多発血管炎性肉芽腫症(Granulomatosis with Polyangitis: GPA)(旧名 ウェゲナー肉芽腫症、Wegener肉芽腫症)|大阪大学 免疫内科

免疫疾患の診療

多発血管炎性肉芽腫症(Granulomatosis with Polyangitis: GPA)
(旧名 ウェゲナー肉芽腫症、Wegener肉芽腫症)

概要

1939年、ドイツの病理学者Friedrich Wegenerによって報告された疾患で、中〜小血管の壊死性血管炎であり、しばしば肉芽腫を形成する。全身性の炎症性疾患であり、上気道病変(鼻、副鼻腔、中耳、眼窩)、下気道病変(気管支、肺)、腎病変(壊死性糸球体腎炎)が典型である。上気道・下気道と眼に病変が限局した場合でも、病理像が合致し、PR3-ANCAが陽性であればGPAに含める。2012年、Chapel Hill会議で、以前の名称であるWegener肉芽腫症から多発血管炎性肉芽腫症(GPA)と名称が変更された。

病因

MPO-ANCAでは壊死性小血管炎像が目立つのに対して、本症で見られることの多いPR3-ANCAでは壊死性小血管炎とともに炎症性肉芽腫を伴うことが特徴で、自己抗体とともに細胞性免疫の関与を示唆する。好酸球性多発血管炎性肉芽腫症のようにアレルギー症状が先行することはない。マウスを用いたPR3-ANCA移入実験では、肉芽腫や多発血管炎は生じず、他の病因の存在が示唆されている。黄色ブドウ球菌の鼻腔内感染はリスク因子(相対リスク9.0)とされており、ST合剤予防投与で再燃率が60%低下する。

発症機構としていくつか説がある。黄色ブドウ球菌感染によって好中球が活性化状態となるとPR3(proteinase 3)が細胞膜表面に発現し、PR3-ANCAが結合し、Fc受容体を介して好中球の活性化がさらに進んで血管炎を引き起こす、あるいは黄色ブドウ球菌のスーパー抗原によって直接B細胞やT細胞が活性化される、あるいは細菌の抗原が腎基底膜に沈着し免疫複合体が形成されPR3-ANCAによって炎症が増強されるなどの説がある。

症状

小血管炎に伴う発熱や体重減少、紫斑、関節炎などとともに、上気道症状として鼻(血性または膿性鼻漏、鼻粘膜潰瘍、軟骨炎、軟骨破壊による鞍鼻)、眼症状(眼痛、視力低下、眼球突出)、耳症状(耳漏、中耳炎、伝導性や感音性難聴)、口腔咽頭症状(粘膜潰瘍、嗄声、気道閉塞)、肺症状(血痰、咳嗽、呼吸困難)がみられる。胸部CTでは、気管壁の肥厚、肺野での結節影や肉芽腫影を認めることがある。腎障害として血尿、蛋白尿、腎不全などが現れる。

検査所見

強い炎症を反映してCRPなど炎症マーカーが上昇する。腎病変では、蛋白尿、血尿、血清Cr上昇、Ccr低下が見られる。肺病変の胸部CTでは、気管壁の肥厚、肺野の結節影や肉芽腫影、空洞形成を認める。ANCA(抗好中球細胞質抗体)については、本邦では、PR3-ANCAを過半数〜大多数の例でみとめる。一部にMPO-ANCをみとめる例もある。病理像は、壊死性肉芽腫性小血管炎であり、巨細胞を伴うことがある。腎臓では、壊死性半月体形成性腎炎である。血管壁には免疫複合体の沈着を認めない。

