉塞も有効である。ムチン産生促進剤であるジクアホソルナトリウム点眼、レバミピド点眼が使用されることもある。口腔乾燥症状に対して副交感神経ムスカリン受容体(M3)刺激薬であるセビメリンやピロカルピンが用いられる。人口唾液や水分補給による口腔内乾燥の防止に努め、口腔内の感染対策としてうがいなども重要である。

リンパ球などの浸潤による臓器障害がみられる場合、ステロイドや免疫抑制剤を投与することがある。原発性胆汁性肝硬変の治療はウルソが中心であるが、自己免疫性肝炎の治療ではステロイドが中心となる。間質性腎炎、間質性肺炎、末梢神経障害、中枢神経障害、血球減少などが顕在化、進行する場合は、ステロイドや免疫抑制薬の投与が検討される。欧米では難治性の臓器障害に対してRituximab投与の有効性が報告されている。

半数程度は乾燥症状のみに留まる軽症であるが、残る半数はリンパ球の臓器浸潤による腺外症状が出現するようになるとされる。リンパ球系の悪性腫瘍(リンパ腫)が出現することが、5%程度あるとされている。

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