ヒトの細胞において、ヒストンH4 lysine20 のアセチル化は遺伝子抑制と相関する

Scientific Reports. 2016 Apr 11;6:24318

Histone H4 lysine 20 acetylation is associated with gene repression in human cells.

Kaimori JY, Maehara K, Hayashi-Takanaka Y, Harada A, Fukuda M, Yamamoto S, Ichimaru N, Umehara T, Yokoyama S, Matsuda R, Ikura T, Nagao K, Obuse C, Nozaki N, Takahara S, Takao T, Ohkawa Y, Kimura H, Isaka Y.

 

研究の背景

生物の細胞は、遺伝子の発現の必要なときにスイッチオンしたり、スイッチオフしたりして環境の変化に適応している。これまで遺伝子発現に影響を与えるエピジェネティックな因子であるヒストン修飾は、大きく分けて遺伝子の発現のスイッチオンに関わるものと、スイッチオフに関わるものに分けられていた。特にアセチル化ヒストン修飾は陰性に荷電していることから、同じく陰性に荷電したDNAとは互いに反発して、転写因子が入り込むスペースができて、遺伝子の発現をスイッチオンに関わっていることは、遺伝学の常識であった(図1)。また、H4K20acは、植物細胞でのみ存在することがわかっていましたが、哺乳類細胞では存在が間接的にしか示されていなかった。

図1 従来、アセチル化ヒストン修飾は遺伝子のスイッチオンのみに関係すると考えられてきた。

研究の成果

筆者らは、哺乳類細胞から大量のヒストン蛋白を抽出し、質量分析機を用いて、精密に分子量を測定することによりH4K20acが、哺乳類細胞に存在することを証明した(図2)。

図2 H4K20acの存在を、分子量を正確に測定することにより証明した。

また、このヒストン修飾に対する抗体を作成し、クロマチン免疫沈降したサンプルを次世代シークエンサーを用いて解析し、世界中のデータベースに存在する既知のヒストン修飾のデータと網羅的に比較することによって、H4K20acが発現量の低い遺伝子のプロモーターに集積していること、H4K20acの集積しているプロモーター部位には、遺伝子発現増強因子は近づけないが、遺伝子発現抑制因子が近づくことができることを発見した(図3)。

図3 ヒストン修飾H4K20acが、発現していない遺伝子のプロモーター部位に存在することを説明。遺伝子発現増強因子(transcriptional activator)は、H4K20acに近づくことができないが、遺伝子発現抑制因子(transcriptional suppressor)は近づくことが出来る。

本研究成果の意義

ヒストン修飾をはじめとするエピジェネティックな因子は、様々な疾患の発症・進展に関係することが、疫学研究から明らかになっており、そのメカニズムに興味が集まっている。本研究成果で発見された全く新しい種類のヒストンアセチル化修飾H4K20acを用いて、糖尿病をはじめとする代謝疾患、心肥大をはじめとする循環器疾患、腎疾患、癌などの様々な疾患の発症・進展のメカニズムついての研究が進むことが期待される。