透析導入時の隠れ低カルシウム血症

Sci Rep. 2020 Mar 10; 10 (1):4418.

Hidden Hypocalcemia as a Risk Factor for Cardiovascular Events and All-Cause Mortality among Patients Undergoing Incident Hemodialysis.

Yamaguchi S, Hamano T, Doi Y, Oka T, Kajimoto S, Kubota K, Yasuda S, Shimada K, Matsumoto A, Hashimoto N, Sakaguchi Y, Matsui I, Isaka Y.

 

進行した慢性腎臓病(CKD)では、ビタミンDの活性化障害により血清カルシウム濃度は低下します。生体内ではカルシウムは約半数がアルブミン等の蛋白に結合して存在していますが、生理活性を持っているのはイオン化カルシウムです。実臨床ではイオン化カルシウムの代わりに、総カルシウム濃度と血清アルブミン濃度を用いて計算した補正カルシウム濃度を用いています。しかし、補正カルシウム濃度はしばしばイオン化カルシウム濃度を正しく予測しません。これまでイオン化カルシウム濃度を用いて、透析導入直前の真のカルシウム濃度を評価した研究はありませんでした。

本研究では、大阪大学医学部附属病院にて血液透析が導入された患者332名を後ろ向きに検討し、透析導入直前のカルシウム濃度異常の頻度と、カルシウム濃度異常と透析導入後の総死亡および心血管病発症との関連を検討しました。

補正カルシウム濃度で評価すると低カルシウム血症の患者は30%のみでしたが、イオン化カルシウム濃度で評価すると75%もの患者が低カルシウム血症を呈していました。全患者の46%が、補正カルシウム濃度は正常だがイオン化カルシウム濃度は低値である隠れ低カルシウム血症を呈していました。

図1. イオン化カルシウム濃度および補正カルシウム濃度の分布

縦断的解析では、隠れ低カルシウム血症の患者は、イオン化カルシウム正常の患者に比べ、透析導入後の総死亡または心血管病発症が多いことがわかりました。

図2. カルシウム濃度異常と総死亡・心血管病発症の関連

年齢、性別、心血管病の既往、栄養の指標といった因子の影響を考慮した解析でも、隠れ低カルシウム血症の患者は、イオン化カルシウム正常の患者に比べ、総死亡または心血管病発症の危険性が高いことがわかりました。

本研究結果から、透析導入患者において隠れ低カルシウム血症が高頻度であり、隠れ低カルシウム血症は透析導入後の総死亡または心血管病発症と関連があることが、明らかとなりました。イオン化カルシウム濃度を測定することの重要性が示唆されました。