活性型ビタミンD類似体による心筋肥大進展抑制機序

Cardiovasc Drugs Ther. 2020 Nov 18. PMID: 33206298

Maxacalcitol (22-Oxacalcitriol (OCT)) Retards Progression of Left Ventricular Hypertrophy with Renal Dysfunction Through Inhibition of Calcineurin-NFAT Activity.

Inoue K, Matsui I, Hamano T, Okuda K, Tsukamoto Y, Matsumoto A, Shimada K, Yasuda S, Katsuma Y, Takabatake Y, Tanaka M, Tanaka N, Mano T, Minamino T, Sakata Y, Isaka Y.

 

慢性腎臓病(CKD)患者は腎機能低下早期より左室肥大を認め、血中活性型ビタミンD濃度が低下している。動物実験においてビタミンD受容体 (VDR)ノックアウトマウスが心筋肥大を呈する事、活性型ビタミンD類似体の1つであるParicalcitolが高血圧による左室肥大モデルラットの心筋肥大を抑制した事から(Proc Natl Acad Sci USA. 2007 104 (43) 16810-16815)、活性型ビタミンD及びその類似体が慢性腎臓病患者の左室肥大進展を抑制する可能性が示唆された。しかしParicalcitolは保存期慢性腎臓病患者の左室肥大進展を抑制しなかった(JAMA. 2012;307(7)674-684)。活性型ビタミンD類似体と結合したVDRによる標的遺伝子の制御は活性型ビタミンD類似体により異なる事が報告されており(Mol Cell Biol. 1999;19(2):1049–55)、我々は我が国で使用されている活性型ビタミンD類似体である、Maxacalcitol (OCT)がCKD患者及びラットの左室肥大進展を抑制し得るか検討しました。

OCTが2年以上投与されている維持血液透析患者を対象にOCT投与前後それぞれ2年間の心臓超音波検査による左室重量係数(LVMI)の平均及びその増加率を検討した。OCT投与後は投与前と比較し、有意にLVMIの減少及びLVMIの増加率の低下が見られました(図1)。

図1:

A:OCT投与前後2年間でのLVMIの平均値

B:OCT投与前後2年間でのLVMI増加率

次に片腎摘出後にangiotensin II (Ang II)を投与する事で、高血圧・腎機能低下を伴う左室肥大モデルラットを作成し、同ラットにOCTの投与を行った。OCT投与ラットではvehicleと比べ有意に心重量の増加、心臓超音波検査による左室壁肥厚が減少していた(図2)。同ラットの左室心筋ではcalcineurin Aの活性化が増加しており、OCT投与群ではcalcineurin Aの活性化が低下していました(図3A)。さらにOCT投与によりE3 ubiquitin ligaseであるFbxo32 (Atrogin1) mRNAの発現が誘導された事から(図3B)、OCTはAtrogin1を介したcalcineurin Aのユビキチン化による分解により、左室肥大進展を抑制する機序を明らかにしました。

図2:

A:ラット心重量(脛骨長にて補正)

B:ラット心臓超音波検査による左室Mモード計測図

(IVSth-d:拡張期心室中隔厚, PWth-d:拡張期左室後壁厚)

図3:

A:ラット左室calcineurin活性(組織重量にて補正)

B:ラットFbxo32 (atrogin1) mRNA発現量(相対値)