心不全においてeGFRの変動は優れた予後予測因子である

ESC Heart Failure.

Variability in estimated glomerular filtration rate and patients' outcomes in a real-world heart failure population.

Oka T, Hamano T, Ohtani T, Tanaka A, Doi Y, Yamaguchi S, Senda M, Sakaguchi Y, Matsui I, Nakamoto K, Sera F, Hikoso S, Nishino M, Sakata Y, Isaka Y.

 

近年、心不全の診断、治療法は大きく進歩しました。それにも関わらず、心不全は未だ死亡や合併症の主因であり、患者数の増加も相まって、医療経済への負荷は膨らむ一方となっています。特にこのような状況下においては、心不全患者のリスク分類を適切に行い、個々の患者のリスクに応じて医療資源を適切に分配することが求められています。

BNP、NT-proBNPなどのNa利尿ペプチド(NPs)は、心不全における強力な予後予測因子として今日、リスク分類に頻用されています。しかしながらNPsには、測定費用が高価である、腎機能低下例では測定結果が腎機能の影響を大きく受ける、などの欠点があります。

そこで我々は、安価に測定が可能なeGFRに注目し、心不全患者の外来でのeGFRの変動が、心不全の新たな予後予測因子たり得るかを検討すべく、多施設前向きコホート研究を行いました。当院、および大阪労災病院にて心不全の入院加療を受けた後に退院された564名を対象とし、無作為にDerivationコホート(376名)、Validationコホート(188名)の二つのコホートに割り当てました。退院後6か月間のeGFR値から患者個々のeGFR変動を算出し(図1)、6か月間のeGFR変動が6か月以降の心不全予後(全死亡および心不全入院、の複合アウトカム発症)を予測しうるかDerivationコホートを用いて検討しました。さらにValidationコホートを用いて、eGFR変動の心不全の予後予測能をBNPやeGFRのそれと比較しました。

図1. eGFR変動の定義

Derivationコホートの解析において、eGFR変動の高値は、全死亡および心不全入院の高リスクと関連しており(Kaplan-Meier法、Cox比例ハザードモデル)(図2)、eGFR変動は心不全予後を予測することが明らかになりました。

図2. eGFR変動(4分位)と全死亡・心不全入院との関連

次にValidationコホートを用いて、心不全の予後予測因子としての有用性をeGFR変動、BNP、eGFRの3つのバイオマーカーで比較しました。Derivationコホートで構築した、これら3変数を含まない多変量Cox比例ハザードモデルを、独立変数各々の回帰係数を固定の上でValidationコホートに適応させ、ベースの心不全予後予測モデルとしました。このベースのモデルに上記3変数を別々に加えた状態での予後予測モデルの精度(適合度、識別能、較正力)を比較しました。

結果、ベースのモデルに、eGFR変動を加えることで、予後予測の精度はいずれも有意に向上しました。向上の程度は、BNPやeGFRを加えた時よりも大きく、eGFR変動の心不全の予後予測因子としての有用性がBNPやeGFRを上回ることが示唆されました。また、BNPやeGFRが既に追加された予測モデルにeGFR変動を加えても、やはり予測の精度は有意に向上しました。このことは、日常診療において、既にBNPやeGFR値が評価された症例においても、eGFR変動を追加で評価することで、予後予測の向上が期待できることを意味します。さらに、腎機能低下例のみに解析対象を限定しても、eGFR変動の予後予測能はBNPやeGFRに勝っていました。特に腎機能低下例に心不全の予後予測を行うに当たっては、BNPには先述の懸念がある為、より安価に評価が可能なeGFR変動が将来的にBNPに取って替わるかもしれません。

本研究によって、心不全患者を診療する際に、外来での腎機能の変動に注意を払うことの重要性が明らかになりました。腎機能の変動が大きい心不全患者に対しては、予後不良の可能性が高いことを認識し、より慎重にフォローアップを行うことが望まれます。