低重炭酸イオン血症とCKD進行リスクの関連はpH依存的である

Am J Kidney Dis. 2020 Aug 20. PMID: 32828983

Modulation of the Association of Hypobicarbonatemia and Incident Kidney Failure With Replacement Therapy by Venous pH : A Cohort Study.

Kajimoto S, Sakaguchi Y, Asahina Y, Kaimori JY, Isaka Y.

 

慢性腎臓病(CKD)患者では腎機能の低下にともないしばしば代謝性アシドーシスが出現します。これまでに低重炭酸血症と腎予後不良の関連は繰り返し報告されており、複数の診療ガイドラインで血中重炭酸濃度に基づいたアルカリ補充療法が提唱されています。ここで我々は、血液ガス分析のfirst stepであるpHの評価が診療パターンに組み込まれていないことに疑問を抱き、pHを加味した予後解析を実施しました。

対象は当院腎臓内科外来の保存期CKD患者1,058例です。静脈血重炭酸濃度と末期腎不全への進行リスクの関連に対するpHの効果修飾を解析しました。

重炭酸濃度第一四分位(HCO₃≦21.5mEq/L)の症例のうち、acidemia(pH<7.32)を呈したのは59%であり、38%はpH正常(7.32≦pH≦7.42)、3%はalkalemia(pH>7.42)でした(図1)。

図1 重炭酸イオン濃度の四分位毎の酸塩基平衡異常の分布

追跡期間3.0年(中央値)の間に374例が末期腎不全に至りました。年齢、性別、腎機能、呼吸性代償能といった様々な臨床的要因で補正後、低重炭酸血症はpH低値のサブグループでのみ腎予後不良と関連しました。一方、pH正常から高値のサブグループでは、重炭酸濃度と腎予後の有意な関連は認められませんでした(図2)。このことから、重炭酸濃度だけでなくpHも加味した正確な代謝性アシドーシスの診断がCKD進行のリスク評価に重要と考えられます。

図2 静脈血重炭酸濃度と末期腎不全への進行リスクの関連はpHにより異なる

興味深いことに呼吸性代償能が低いと腎予後は不良でした。同じ重炭酸濃度であっても呼吸性代償によりpHが維持されればCKDの進行リスクは低下する可能性があります。

本研究の結果から、pHと重炭酸濃度の両者に基づいて診断した代謝性アシドーシスが腎予後と密接に関連することが明らかになりました。pH低値の低重炭酸血症がアルカリ補充療法の真の適応になるか否かについて、今後多角的な検討が行われるべきであると考えられます。