関節リウマチでしばしば認められるリウマトイド因子や抗CCP抗体が陰性であり、付着部炎の症状を伴う関節症である。日本人の一般人口での保有率が0.2%であるHLA-B27を持つ頻度が高く、B27関連関節炎とも呼ばれる。HLA-B27陰性者の調査ではHLA-B39の関連の報告もある。
本疾患概念は、強直性脊椎炎(68%)、乾癬性関節炎(13%)、反応性関節炎(4%)、腸炎関連関節炎(2%)などを含む。関節リウマチと比較して、関節炎生じる部位が異なることが多く、さらに、それぞれの疾患は特徴的な合併症によって分類される。SAPHO症候群(5%)も類似した症状をとる場合がある。
共通してみられやすい所見 | |
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体軸系(仙腸関節や脊椎)の関節炎、腱付着部炎(アキレス腱や肩など)、指趾炎(ソーセージ様)、眼病変(ぶどう膜炎)、下痢(腸炎)、リウマチ因子陰性、HLA-B27陽性、男女比 3〜5:1と男に多い | |
強直性脊椎炎 Ankylosing Spondylitis(AS) | |
概要 | 体軸系(仙腸関節や脊椎)に慢性的に持続する関節炎。男女比 2:1で10〜20代の若い男性に多い |
症状 | 頑固な臀部痛、腰痛、背部痛が多く、不定愁訴的にとらえられて診断まで時間を要することがある。症状は朝に強く、動き始めると軽快する。仙腸関節炎はほぼ必発で、最も早期に炎症性変化をおこす。緩徐に脊椎上行性に強直し、脊椎の運動制限(前・後・側屈の全方向)が生じる。腰椎前弯が喪失すると、背中が丸くなり前屈円背姿勢となる。肋骨脊椎関節および肋骨横突起関節に病変がおよぶと胸郭拡張性が低下する。 |
検査所見 | 炎症反応(血沈、CRP)の上昇がみられうるが、必ずしも上昇しない。HLA-B27は90%で陽性。最近は相同性の高いHLA-B39陽性の報告が増えている。長期間が経過すると典型的なX線像、Bamboo spineがみられる(椎体の前縦靭帯と後縦靭帯の骨化により脊柱が竹状に見える)。付着部に石灰化を認めることがある。 |
診断 | 改訂NewYork基準 1984年、またはASAS分類基準。疾患活動性指標としてBASDAI(the Bath Ankylosing Spondylitis Disease Activity Index)、関節機能や生活障害の指標としてBASFI(the Bath Ankylosing Spondylitis Functional Index)が用いられる。 |
治療 | 第一選択薬はNSAIDs。末梢関節炎を伴う場合は、スルファサラゾピリジンやメトトレキサートなどの抗リウマチ薬が有効な場合がある。難治性の場合は、抗TNFα抗体製剤を使用する。靭帯の骨化予防にNSAIDsの定期的内服が屯用内服より有効だったとの報告がある。適度な運動は推奨される。 |
乾癬性関節炎 Psoriatic Arthritis(PsA) | |
概要 | 皮膚疾患である乾癬に合併してみられる関節炎。男女比は同率である。関節破壊をきたしうる。 |
症状 | 単関節炎から多関節炎、脊椎炎と様々に関節炎を生じる。関節リウマチで病変の典型である手指PIPとは異なり、手指のDIP関節が罹患することが特徴である。皮膚症状が先行することが大部分である。爪の点状陥凹、爪甲剥離などの爪病変がしばしばみられる。 |
検査所見 | 炎症反応(血沈、CRP)の上昇がみられうるが、必ずしも上昇しない。進行例ではレントゲン上関節破壊像がみられる。DIP関節での遠位末節骨の骨増殖と近位の中節骨の先細りを伴う骨吸収像がみられる(pencil in cup変形)。 |
診断 | CASPAR診断基準。 活動性指標として、PASFI(psoriasis area and severity score)などの評価法が用いられる。 |
治療 | 皮膚病変と関節病変に対し、皮膚科医とともに治療に当たる。関節炎に対してはNSAIDsが第一選択で、活動性が高い場合はメトトレキサート、シクロスポリンなどを追加する。抗TNFα抗体製剤は乾癬と関節炎の両方に効果がある。抗体IL12/23抗体製剤、抗IL-17抗体製剤も有効であり治療選択が広がりつつある。 |
