ANCA関連血管炎(ANCA associated vasculitis:AAV)|大阪大学 免疫内科

免疫疾患の診療

ANCA関連血管炎(ANCA associated vasculitis:AAV)

Chapel Hill会議(2012年)で、小血管炎はANCA関連血管炎と免疫複合体性小血管炎に分類された。ANCA関連血管炎は、ANCA(anti-neutrophil cytoplasmic antibody、抗好中球細胞質抗体)と関連した毛細血管や細動静脈などの小血管の壊死性血管炎である。ANCAには核周囲が染まるp-ANCA(perinuclear-ANCA)と、細胞質が染まるc-ANCA(cytoplasmic-ANCA)がある。p-ANCAの代表的な抗原はMPO(myeloperoxidase)、c-ANCAの代表的な抗原はPR3(proteinase 3)である。

ANCA関連血管炎は、顕微鏡的多発血管炎(Microcscopic polyangitis: MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(Granulomatosis with polyangitis: GPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Eosinophilic Granulomatosis with polyangitis: EGPA)の3つに分類される。腎限局型ANCA関連血管炎(Renal Limited AAV)は、顕微鏡的多発血管炎の腎限局型である。

顕微鏡的多発血管炎ではp-ANCA陽性が多く、多発血管炎性肉芽腫症ではc-ANCA陽性が多い。MPOやPR3以外に対するANCAも存在し、海外(EULAR)では間接蛍光抗体法によるANCA同定検査も推奨されている。本邦では、ANCA関連血管炎は10万人当たり1.9人、その大部分が顕微鏡的多発血管炎とされ、多発血管炎性肉芽腫症が多い欧米とは疾患の割合が異なる。

AAVの分類
略語疾患名旧名称
MPA顕微鏡的多発血管炎
GPA多発血管炎性肉芽腫症ウェゲナー肉芽腫症
EGPA好酸球性多発血管炎性肉芽腫症アレルギー性肉芽腫性血管炎、
チャーグストラウス症候群

ANCA関連血管炎に関してのガイドライン

BSR and BHPRガイドラインRheumatology 2007
EULAR推奨2009Ann Rheum Dis 2009
ANCA関連血管炎の診療ガイドライン尾崎承一、槇野博史、松尾清一ら 2011年
EULAR推奨2015Ann Rheum Dis 2016
* BSR: The British Society for Rheumatology
* BHPR: British Health Professionals in Rheumatology
* EULAR: European League Against Rheumatism

血管炎活動性の評価

BVAS(Birmingham Vasculitis Activity Score 2008 version 3)のスコアにより、9項目56所見が加算される。(http://www.epsnetwork.co.uk/BVAS/bvas_flow.html)

1.全身症状筋痛、関節痛/関節炎、38.0度以上の発熱、2kg以上の体重減少
2.皮膚病変梗塞、紫斑、潰瘍、壊疽、多の皮膚血管炎
3.粘膜/眼病変口腔潰瘍、陰部潰瘍、付属器炎、眼球突出、強膜炎/上強膜炎、結膜炎/眼瞼炎/角膜炎、霧視、突発性視野欠損、ぶどう膜炎、網膜異常(血管炎/血栓症/滲出物/出血)
4.耳鼻咽喉病変鼻出血/痂皮形成/潰瘍/肉芽腫/、副鼻腔炎、声門下狭窄、伝音性難聴、感音性難聴
5.胸部病変喘鳴、結節または空洞、胸水/胸膜炎、気管内病変、大量喀血/肺胞出血、呼吸不全
6.心血管病変脈拍消失、心弁膜症、心外膜炎、狭心痛、心筋症、うっ血性心不全
7.腹部症状腹膜炎、血性下痢、虚血による腹痛
8.腎病変高血圧、蛋白尿(>1+)、血尿(>10RBC/HPF)、Cr 1.4-2.79mg/dl、Cr 2.8-5.69mg/dl、Cr>5.7mg/dl、Cr上昇(>30%)またはCcr低下(>25%)
9.神経病変頭痛、髄膜炎、器質性錯乱、痙攣、卒中発作、脊髄病変、脳神経麻痺、末梢神経障害(知覚)、運動性多発単神経炎
* Mukhtyar C et al. Modification and validation of the Birmingham Vasculitis Activity Score (version 3). Ann Rheum Dis. 2009 68(12):1827-32.

