大動脈ならびに分岐動脈(腕頭動脈、鎖骨下動脈、椎骨動脈、腹腔動脈、腎動脈)、冠動脈、肺動脈に炎症を生じ、動脈内腔の狭窄・閉塞・拡張・瘤形成を生じる血管炎で、四肢や臓器に血流障害の症状がみられる。男女比は1:9で、20歳代の女性に好発する。アジア、中東、南米に多く、HLA-B52・B39との関連が指摘されている。
本疾患は、1908年、金沢医学専門学校の眼科医である高安右人(たかやすみきと)により、眼底変化(花冠状吻合)を伴う22歳女性の症例として報告され、世界中でTakayasu's arteritisという呼称が広く用いられる。本邦では大動脈炎症候群と呼ばれることが多い。
しばしば原因不明の炎症として経過し、血管の狭窄による虚血症状を呈する頃に診断されることがあり、早期に本疾患を疑うことが重要である。
炎症に伴う発熱(微熱が長く続くことが多い)、倦怠感や易疲労感、血管痛による頸部痛や胸痛などを自覚する。洗髪していると腕がだるくなる、血圧計で血圧が測りにくい、めまいが起こりやすいなど、血管狭窄部位による虚血症状がみられる。頭部症状(めまい、頭痛、失神発作、咬筋疲労、片麻痺)、眼症状(眼前暗黒感、一過性視力障害、持続性視力障害、失明)、上肢症状(血圧左右10mmHg以上の差、易疲労感、冷感、しびれ感、脈なし)、心症状(息切れ、動悸、胸部圧迫感)、呼吸器症状(血痰、呼吸困難)、高血圧、下肢症状(間欠跛行)、などである。病変部で血管雑音(bruit)を聴取することがある。
このような血管狭窄の症状が完成する前に診断することが大切である。そのためには、若い女性が原因不明の慢性炎症をきたしているときに、本疾患を念頭におき、画像検査で積極的に本疾患を検索する。
血液検査では、CRPなどの急性期蛋白質の上昇、慢性炎症に伴う貧血など一般的な炎症所見を認める。血清のPentraxin3(SRLで測定可能)高値と疾患活動性の相関の報告がある。画像検査ではガドリニウム造影MRIが有用で、大血管壁の炎症を検出する。造影CTでは動脈壁の全周性のドーナツ状の肥厚や内腔の狭窄が観察され、血管エコーでは炎症壁の低エコーを反映するハローサインが見られる。血管の炎症範囲は血管走行部位に沿って連続している。炎症が長期におよぶと動脈壁の石灰化が生じる。FDG-PETやGaシンチにて血管に沿った炎症像がみられることがある。
画像検査によって得られた罹患病変部位により6型に分類され、さらに冠動脈病変、大動脈弁閉鎖不全症、肺動脈病変を合併するかで予後が異なる。
Type | |
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T | 大動脈弓分枝のみ |
Ua | 上行大動脈、大動脈弓とその分枝 |
Ub | Uaに加えて胸部下行大動脈 |
V | 胸部下行大動脈、腹部大動脈、腎動脈、あるいはそれらの組み合わせ |
W | 腹部大動脈、腎動脈、あるいはその両方 |
X | 全大動脈とその分枝、Ub+W |
項目 | |
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1. | 高安大動脈炎と関連する症状や所見が40歳以下で出現 |
2. | 一つ以上の四肢、特に上肢で、運動時に筋肉の疲労感や不快感が増悪する |
3. | 片側または両側上腕動脈の脈動の低下 |
4. | 両上肢間で収縮期血圧が10mmHg以上差がある |
5. | 片側あるいは両側の鎖骨下動脈、あるいは腹部大動脈で血管雑音を聴取する |
6. | 大動脈、主要分枝、四肢の中枢の大血管で画像上の狭窄や閉塞を認める。ただし動脈硬化、線維筋性異形成などによるものではない |
ステロイド(0.5〜1mg/kg)を中心に、ステロイド減量困難例では免疫抑制剤(MTX、アザチオプリンなど)を併用する。炎症を鎮静化することを目指す。難治症例に対して、抗TNF抗体や抗IL-6受容体抗体による有効例の報告もある。狭窄や血栓形成による梗塞を予防のため、抗血小板薬を併用することがある。
血流障害が進行した場合は、血行再建術、大動脈閉鎖不全に対しての弁置換術などの外科的治療が必要となる。若年女性に多い疾患であり、妊娠が問題になる。妊娠それ自体は疾患を悪化させないが、高血圧の管理が大切である。また、腹部大動脈病変、腎動脈病変、妊娠高血圧、妊娠中毒症の合併などが胎児の予後に関与する。
推奨度A | 複数の無作為比較試験 |
推奨度B | 少なくとも一つの比較試験など |
