保存期CKD患者における血清Mg濃度と冠動脈石灰化密度の関係

PLoS One. 11(9):e0163673, 2016. doi: 10.1371/journal.pone.0163673

Association between Density of Coronary Artery Calcification and Serum Magnesium Levels among Patients with Chronic Kidney Disease.

Sakaguchi Y, Hamano T, Nakano C, Obi Y, Matsui I, Kusunoki Y, Mori D, Oka T, Hashimoto N, Takabatake Y, Takahashi A, Kaimori JY, Moriyama T, Yamamoto R, Horio M, Sugimoto K, Yamamoto K, Rakugi H, Isaka Y.

 

冠動脈石灰化は慢性腎臓病患者さんに高頻度に認められ、心血管疾患の発症と密接に関連しています。冠動脈石灰化はその発生する部位によって内膜石灰化と中膜石灰化に分類されます。内膜石灰化は血管内膜に生じる微小な粒状の石灰化であり、急性冠症候群の原因になる不安定プラークにしばしば認められます。一方、中膜石灰化は血管中膜に発生する密度の高い連続性の石灰化であり、血管拡張性を低下させ冠血流予備能を損なうことで心筋虚血の原因になると考えられています。中膜石灰化の原因として加齢や糖尿病の他、CKDが重要であることが知られています。

通常、冠動脈石灰化の有無や程度は冠動脈CTにより評価しますが、CT画像上では内膜石灰化と中膜石灰化を明確に峻別することは困難です。そこで我々は冠動脈石灰化の定量評価法として一般的に用いられているAgatston scoreとVolume scoreから各患者さんの冠動脈石灰化病変の平均密度を算出し、この平均石灰化密度と臨床背景の関連について横断的な検討を行いました。

対象は糖尿病や心血管疾患既往などの冠動脈石灰化のリスク因子を保有する保存期CKD患者さん109例です。このうち、実際に冠動脈CTで石灰化病変を認めた102例を解析対象としました。冠動脈石灰化密度は年齢と正相関を示した他、血清Mg濃度と負相関し、特に血清リン濃度が中央値以上の群において血清Mg濃度と石灰化密度との関係が明確に認められました。

CKD患者さんの体内に蓄積するリンは中膜石灰化の原因として重要ですが、近年の基礎的な研究により、Mgがリンの石灰化誘導能を抑制することが示されてきました。本研究結果は、実際に血中リン濃度の高いCKD患者さんにおいて、密度の高い石灰化病変に対してMgが抑制的に作用する可能性を示唆するものと考えられます。CKD患者さんの冠動脈石灰化や心血管イベントをアウトカムとしたMgによる介入研究の結果が待たれます。