2015年改定 ANCA関連血管炎に対するEULAR recommendation

1. AAV患者は専門施設での診療、または専門施設と密に連携した診療を推奨する(証拠3推奨C)

免疫状態のモニタリング、リツキシマブの使用に慣れた医師、放射線科や眼科の専門医などが整った施設での診療あるいは連携が望ましい、寛解達成後に異なった臓器で再燃したり、薬剤による合併症を発症することがある。

2. 生検での血管炎所見は血管炎の診断を強く支持する。新規に診断を確定するときや血管炎の再燃疑いを評価するときには生検を推奨する(証拠3推奨C)

半月体形成性腎炎や壊死性血管炎は、診断に重要な所見である。腎病変を伴うGPAの腎生検では91.5%、GPAの耳鼻科領域での生検では68.4%、の陽性率の報告がある。

3. 新規発症で、臓器を脅かす、あるいは生命を脅かすAAVの寛解導入にはステロイドとシクロフォスファミド(CYC)の併用、あるいはステロイドとリツキシマブの併用を推奨する(GPA/MPAは証拠1推奨A、EGPAは証拠3推奨C)

リツキシマブの2つのRCT(RAVEはCYC2mg/kg/day、RITUXVASはIVCY15mg/kg/2-3週毎と比較)では週1回のRTX 375mg/m2を4回投与しCYCに対して非劣性であり、RAVE試験では再燃についてRTXが優っていた。EGPAに対するRTXの証拠レベルはGPA/MPAと比べて低いが、半年で34%、1年で49%の完全寛解達成率が報告されている。

生殖機能温存を希望する場合はRTXが望ましい。ステロイドは3ヶ月内に7.5-10mgまで減量が望ましいが、実際には5ヶ月くらいかかることがある。CYC点滴治療中はST合剤によるニューモシスチス肺炎予防が望ましい。

4. 臓器を脅かさないAAVの寛解導入にはステロイドと、MTXまたはMMFの併用を推奨する(証拠1B、MTXは推奨B、MMFは推奨C)

MTXは、腎障害がなく、臓器障害の恐れのない骨や軟骨破壊、嗅覚障害や難聴のない鼻や副鼻腔病変、潰瘍のない皮膚病変、骨格筋のみの筋炎、空洞や喀血を伴わない肺病変、あるいはCYCやRTXが使用できない場合などで使用される。

5. 臓器を脅かす、あるいは生命を脅かすAAVの重症再燃には、新規発症と同様にステロイドとシクロフォスファミドの併用、あるいはステロイドとリツキシマブの併用を推奨する(GPA/MPAは証拠1推奨A、EGPAにCYCは証拠3推奨C、EGPAにRTXは証拠4推奨C)

CYCの総投与量の増加は毒性を生じるので、再燃の場合はRTXが好ましい。重症でない再燃には一時的なステロイドの増量で回復するが、しばしば再燃するようなら他の方法を考慮する。

6-1. 新規発症あるいは再燃の急速進行性糸球体腎炎により血清クレアチンが5.7mg/dl以上のAAVでは血漿交換を考慮するべきだ(証拠1B推奨B)

6-2. 重症のびまん性肺胞出血の治療として血漿交換は考慮できる(証拠3推奨C)

MEPEX試験ではCr 5.7mg/dl以上を対象とし血漿交換は3ヶ月時点での末期腎不全や死亡を改善するようだが、長期予後では有意な結果はない。メタ解析では腎血管炎では血漿交換は末期腎不全や死亡を減らすと結論している。抗GBM抗体陽性のAAVや糸球体基底膜にIgG線状沈着がある場合は血漿交換を初期に行なうことがすすめられる。

7. AAVの寛解維持として、低用量ステロイドと、アザチオプリン・リツキシマブ・MTX・MMFのいずれかとの併用を推奨する(GPA/MPAは証拠1B推奨A、EGPAでAZAは証拠3推奨C)

MAINRITSAN試験ではIVCYで寛解導入後に低用量RTX(500mgで0、2週、6月、12月、18月に投与)はAZAより28ヶ月時点で再燃が少なかった。IMPROVE試験ではMMFよりAZAで再燃が少なかった。ST合剤の維持療法への追加はGPA再燃を減らす報告がある。

8. AAVに対する寛解維持療法は、持続寛解の導入のあと少なくとも24ヶ月は続けることを推奨する(証拠4推奨D)

維持療法期間を比較した試験はないが、一般に免疫抑制剤よりステロイドを先に減量する。ステロイドを継続した方が再燃は少ない。PR3-ANCA陽性で心血管病変や肺病変を有すると再燃しやすく、3年は維持療法を行なったほうがよい。

