論文を読もう
日進月歩の医学知識の先端を学び、証拠に基づいた医療を施すには、質の高い情報を得ることが大切です。古い教科書の内容のままに留まるのではなく、最新医学知識を身につけたいものです。その一つの情報源として論文があります。そこで、良い論文を読むためにちょっとしたコツを述べてみます。勉強熱心な医師や研究者の方々には当たり前と思われるかもしれませんが、学生時代、研修医時代にこうした技術を身につけておくことは大切だと思います。
当たり前ですが、良い論文を読むには、常日頃から多くの論文を読んでcritical readingの能力を養っておくことが最重要です。論文に出てくる英単語は決まっており、いくつかのキーワードさえ知っていれば非英語圏の読者でも読めるように書かれています。医学部受験英語よりは平易でしょう。よく読んで、その論文に新しい重要な知見があるか、証明が納得できるか、データが信頼おけるかなどを判断できなければなりません。それでも多くの雑誌、全ての論文に目を通すことはなかなか困難です。
そこで重要な論文を手っ取り早く探す方法として、
優れた論文は末永く他の論文に引用され続けるのです。
優れた論文が掲載される雑誌とは、
Nature、Cell、ScienceあるいはNatureやCellの姉妹誌には驚くような発見や、素晴らしい研究が多く掲載されています。臨床試験はNew England Journal of Medicine、Lancetが双璧。各研究分野には伝統のある雑誌に良い論文が多い。また、それぞれの臨床分野のトップクラスの雑誌には診断基準、新しい疾患の概念や推奨治療などが掲載されることが多い。論文抄読会が当たった場合、下記の雑誌を選んで読めばまず無難だろう。ここに掲載した雑誌以外にも良い雑誌はあるだろうし、また、意外な雑誌に掲載されている優れた論文もあります。
- 基礎科学、生物学: Nature、Science、Cell
- 臨床医学、内科学: New England Journal of Medicine、Lancet、JAMA-Journal of the American Medical Association、Annals of Internal Medicine、British Medical Journal
- 実験医学: Nature Medicine、Journal of Clinical Investigation
- 免疫学: Nature immunology、Immunity、Journal of Experimental Medicine
- 微生物学: Cell Host & Microbe、PLOS Pathogens
- 分子生物学: Nature Chemical Biology、Molecular Cell、Current Biology
- 細胞生物学: Nature Cell Biology、Journal of Cell Biology、EMBO Journal
- 腫瘍学: Cancer Cell、Lancet Oncology、Journal of Clinical Oncology、Journal of the National Cancer Institute、Cancer Research
- 発生学: Cell Stem Cell、Developmental Cell
- 遺伝学: Nature Genetics、Genes & Development
- 神経科学: Nature Neuroscience、Neuron、Molecular Psychiatry、Brain
各臨床科専門誌
- リウマチ科: Annals of the Rheumatic Diseases、Arthritis and Rheumatism
- アレルギー科: Journal of Allergy and Clinical Immunology
- 呼吸器内科: American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine
- 循環器内科: Circulation、Journal of the American College of Cardiology、European Heart Journal、Circulation Research
- 消化器内科: Gastroenterology、Hepatology、Gut,Journal of Hepatology
- 代謝、糖尿病: Cell Metabolism、Diabetes、Diabetes Care
- 血液内科: Blood、Leukemia
- 感染症学: Clinical Infectious Diseases、Journal of Infectious Diseases
実際の論文の読み方ですが、
