マグネシウムは非糖尿病性慢性腎臓病患におけるリンと腎不全進行リスクの関連を修飾する

Kidney Int. 2015; 88(4): 833-42

Magnesium modifies the association between serum phosphate and the risk of progression to end-stage kidney disease in patients with non-diabetic chronic kidney disease.

Sakaguchi Y, Iwatani H, Hamano T, Tomida K, Kawabata H, Kusunoki Y, Shimomura A, Matsui I, Hayashi T, Tsubakihara Y, Isaka Y, and Rakugi H.

 

マグネシウムは生体を構成する主要ミネラルの一つであり、生体内の数多くの生理反応に必須の重要なミネラルです。マグネシウムの欠乏は高血圧や糖尿病、心血管疾患の発症と関連することが一般住民を対象とした疫学研究で報告されています。

これまで慢性腎臓病患者さんに合併するミネラル代謝異常では主にカルシウムとリンの研究が盛んに行われてきましたが、マグネシウムに関する知見は極めて限られていました。我々は日本透析医学会が所有する本邦の維持透析患者さんのレジストリーを解析し、血清マグネシウム濃度の低下が心血管死亡リスク上昇と関連することを報告しました(Sakaguchi Y. Kidney Int. 2014)。マグネシウムはリン負荷により生じる血管平滑筋の石灰化を抑制することが知られていたため、低マグネシウムによる心血管リスクの上昇には血管石灰化が関与している可能性が考えられました。また、上記レジストリーの解析をさらに進めた結果、血清マグネシウム濃度高値の透析患者では血清リン濃度の上昇に伴う心血管死亡リスクの有意な上昇が認められないことが判明しました(Sakaguchi Y. PLoS One. 2014)。これらのエビデンスから、マグネシウムはリンの過剰状態が形成する心血管リスクに対して保護的に作用することが示唆されました。

そこで我々は、リン過剰が生体に及ぼす他の病態、特に腎臓への障害作用に対してもマグネシウムの保護的作用が発揮されるのではないかと考え、本研究を行いました。非糖尿病性慢性腎臓病患者さん 311例を中央値 44カ月間追跡した後方視的コホートにおいて、血中リン濃度高値の患者さんの腎予後(透析導入・腎移植)は血中マグネシウム濃度の低い群で最も不良であり、血中マグネシウム群の高い群ではこのリスクは有意に低下していました(下図)。

高リン-低マグネシウム群の末期腎不全進行リスクは既知のリスク因子で補正後も高リン-高マグネシウム群より2.07倍(95%信頼区間 1.23-3.48); p=0.006)上昇していました。

慢性腎臓病の進行には腎尿細管・間質の障害が密接に関与しています。そこで我々はリンやマグネシウムの負荷が近位尿細管細胞に与える影響をin vitroで検討しました。低マグネシウム濃度(0.75 mM)下で近位尿細管細胞にリン(2.0 mM)を負荷すると、Annexin V陽性-Propidium iodide陰性のアポトーシス細胞数が増加し(下図)、cleaved caspase 3の発現上昇やミトコンドリア膜電位の低下が認められました。しかし、培養液中のマグネシウム濃度を高めることでアポトーシスは有意に抑制されミトコンドリア膜電位は回復しました。リン負荷による尿細管細胞の障害に対してマグネシウムが保護的に作用していると考えられました。

また、腎臓の線維化および炎症に関わるサイトカインのうちTGF-βとIL-6のmRNA発現について同様に培養近位尿細管細胞で評価したところ、いずれのサイトカイン発現も低マグネシウム・高リン条件下で上昇しましたが、これらの変化は培養液中のマグネシウム濃度を高めることで有意に抑制されました。

本研究の結果からリン過剰により惹起される腎障害や腎不全進行リスクに対してマグネシウムが保護的に作用する可能性が示唆されました。今後、特に血中リン濃度の高い慢性腎臓病患者さんに対してマグネシウムの補充が腎予後の改善につながるかを検証する必要があります。