9. 寛解導入療法に抵抗性のAAV患者には、シクロフォスファミドをリツキシマブに、あるいはリツキシマブをシクロフォスファミドに変更することを推奨する。こうした患者はさらなる評価や臨床試験への参加可能性を専門施設と密に相談、あるいは照会するべきである(証拠3推奨C)

EULARによる難治性の定義は、4週間の標準治療でも不変や悪化する急性AAV、6週間の治療でもBVASあるいはBVAS/WGによる疾患活動性スコアの減少が50%未満、12週間の治療でも疾患活動性スコアで少なくとも一つの主要項目あるいは3つの小項目が存在する。難治性の場合は、AAVでよいか診断の再評価、治療用量に達した治療レジメンか、活動性疾患なのか残存障害なのか、AAVによるものか感染症・他の合併症・悪性腫瘍の可能性などの検討が重要である。難治性腎病変ではRTXで改善が見込まれるが後眼窩病変では不明。RAVE試験ではc-ANCA陽性ではCYCよりRTXが良いようである。低活動性が持続する場合には補助的なIVIGが寛解達成に役立つ。IVIGに先立ち血清のグログリンを測定しIgA欠損症や過粘稠状態に留意する。

10. ANCA検査よりも臨床的評価を治療変更の決定に用いるべきだ(証拠4推奨D)

ANCAが陰性であっても臨床経過が合致すればAAVは否定されない。ANCA持続陽性、4倍の上昇、陽転化などを再燃リスクとする報告もある。多臓器にAAV病変が及ぶことはよくあるのでBVAS(Vr.3)やVasculitis Damage Indexなどで要素毎の臨床評価を行なうべきである。

11. シクロフォスファミド暴露歴のある患者の持続する説明不可能な血尿は検索することを推奨する(証拠2B推奨C)

CYC使用は膀胱癌リスクと関連する。MESNA使用は出血性膀胱炎リスクを減じるが膀胱癌を予防できるかの明確な証拠はない。移行細胞癌はCYC開始数ヶ月内から中止後何年も経てから発症することがある。喫煙者は発癌しやすく、よりCYC低用量でより早く発癌する。

12. リツキシマブ治療後の低ガンマグロブリン血症が報告されており、リツキシマブ投与前ごとと感染症を繰り返す患者では血清グロブリン濃度を検査することを推奨する(証拠3推奨C)

低ガンマグロブリン血症はCYCやRTXの頻回使用や積算量と関連する。低ガンマグロブリン血症をきたしても全てが感染症を併発するものでもない。インフルエンザワクチン接種はAAV再燃に関連しないようである。弱毒生ワクチン接種はできるだけ避ける。

13. AAV患者の心血管系リスクの定期的評価を推奨する(証拠2B推奨B)

GPA/MPAの診断から5年以内に14%が心血管イベントを生じたという報告があり、リスクは高齢、高い拡張期圧で上昇し、c-ANCA陽性では低下する。高血圧、骨粗鬆症、悪性腫瘍、糖尿病などが治療関連合併症としてよくみられる。

14. AAV患者は、病気の性状、治療選択、治療による副作用、短期予後、長期予後などを明確に説明されるべきである(証拠3推奨C)

疾患について十分説明され、教育を受け、理解している患者は予後が良い傾向にある。疾患を良く知っていると再燃の早期症状に気づきやすい。

15. 寛解導入治療のあと、疾患に関連する障害の程度や持続する影響についての評価を推奨する。患者には必要な治療やサポートがどこで受けられるか助言するべきである(証拠4推奨D)

AAVは腎、肺、気道、心臓、末梢神経、中枢神経、視力、聴覚、指や四肢、顔面、皮膚など様々な臓器に障害をきたしうる疾患であり、教育、雇用機会、仕事の継続、私的生活や社会生活に重大な影響を及ぼしうる。全人的アプローチと継続的介護が必要である。

* Yates M, et al. EULAR/ERA-EDTA recommendations for the management of ANCA-associated vasculitis. Ann Rheum Dis. 2016 75(9):1583-94.
* RITUXVAS試験: Jones RB. et al. Rituximab versus cyclophosphamide in ANCA-associated renal vasculitis. N Engl J Med. 2010 363(3):211-20
* RAVE試験: Stone JH et al. Rituximab versus cyclophosphamide for ANCA-associated vasculitis. N Engl J Med. 2010 363(3):221-32.
* MAINRITSAN試験: Guillevin L et al. Rituximab versus azathioprine for maintenance in ANCA-associated vasculitis. N Engl J Med. 2014 371(19):1771-80.

