低マグネシウム食はリン負荷による腎障害を悪化させる

Nephrol Dial Transplant. PMID: 30535376

Low magnesium diet aggravates phosphate-induced kidney injury.

Sakaguchi Y, Hamano T, Matsui I, Oka T, Yamaguchi S, Kubota K, Shimada K, Matsumoto A, Hashimoto N, Isaka Y.

 

我々は以前に、1) 保存期慢性腎臓病患者の末期腎不全進行リスクは血中リン濃度高値かつ血中マグネシウム濃度低値の患者群で上昇していること、2) 近位尿細管細胞への高濃度リン負荷により生じる細胞死や炎症性サイトカインの産生が低マグネシウム濃度下で増悪すること、を報告し(Sakaguchi Y. Kidney Int 2015)、リン毒性に対するマグネシウムの保護効果について検証してきました。本研究では、片腎摘マウスへの高リン食負荷により生じる腎障害が低マグネシウム食によって増悪するかを検討しました。

片腎摘マウスに6週間の高リン食負荷を行うと、腎尿細管障害や間質線維化が惹起されますが(図1左)、食餌中マグネシウム含有量を通常食の10%に減少させた低マグネシウム食を与えたマウスでは、腎障害が著明に増悪しました(図1右)。低リン食下では低マグネシウム食を与えても明らかな腎障害は認められませんでした。高リン正常マグネシウム食に比し、高リン低マグネシウム食を与えたマウスでは生存率も低下しました。(図2)。

[図1]

[図2]

高リン低マグネシウム食を負荷したマウスでは、負荷後早期(1週間)の腎機能低下がまだ明らかでない時期から尿中リン排泄量が減少していました。低マグネシウム食群ではリン利尿ホルモンfibroblast growth factor23(FGF23)の共受容体であるαklothoの腎臓での発現が低下していたことから(図3上)、αklotho発現低下によるFGF23シグナルの減弱がリン利尿の抑制に寄与したと推察されました。低マグネシウム食によるαklotho発現低下は低リン食下でも観察されたことから(図3下)、高リンによる影響とは独立してマグネシウムがαklothoの発現に関わっている可能性が示唆されました。

[図3]

本研究結果から、高リン・低マグネシウム食は慢性腎臓病患者の腎障害を増悪させる可能性があり、そのような食事は避けるべきであることが示唆されました。特に注意すべき食品として加工食品、ファストフード、コンビニ食が挙げられます。加工食品等に含まれる食品添加物中の無機リンはリン摂取過剰の原因として重要ですが、これらの食品は加工・精製過程で大半のマグネシウムが失われることから、単なる『高リン食』ではなく『高リン・低マグネシウム食』としてその有害性が再認識されるべきであると考えられます。