バゾプレッシンを介した骨吸収亢進は運動誘発性高カルシウム血症と関連する

Osteoporos Int. 2021 June 17. PMID: 34137899

Exercise-induced hypercalcemia and vasopressin-mediated bone resorption.

Senda M, Hamano T, Fujii N, Ito T, Sakaguchi Y, Matsui I, Isaka Y, Moriyama T.

 

運動時、血中カルシウム(Ca)濃度が上昇することが報告されています(運動誘発性高Ca血症)。その病態は明らかではありませんが血液濃縮や骨吸収亢進の関与が報告されています。最近の基礎研究において、運動時に上昇するホルモンの一つであるバゾプレッシン(AVP)が骨吸収亢進と骨形成抑制を促すことが報告されました。本研究では、ヒトを対象として運動誘発性高Ca血症の発症頻度を調査し、その病態を考察しました。

訓練された健常な成人男性自衛隊員65名を対象に前向き観察研究を実施し、約5時間の過酷な運動負荷前後で体重、血中Ca(血清Total Ca[tCa]および血中イオン化Ca[iCa])、血漿AVPや副甲状腺ホルモン(whole PTH)に加えて、骨吸収マーカーである血清骨型酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ(TRACP-5b)、骨形成マーカーである血清Ⅰ型プロコラーゲン-N-プロペプチド(P1NP)の測定を行いました。また、運動中~直後に認めた臨床症状の問診も運動後に実施し、これらの関連を検討しました。

被験者の平均年齢は27歳、過酷な運動前後で体重は平均6.9%減少しました。血中Ca濃度は有意に上昇し、12名(約18%)の被験者で運動誘発性高Ca血症(tCa≥10.4 mg/dLまたはiCa≥1.30 mmol/L)を認めました。血清TRACP-5bや血漿AVPは有意に上昇した一方、血清P1NPおよび血漿whole-PTHは有意に低下しました。

運動後血漿AVPは、血清浸透圧とは関連せず、体重減少率と有意な正の相関を示しました。交絡因子で補正した制限3次スプライン曲線では、血中Ca濃度変化量と血清TRACP-5b変化率の正の相関が認められ(図1a)、また運動後血清TRACP-5bと血漿AVPとの正の相関、および運動後血清P1NPと血漿AVPとの負の相関も認められました(図1b)。運動後血漿whole-PTHは血中Caと負の、血清P1NPと正の相関を認め、運動誘発性高Ca血症によりPTHが抑制され、それに伴い骨形成も抑制された可能性が考えられました。

図1a 血中カルシウム濃度変化量と血清TRACP-5b変化率の関連

図1b 運動後の骨代謝マーカーと血漿AVPの関連

以上の結果から考察した運動誘発性高Ca血症の病態が図2になります。さらに、運動後iCaが高いほど運動時の嘔気・嘔吐の発生確率が高いという結果も得られ、骨吸収抑制が運動誘発性高Ca血症やそれに伴う嘔気・嘔吐への治療戦略となる可能性も示唆されました。

図2 運動誘発性高カルシウム血症の病態