進行した慢性腎臓病患者におけるアニオンギャップと心血管イベントの関連

Clin Kidney J. 2022; 15(5): 929-936. PMID: 35498899

Time-updated anion gap and cardiovascular events in advanced chronic kidney disease: a cohort study

Asahina Y, Sakaguchi Y, Kajimoto S, Hattori K, Doi Y, Oka T, Kaimori JY, Isaka Y

 

慢性腎臓病(CKD)患者の心血管イベントリスクは非常に高く、その一因として代謝性アシドーシスが挙げられます。しかし、重炭酸濃度と心血管アウトカムの関係を検証した過去の観察研究では一貫した結果が得られていません。これは高Cl性アシドーシスとアニオンギャップ(AG)アシドーシスを区別していないことが原因である可能性があります。特に後者で蓄積するリン酸や尿毒症物質は心血管系への毒性が基礎研究で示唆されていることから、心血管アウトカムとより密接に関連する可能性があります。

そこで本研究では代謝性アシドーシスのサブタイプと心血管アウトカムの関係を評価しました。

試験デザインは当院腎臓内科外来の保存期CKD患者1,168例を対象とした後ろ向きコホート研究です。代謝性アシドーシスとeGFRの時間依存性交絡に対処するため、marginal structural modelを用いた生存解析を行いました。

追跡期間3.2年(中央値)の間に132例が心血管イベントを発症しました。年齢、性別、既往歴、血液検査所見など様々な臨床的要因で調整したところ、高AGは心血管予後不良と関連しました。アルブミン、カリウム、リン、pHで補正したfull-adjusted AGを用いた場合も同様に高AGは心血管予後不良と関連しました (図1)。一方、高Cl性アシドーシスは心血管予後と有意な関連を示しませんでした(図1)。

図1 サブタイプ毎の代謝性アシドーシスと心血管予後の関連

興味深いことに、高AGと心血管予後不良の関連は重炭酸濃度とは独立していました。したがって、アルカリ療法によるアシデミアの是正のみでは、高AGの心血管予後への影響は十分に低下しない可能性があります。

一方、高Cl性アシドーシスは心血管予後と関連しませんでした。このことから、代謝性アシドーシスのサブタイプの鑑別という血液ガスデータの解釈の基本がCKD患者の心血管リスクの層別化や適切なマネジメントの構築に貢献するかもしれません。