保存期CKD患者における血清Cl濃度と死亡・心血管イベントリスク

Nephrol Dial Transplant. PMID: 30346587

Prognostic value of hypochloremia versus hyponatremia among patients with chronic kidney disease-a retrospective cohort study.

Kubota K, Sakaguchi Y, Hamano T, Oka T, Yamaguchi S, Shimada K, Matsumoto A, Hashimoto N, Mori D, Matsui I, Isaka Y.

 

低Na血症と予後不良の関係はよく知られていますが、心不全患者を対象にした最近の研究では、低Na血症よりも低Cl血症の方が死亡リスクの上昇とより強く関連したことが報告されています(Grodin JL. J Am Coll Cardiol 2015)。

一方、CKD患者の血清Cl濃度と予後の関係は十分に検討されていません。特に、CKD患者の血清Cl濃度は代謝性アシドーシス、アニオンギャップの上昇、利尿薬・炭酸水素ナトリウム等の薬剤の使用といったCKD特有の要因に影響されます。したがって、CKD患者の血清Cl濃度と予後の関係を検証するには、これらの交絡因子を調整しなければなりません。

そこで我々は、2005年から2014年に大阪大学医学部附属病院腎臓内科外来に通院していた2,661例の保存期CKD患者を対象に後方視的コホート研究を行い、血清Cl濃度と予後の関係を検討しました。血清Cl濃度を含む検査値と処方薬は3か月おきにデータ収集し、時間依存性変数として解析しました。アウトカムは追跡期間中に発生した死亡および全ての心血管イベントを反復イベントとして扱い、shared frailtyモデルにより解析しました。追跡期間4.0年(中央値)の間に、全死亡284例、心血管イベント416件が発生しました。前述の交絡因子を含む背景因子で調整した多変量モデルにおいて、血清Cl濃度第1分位(104meq/L以下)は第3分位(107-108meq/L)に比して死亡・心血管イベントリスクが2.13倍(95%CI 1.20-3.81; P = 0.01)上昇していました。血清Cl濃度が107meq/Lより低下するとリスクが上昇することが分かります(図1)。

図1 保存期CKD患者の血清Cl濃度と死亡・心血管イベントリスク

また、血清Na濃度が正常範囲(139meq/L-)のサブグループでも、血清Cl濃度第1分位(104meq/L以下)では同様にリスクが上昇していました(図2)。

図2 死亡・心血管イベントリスクに対するClとNaの関係

血清Cl濃度と血清Na濃度の予後予測能を比較したところ、NaよりもClの方がnet reclassification index(NRI)やintegrated discrimination improvement(IDI)を良く改善させることが分かりました。

これらの結果から、CKD患者においても、血清Cl濃度は独立した予後予測因子であり、低Na血症よりも予後予測能はむしろ優れていることが明らかになりました。日常診療においては血清Na濃度に注意が払われてきましたが、血清Cl濃度もあわせて評価することが重要と考えられます。