推奨度C | 記述的研究 |
MRAやFDG-PETは、診断の補助と罹患動脈の範囲の診断に有用である。高安動脈炎は画像や血管外科の専門家のいる施設で診療されることが望ましい。
病理組織診は、巨細胞性血管炎の標準診断法で、罹患している側頭動脈の生検は試みるべきだ。広い範囲を観察できるよう1cm長の血管生検を勧める。不可逆的な眼症状のリスクがあるため、巨細胞性動脈炎を強く疑う時は生検を待たずに高用量ステロイドを開始する。後日での生検は、ステロイド開始後1〜2週間以内に行う。超音波検査で側頭動脈血管壁の浮腫をみとめうる。
初期の高用量ステロイドを用いた集中的治療は、大血管炎に寛解を誘導する。診断時には、18%に片側の視力低下が見られるという報告がある。眼症状の発症早期のステロイドパルスは有用である。ステロイド初期量は、1mg/kg/day(最大で60mg/day)で、1ヶ月間は初期量を維持しその後に漸減して行く。多くの臨床試験では、3ヶ月の時点で10-15mg/dayまで減量している。巨細胞性動脈炎でのステロイド使用期間は様々で数年に及ぶこともある。全ての患者は禁忌がない限り骨粗鬆症対策を受けるべきだ。
巨細胞性血管炎の10年追跡調査では、86%の患者にステロイドの副作用がみられた。MTX(10-15mg/week)の使用で再燃やステロイドの減量ができた。高安動脈炎で、ステロイド治療にも関わらず潜在性に活動性を残すことがあり、アザチオプリン(2mg/kg/day)やMTX(20-25mg/week)がステロイドに併用される。シクロフォスファミドの小規模試験がある。
大血管炎に対する有効なバイオマーカーはないため、臨床症状と炎症マーカーをもとに治療変更を決定する。高安動脈炎では、定期的なMRIは疾患活動性評価の補助となる。PET検査も有用である。頚動脈や鎖骨下動脈への超音波検査も限定的証拠がある。巨細胞性動脈炎の再燃は、通常血沈やCRPの上昇を伴う。巨細胞性動脈炎の9-18%は、動脈瘤や動脈解離を形成するので血管雑音が聴取される場合は、大動脈造影を行う。ステロイド内服中に再燃した場合は、5-10mg/dayの増量でも十分であることがある。眼症状や神経症状の再燃がない場合は、1mg/kg/dayまでの増量は通常は必要ない。
心血管や脳血管イベントのリスクが高く、低用量アスピリン(75-150mg/day)を追加する。アスピリン開始時に胃粘膜保護剤を併用する。
腎血管性高血圧の症例など、高安動脈炎の7割は動脈再建術やバイパス術が必要かもしれない。しばしば再手術が必要となる。血管形成術やステント挿入は再狭窄率が高いが一部の患者で適応がある。待機手術は疾患寛解期に行うべきである。
巨細胞性動脈炎 | 中〜大血管炎(大動脈およびその分岐)を呈し高安動脈炎との鑑別を要する。高安動脈炎と比べ、より高齢者(50歳以上)に多い。日本では少なくヨーロッパに多く、HLA-DR4との関連が指摘されている。頭部の動脈が病変となることも多く(側頭動脈炎)、浅側頭動脈部の圧痛は特徴的である。約半数ではリウマチ性多発筋痛症を併発し、肩周囲痛やこわばりを自覚する。高安動脈炎の特徴である上肢の虚血症状は15%程度でしか見られない。 |
IgG4関連大動脈炎 | IgG4関連疾患の一つとして大動脈中膜にリンパ球、形質細胞浸潤が見られ、形質細胞でIgG4の染色陽性を認める。大動脈解離を生じることもあるがステロイドへの反応は良い。黄色ブドウ球菌慢性感染性大動脈炎でも大動脈局所でIgG4産生形質細胞の増加が見られ、感染症によるTh2分化を介したIgG4産生形質細胞の浸潤が考えられている。 |
動脈硬化症 | 大血管のプラーク部位での炎症がFDG-PETで検出されることがあり、高安動脈炎との鑑別が必要となる。通常プラーク形成は病変が局所性分節性であることが多い。 |
炎症性腹部大動脈瘤 | 腹部大動脈瘤の5-10%を占める。炎症マーカーの軽度上昇、動脈瘤壁の著しい肥厚や周囲への炎症の波及が特徴。 |
感染性大動脈瘤 | 白血球やCRPの上昇、発熱や腹痛の所見、造影CT上炎症動脈部位から周囲への炎症の波及などを特徴とする。血液培養で細菌を検出することがなくても、炎症血管壁から10〜27%で原因菌を同定することがある。準緊急手術となる。 |
梅毒 | 梅毒感染後15〜30年後に生じる後期梅毒の症状で、現在では稀である。冠動脈と大動脈が侵される。大動脈では上行大動脈に拡張と大動脈弁閉鎖不全を伴う。 |