2009年 小、中血管炎診療のEULAR recommendations(Ann Rheum Dis 2009)

根拠レベル内容
1ARCTのメタ解析
1B一つ以上のRCT
2A一つ以上のコントロール試験
2B一つ以上の準実験試験

1. 重症度に応じて治療を決定する(根拠2B、推奨B)

EUVAS(European Vasculitis Study)による重症度分類
限局型localized上下気道病変以外の臓器病変、発熱などの全身症状を認めない病型
早期全身型early systemic臓器機能あるいは生命に危険を及ぼす病変を伴わない全ての病型
全身型generalized腎あるいは他の臓器機能に危険を及ぼす病変を伴う病型。腎病変では血清Cr5.66mg/dl未満
重症型severe腎不全または重要臓器の機能不全を伴う病型。腎病変では血清Cr5.66mg/dl以上
難治型refractoryステロイド、シクロフォスファミド(CYC)に反応しない進行性の病型

2. 全身型に対する寛解導入療法は、シクロホスファミド(CYC)とステロイドの併用で行う(証拠1A、推奨A)

プレドニゾロン(1mg/kg/day, max60mg/day)+内服CYC(2mg/kg/day, max200mg/day)を3ヶ月以上(総治療期間6ヶ月まで)、あるいはプレドニゾロン(1mg/kg/day,max60mg/day)+点滴CYC(15mg/kg,max1500mg)を2〜3週間毎合計約6回)。年齢、腎機能、白血球数により投与量を調節。CYCは点滴のほうが内服より副作用が少ないとされる。

3. 限局型、早期全身型に対する寛解導入療法(証拠1B、推奨B)

MTXとステロイドの併用療法を、CYCより毒性の低い選択肢として推奨する。MTXを可能なら15mgから開始、最大20-25mg/weekまで増量する。Cr 1.7mg/dl以上では避ける。重篤な病状ではCYCを選択する。

* 本邦ではMTXはより少ない量で使用されることが多い。

4. 高用量ステロイド(1mg/kg)を寛解導入療法として行う(推奨C)

初期量を1ヶ月継続し、3ヶ月までは15mg/day以上で維持する。その後、維持量の10mg/day以下まで減量する。寛解導入に即効性を要するならステロイドパルスも行われる。

5. 急速進行性の重篤な腎疾患を伴う一部の患者には腎予後を改善するため血漿交換を推奨する(証拠1B、推奨A)

重篤な腎障害(Cr>5.6mg/dl)の場合は、ステロイド+CYC+血漿交換(2週間以内に4Lを7回)で腎予後が改善するという報告がある。

6. 寛解維持療法として低用量ステロイドとazathioprine(証拠1B、推奨A)、leflunomide(証拠1B、推奨B)、あるいはMTX(証拠2B、推奨B)の併用を推奨する

azathioprine(2mg/kg/day)は、内服CYCより安全と考えられる。腎機能がよければMTX(20-25mg/week)による維持療法も効果がある。leflunomideは副作用が多い。寛解維持療法は18〜24ヶ月継続する。ANCA抗体が残存すると再燃しやすいという報告がある。

7. 標準療法を行っても寛解に達しない難治性症例に対して他の免疫抑制療法を考慮し専門施設での治療を受け、治験に組み入れるべきだ(証拠3、推奨C)

MMF(2g/day)、IVIG(2g/kg for 5days)、rituximab(375mg/m2の週1回を4週間)、infliximab(3-5mg/kgで、1,2ヶ月毎)、などが報告されている。

CYCの投与量の調整

内服CYC(2mg/kg/day, max 200mg/day)

点滴CYC(15mg/kg, max 1500mg)

年齢、血清Cr値による調節
血清Cr
<3.4mg/dl3.4〜5.7mg/dl
60歳未満15 mg/Kg12.5 mg/Kg
60歳から70歳12.5 mg/Kg10 mg/Kg
70歳以上10 mg/Kg7.5 mg/Kg
CYC投与直前の白血球数による調節

投与直前の白血球4000/ul未満、好中球2000/ul未満では一時中止。回復後に25%減じて再開する。

CYC投与後の白血球数の最低値による調節
CYC投与後の最低値
白血球数好中球数CYC量の調整
1000〜2000500〜1000-40%
2000〜30001000〜1500-20%

参考文献

* Mukhtyar C et al. EULAR recommendations for the management of primary small and medium vessel vasculitis. Ann Rheum Dis 2009 68:310-317
* Lapraik C et al. BSR and BHPR guidelines for the management of adults with ANCA associated vasculitis. Rheumatology 2007 46:1-11
* Yates M, et al. EULAR/ERA-EDTA recommendations for the management of ANCA-associated vasculitis Ann Rheum Dis 2016 0:1-12.
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