低Na血症合併心不全における低用量トルバプタンの長期使用は良好な腎予後と関連する

ESC Heart Failure.

Renoprotection by long-term low-dose tolvaptan in patients with heart failure and hyponatremia.

Oka T, Hamano T, Ohtani T, Doi Y, Shimada K, Matsumoto A, Yamaguchi S, Hashimoto N, Senda M, Sakaguchi Y, Matsui I, Nakamoto K, Sera F, Hikoso S, Sakata Y, Isaka Y.

 

心不全において、腎機能障害は予後不良因子であり、また、心移植の相対的除外条件に該当します。したがって、長期に腎機能を保持することは、心不全診療の極めて重要な課題と言えます。

選択的バゾプレッシンV2受容体拮抗薬であるトルバプタン(以下、TLV)は、ループ利尿薬等に比べ腎血流量の低下をきたしにくく、長期的な腎保護効果を期待されています。EVEREST試験など、過去の大規模ランダム化比較試験においては、1年間のTLVの継続処方は腎保護に寄与しませんでしたが、これらの試験ではTLVは高用量(30 mg/日)に固定して投与されており、結果の解釈に注意が必要です。本邦の心不全診療で行われるように、TLVを15 mg/日以下の低用量で、かつ状況に応じて用量調整を行いつつ長期間投与した場合、腎予後がどうなるのかについては、殆ど分かっていませんでした。

そこで我々は、これを明らかにすべく、当院に急性心不全で入院となり集中治療を要した584名を対象に後方視的観察研究を行いました。急性期にTLV処方が開始され、180日以上継続された症例、及び、180日未満でも死亡や心血管イベント発症、腎代替療法の施行まで継続された症例をTLV使用群(N =78)と定義し、非使用群(N =506)との間で、観察期間中のeGFRの推移と年次eGFR変化率(eGFR slope)を比較しました。

図1. 両群におけるeGFRの時間的推移
(Na:135 mEq/Lで層別、各層でPSマッチング)

ベースライン時に低Na血症を有した症例において、観察期間(中央値, 461日)を通じて、TLV使用群ではeGFRがより高く維持されていました(線形混合効果モデル)(図1)。また、TLVを7.5-15 mg/日の容量で長期間使用することが、より良好なeGFR値に関連していました。

加えて、TLV使用群は、観察期間を通じて、より頻回のループ利尿薬の減量と関連しており、低Na血症例ではこの傾向が顕著でした(ポアソン回帰モデル)(図2)。低Na血症例では利尿薬抵抗性が強く、このことが心不全患者の心血管・腎予後のリスク因子となることが分かっており、TLVの使用により、長期にわたって良好に利尿薬抵抗性が解除されることが示唆されました。

図2. 両群でのループ利尿薬減量の頻度の比較(Na:135 mEq/Lで層別)

次に、eGFR slopeでみた長期腎機能に対するTLV使用の効果は血清Na濃度によってどのように異なるのか、について検討しました(MFPI法)。図3のY軸は、TLV使用群のeGFR slopeと非使用群のeGFR slopeの差(ΔeGFR slope = [TLV使用群でのeGFR slope] − [非使用群でのeGFR slope])、を示しています。

図3. 年次eGFR slopeの群間差とベースライン血清Na濃度の関係
(a): 全症例, (b):経過中にループ利尿薬が減量された症例を(a)から除外

血清Na濃度が低値であるほど、TLV使用群のeGFR slopeが非使用群に比して高値となる(= TLV使用群のeGFRがより高く維持される)ことが示されました(図2a)。その一方で、ループ利尿薬の減量が経過中に一度も行われなかった症例を対象にすると、そのような関係性は認められませんでした(図2b)。

以上の結果より、TLVを心不全症例に長期投与すると、特に低Na血症例においてループ利尿薬の減量が長期にわたって期待でき、そのループ利尿薬の減量効果が、長期的に腎機能の保持に寄与すると考えられました。

本研究により、低Na血症を合併した心不全において、TLVの長期投与が腎保護効果を有する可能性が示されました。TLVは、諸外国では「心不全」ではなく「低Na血症」に対して使用されるため、この知見は世界的にも有用なものであると言えるでしょう。