新しいMUC1のフレームシフト変異家を有する家族性尿細管間質腎炎患者家系の解析により明らかになった、変異MUC1蛋白の性質

Nephrology Dialysis Transplantation. 2017. 32(12) 2010-2017 PMID: 29156055

Analysis of an ADTKD family with a novel frameshift mutation in MUC1 reveals characteristic features of mutant MUC1 protein.

Yamamoto S, Kaimori JY, Yoshimura T, Namba T, Imai A, Kobayashi K, Imamura R, Ichimaru N, Kato K, Nakaya A, Takahara S, Isaka Y

 

研究の背景

通常、腎臓の機能低下は、蛋白尿や血尿がサインとなって表れる。1型髄質嚢胞腎(MCKD1)は、検尿での異常が見られないにも関わらず突然腎機能が低下する、家族性の間質尿細管腎炎の一つである。主に成人で発症し、これまで正確に診断する方法がなかった。2013年に原因遺伝子がMUC1であることが報告されたが、MUC1遺伝子の異常は、GC(グアニン・シトシン)を多く含んだ、個人によって数の異なる繰り返し配列(VNTR)に、シトシンが1塩基のみ挿入されるというもので、従来の手法では遺伝子解析が困難であった。また、このような複雑な遺伝子変異であるため、原因遺伝子が発見されてからも異常タンパク質の性質などは明らかではなく、病気の仕組みは謎のままであった。

図1 今回発見された遺伝子変異は、既報と異なり、VNTRの前に存在した。

研究の成果

山本聡子らは、腎移植の経験の多いご家族から提供された遺伝子について、次世代シークエンサーを用いた全エクソーム解析を行った。その結果、MUC1遺伝子において、VNTRより上流にあるAG(アデニン・グアニン)が欠失していることを突き止めた(図1)。

これは、既報のVNTR中の遺伝子欠失とは異なる、新たな遺伝子異常部位の報告である。今回発見された異常遺伝子から産生される変異MUC1蛋白は、既報の異常MUC1と推定3次元構造が大変類似していた(図2)。また、患者のMUC1の遺伝子異常配列を培養遠位尿細管細胞に発現させると、正常なMUC1タンパク質は細胞膜に存在するのに対して、異常MUC1タンパク質は細胞質に存在することが判明した(図3)。また、異常MUC1タンパク質の生化学的な性質を詳細に解析したところ、異常タンパク質はグリコシル化(糖鎖付加)が極端に減少していること、自己凝集を生じることが判明した。さらに、エクソソーム抽出およびウエスタン・ブロット解析によって、患者の尿から異常MUC1タンパク質が検出できることを確認した。

図2 推定3次元構造、正常MUC1(A)、既報変異MUC1(B)、今回発見された変異MUC1(C)。

図3 正常MUC1タンパク質は細胞膜上に認められ(左)、変異MUC1細胞質に認められた(右)。

本研究成果の意義

本研究成果により、遺伝子解析で診断できる1型髄質嚢胞腎が存在することが判明した。今後、このMUC1遺伝子異常配列や異常タンパク質について研究を進めることで、この病気の仕組みが明らかになることが期待される。