診断

GPAの診断基準:厚生省1998年

主要症状
1.上気道 (E)眼(眼痛、視力低下、眼球突出)、耳(中耳炎)、鼻(膿性鼻漏、出血、鞍鼻))、口腔・咽頭痛(潰瘍、嗄声、気道閉塞)
2.肺 (L)血痰、咳嗽、呼吸困難
3.腎 (K)血尿、蛋白尿、急速に進行する腎不全、浮腫、高血圧
4.血管炎症状@ 全身症状:発熱(38℃以上、2週間以上)、体重減少(6カ月以内に6s以上)、A 臓器症状:紫斑、多関節炎(痛)、上強膜炎、多発性神経炎、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)、消化管出血(吐血・下血)、胸膜炎
主要組織所見
1.E、L、K の巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性炎
2.免疫グロブリン沈着を伴わない壊死性半月体形成腎炎
3.小・細動脈の壊死性肉芽腫性血管炎
主要検査所見
PR3-ANCA(蛍光抗体法でcytoplasmic pattern、C-ANCA)
* 確実(definite):主要症状の3項目以上(E,L,Kの各々の症状を含む)、主要症状の2項目以上+組織所見、主要症状の1項目以上+組織所見+C-ANCA陽性
* 疑い(probable):主要症状の2項目以上、主要症状の1項目+組織所見、主要症状の1項目+C-ANCA
* 参考となる検査所見:白血球増多、CRP上昇、BUN・Crn上昇
* 鑑別:肉芽腫性疾患(サルコイドーシスなど)、他の血管炎症候群(顕微鏡的多発血管炎,好酸球性肉芽腫性多発血管炎など)
* E,L,Kのすべてがそろっている場合を全身型、E,Lにとどまる場合を限局型とする

the classification of Wegener's granulomatosis: ACR1990年

項目
1.鼻または口腔内の炎症: 有痛性あるいは無痛性口腔内潰瘍、または化膿性あるいは血性鼻汁の出現
2.胸部レントゲン異常影: 結節、空洞、あるいは固定性浸潤
3.尿沈渣異常: 顕微鏡的血尿(>5 RBC/HPF)あるいは赤血球円柱
4.生検における肉芽腫性炎症の証明: 動脈壁、血管周囲または血管外領域(動脈、小動脈)に肉芽腫を認める
* 2項目以上で分類する
* The American College of Rheumatology 1990 criteria for the classification of Wegener's granulomatosis. Leavitt RY et al. Arthritis Rheum. Aug;33(8):1101-7、1990

治療

疾患活動性や重症度に応じた治療選択を行う。疾患活動性の判定にはBVAS(2008 ver3)が、重症度の判定にはEUVAS(2007)が用いられることがある。疾患活動性が高い場合や重症病変がある場合は、主に高用量ステロイド+シクロフォスファミドによる寛解導入療法の後、少量ステロイド+アザチオプリンなどによる維持療法を行うことが多い。シクロホスファミドの投与量は、年齢、腎機能、白血球数、好中球数に応じて適宜減量する。

重症のANCA関連血管炎(GPAを含む)に対するリツキシマブの寛解導入の臨床試験では、リツキシマブ(375mg/m2/week x 4weeks)はシクロホスファミドと同等の効果を示し、ステロイドを大きく減量できる可能性があることが示された。2013年6月より、本邦でも難治性の多発血管炎性肉芽腫症(GPA)と顕微鏡的多発血管炎(MPA)に対して、リツキシマブが使用できるようになった。リツキシマブは、既存治療に抵抗性であったり再燃する例や、副作用のためシクロホスファミドが使用できない例で、治療の選択肢となる。

参考文献

* Kallenberg CGM. Pathogenesis of PR3-ANCA associated vasculitis. J Autoimmun 2008 30:29-36
* Wegener's Granulomatosis Etanercept Trial (WGET) Research Group. Etanercept plus standard therapy for Wegener's granulomatosis.N Engl J Med. 2005 352(4):351-61.
* Stone JH et al. Rituximab versus Cyclophosphamide for ANCA-Associated Vasculitis. N Engl J Med 2010;363:221-232
* Leavitt RY et al. The American College of Rheumatology 1990 criteria for the classification of Wegener's granulomatosis. Arthritis Rheum. 1990 Aug;33(8):1101-7.
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