まずTitle(論文タイトル)が魅力的かどうか味わい、次に著者が最も主張したいことが凝縮されているAbstract(要約)を繰り返し読む。その後、データを順に眺めていく。そのときFigure(図)の下についているFigure Legend(図の説明)を読みながらデータを眺めればデータの意味が分かるようになっている。簡単に「論文を読む」なら、ここでおしまい。場合によってはIntroduction(研究の背景)、Discussion(考察)を拾い読みすれば良いだろう。Results(結果)はデータの説明を詳しく知りたいときに読む。最後にMaterials & Methods(実験材料と実験方法)で方法を確認するが、ここは読まないこともある。References(参考文献)は研究背景をより詳しく知るために目を通す。
また、信頼する同僚同士「この論文知ってる?」と紹介しあう環境を作ることも大切でしょう。そのときに「読んだよ。でも私はこう考えるが、、、」と意見を交換できる同僚が周囲にいることが大切でしょう。いつも紹介されっぱなしというのも残念なので今度はこちらから紹介しようという気持ちも生じます。手っ取り早くは探せないが、埋もれてしまっている古い論文から新しい意義を見つけ出し、自分の考えるヒントにできるようになれば達人。
ここで、英語論文を読む時に便利なサイトをふたつ紹介しておきます。
このサイトを駆使すれば紙ベースの辞書や辞典は必要ないだろう。
最後に
論文をコピーしての帰り、大阪大学生命科学図書館の出口で「糟粕を嘗むる勿れ(ソウハクをナむるナカれ)」と書かれた大阪大学初代総長長岡半太郎の額が目に入るようになっていることをご存知でしょうか。「作った人の精神を汲みとらず、形だけまねることをするな」という意味で、科学者として心得なければならないメッセージが図書館の出口に掲げてあるのは誰の計らいでしょう。
2012/Sep
免疫内科での論文抄読会の要点
目的
重要論文を選択し、論文の目利きが出来るように経験を積んでいく。専門英語を読みこなし医学論文を理解する技術を実践取得する。プレゼンテーションの仕方を実践体得する。抄読会では発表者の能力と誠実さが現れる。どのような論文を選んだか、論文内容を理解しているか、時間内で解りやすく説明できたか、皆に理解してもらうための努力をしたかなどが評価される。また、抄読会によって最新の重要情報を皆と共有する。
抄読会用プリントの作り方
A3で作成する。左右A4サイズ2ページで納める。裏面はなるべく使わない。
- 記入必須事項
- 自分の名前と抄読会の日付(優秀な発表はみんなの記憶に残る)
- 論文のタイトル(必須)
- 著者(全員)、所属(長い場合は簡略可)
- 雑誌名、巻、ページ、発行年(必須)
- Abstractを貼付ける(プレゼンテーションが悪いとき、各自でabstractを読んで理解するため)。
- 論文の背景説明。背景の理解を容易にする図(手書きで十分)や、説明文を入れる。専門外の人でも理解できるよう、重要単語や略語の説明を付けておく。これまでの知見に対して何をどう展開させているのかを説明する。
- Figure & Table: 論文のコピーからFigureやTableをLegend(図の説明文)とともにハサミで切ってA3用紙に貼付ける。中央で折り目を入れるため中央にまたがらないよう配置を考慮する。各FigureやTableに日本語で簡単なサマリーを入れると分かりやすい。Figure数が多い場合は重要と思われるFigureを選択する。論文の鍵となるFigureでない場合は、簡単に内容を文章でまとめてもよい。口頭説明してスペースを節約してもよい。
- 最後のまとめ。論文内容をまとめたマンガ図(手書きで十分)、あるいは、説明文を入れる。この論文の何が重要なのか、何が面白いのか、今後の研究展開や論文に対する検討課題なども考えて説明する。
- 必要枚数をコピーする。端にマージンを取る(コピーが微妙にずれて端が切れることがある)。文字が小さすぎて判読不能や、Figureがわからなくなることもあるため、必ず試しコピーをして確認しておく。コピーすると見えなくなるFigureなどはPower PointやProjectorを使用して提示してもよい。
発表の仕方
英語を逐一日本語訳する発表はダメ。論文内容を自分の頭でしっかり理解し、皆が分かるように準備する。Abstract、研究背景、各Figure、まとめの順に手際よく説明していくが、その時、自分だけ解っていてもダメ。難しい内容であっても皆が解りやすいような説明を加えることが大切。うつむき、小声はダメ。皆の顔を見ながら、大きな声で、特に語尾をはっきり発表する。聴衆を眠らさないこと。必ず4回は自宅で時計片手に発表の練習をしておく。
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2012/