アジルサルタンは近位尿細管のNa+-H+ Exchanger-3を調節してマウスの食塩感受性を改善する

PlosOne 11(1): e0147786

Azilsartan Improves Salt Sensitivity by Modulating the Proximal Tubular Na+-H+ Exchanger-3 in Mice.

Hatanaka M, Kaimori JY, Yamamoto S, Matsui I, Hamano T, Takabatake Y, Ecelbarger CM, Takahara S, Isaka Y, Rakugi H.

 

最近臨床で用いられるようになった、強力なアンジオテンシンIIタイプ1受容体ブロッカーである、アジルサルタンは、臨床の知見から、高血圧患者の血圧日内変動を改善することが知られていた。血圧日内変動は食塩感受性と密接な関係があることが知られていたが、アジルサルタンがどのように食塩感受性を変化させるのか、その機序に関しては不明であった。筆者らは、この機序を解明するために、マウス5/6腎摘モデルに高食塩食負荷を行い、薬剤の投与をして、腎臓のナトリウムの再吸収する分子を検討した。

研究結果

圧利尿曲線の解析により、アジルサルタンを投与した5/6腎摘マウスでは、ビークル投与群に比べて圧利尿曲線の傾きが急峻になり、薬剤投与によって食塩感受性が改善することが示された(上図)。

そこで、これらのマウスの腎臓を調べたところ、アジルサルタンを投与した5/6腎摘マウスでは、ビークル投与群やカンデサルタン投与群に比べて、近位尿細管でのNa+-H+ Exchanger-3 (NHE3)の蛋白発現が減弱していることが判明した(上図C)。また、その下流にあるNa輸送蛋白には特に変化が無かった。また、オポッサム近位尿細管培養細胞を用いた検討においても、アジルサルタンは、ビークルやカンデサルタンに比べて有意に、NHE3の蛋白発現量を低下させていた(上図A,B)。マウス腎臓やオポッサム近位尿細管培養細胞において、アジルサルタンによってNHE3の遺伝子発現量は変化しなかったことから、NHE3の蛋白量が変化していると考えられた。

次に、オポッサム近位尿細管培養細胞において、アジルサルタンによってNHE3蛋白発現の減少するメカニズムを調べる目的で、プロテオソームとライソソーム阻害剤を加えたところ、プロテオソームであるラクタシスチン添加により、アジルサルタンによるNHE3蛋白発現の減少がキャンセルされることが判明した(上図)。このことから、アジルサルタンはNHE3蛋白のユビキチンープロテオソーム系による蛋白質分解を促進させる事によって、NHE3蛋白発現の減少を招き、結果として尿中に排泄されるNaイオンが増加して、塩分感受性が改善することが示唆された。

本研究の意義

食塩感受性高血圧は、夜間高血圧を合併し、臓器障害に強く相関することが疫学調査で判明しており、食塩感受性の改善の臨床的意義は大きい。本研究において、食塩感受性改善の分子ターゲットの一つとしてNHE3が示され、今後の薬剤開発に示唆を与える事が期待される。