反応性関節炎 Reactive Arthritis | |
概要 | 尿路感染症や感染性腸炎のあとにひきおこされる関節炎。 |
症状 | 尿路感染症(クラミジア)や下痢症状(サルモネラ菌,エルシニア,キャンピロバクター,細菌性赤痢)などの細菌感染症の1〜3週間後に、急性発症する無菌性関節炎。膝や足関節等の比較的大関節に非対称性に関節炎が生じることが多い。尿道炎+結膜炎+関節炎の3症状が現れた場合をReiter症候群とよぶ。先行する感染症が不顕性のことがある。 |
検査所見 | |
診断 | 関節炎や腱付着部炎の診察所見と、先行する感染症についての病歴聴取が重要である。 |
治療 | 多くの場合、自然に改善する傾向にあるため、NSAIDSによる対症療法で十分な場合が多い。 |
腸炎関連関節炎 | |
概要 | 慢性の炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎やクローン病に伴う関節炎で、およそ10〜20%程度でみられる。結節性紅斑や壊疽性膿皮症などの皮膚病変を伴うことがある。 |
項目 | |
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前提として、末梢・脊椎関節炎または付着部炎を有する must have inflammatory articular disease (joint, spine or entheseal) | |
1. | 乾癬の存在・既往・家族歴(2親等まで) Evidence of current psoriasis, a personal history of psoriasis, or family history of psoriasis |
2. | 典型的な爪変化(爪剥離・陥凹・角化) Typycal psoriatic nail dystrophy (Onycholysis, pitting and hyperkeratosis) |
3. | リウマトイド因子陰性 Negative test for rheumatoid factor |
4. | 指趾炎の存在・既往 Current dactylitis or a history of dactylitis |
5. | 手足の関節近傍の骨新生変化(X線による) Radiographic evidence of juxtaarticular new bone formation on plain radiography of the hand or foot |
1987年に提案された、皮膚・骨・関節に症状を認める疾患の概念。体軸の関節が侵されやすく、一部にHLA-B27陽性の頻度が高いとする報告があり、潰瘍性大腸炎・クローン病を合併する頻度が高いことより、脊椎関節症(SpA)との関連を示唆する意見もある。掌蹠膿疱症や重症座瘡などの皮膚症状と、前胸部の鎖骨・胸骨・肋骨を中心とした関節症状を特徴とし、扁桃腺の腫大や口腔内感染・アレルギーとの関連が疑われている。
SPAHO症候群の特徴 | ||
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滑膜炎 | Synovitis | 体軸(脊椎、椎間板、靭帯骨棘)および末梢の関節炎 |
座瘡 | Acne | 重症座瘡(集簇性座瘡、汗腺膿瘍など) |
膿疱症 | Pustulosis | 掌蹠膿疱症 |
骨化症 | Hyperostosis | 骨のびらんと新生が混在しやがて骨化する(骨硬化による腫大) |
骨炎 | Osteitis | 無菌性の骨炎(鎖骨・上部肋骨など前胸部に多い) |
120例(女性70例、男性50例)を解析した報告によると、診断時の年齢は37.7歳(5〜67歳)、皮膚症状先行が39%、関節症状先行が32%、同時が29%であった。皮膚症状では、座瘡や膿疱症のほか、尋常性乾癬様の症状も多い(10〜28%)。治療は、NSAIDsが主であるが、関節症状の強い例には抗リウマチ薬(MTXなど)、難治性の関節・皮膚病変には抗TNFα製剤の有効性も報告されている。