肝臓によるリン捕捉および肝腎神経系を介したリン利尿亢進はリン恒常性維持に重要である

Sci Rep. 2023 Apr 8;13(1) :5794. doi: 10.1038/s41598-023-32856-2. PMID: 37031318

Hepatic phosphate uptake and subsequent nerve-mediated phosphaturia are crucial for phosphate homeostasis following portal vein passage of phosphate in rats.

Seiichi Yasuda, Kazunori Inoue, Isao Matsui, Ayumi Matsumoto, Yusuke Katsuma, Hiroki Okushima, Atsuhiro Imai, Yusuke Sakaguchi, Jun-ya Kaimori, Ryohei Yamamoto, Masayuki Mizui, and Yoshitaka Isaka

 

血清リン濃度高値は生命予後悪化と相関します。保存期腎不全では血中PTH, FGF23などが上昇してリン利尿を促進することが知られていますが、食後のリン利尿促進にこれらの因子は必ずしも必要ではありません (J Am Soc Nephrol. 2008; 19: 615-623)。このため、腸管から吸収されたリンを速やかに感知して尿中リン排泄を促進させる未知のリン感知機構が生体に存在すると考えられてきました。

腸管から吸収されたリンは門脈を通過し、肝臓を経て全身に至ります。我々はラットを無作為に 3 群に分け、リン酸 2 水素ナトリウム水溶液(以下“リン”と略)を下大静脈 (IVC 群) または門脈 (PV 群) より投与、塩化ナトリウム水溶液を門脈 (Ctrl 群) より投与しました。リン投与 5 分後、IVC 群では血清リン濃度が上昇しましたが、PV群では上昇しませんでした。またリン投与後 5 分間の尿中リン排泄量はリン負荷 2 群ともリン投与量に比べ極少量であったことから、投与 5 分間においてPV群は尿中リン排泄非依存性に血清リン濃度を維持する事が分かりました(図1)。

図1:PV群では尿リン排泄非依存性に血清リン濃度が維持された

32P を用いて同様の検討を行うと、投与 5 分後において PV 群の肝臓内 32P レベルは IVC 群と比べ有意に高く、肝部分切除術を行ったラットでは PV 群においてもリン投与 5 分後の血清リン濃度が上昇しました。これらの結果から、肝臓によるリン捕捉がリン投与後の血清リン濃度上昇抑制に重要である事が判明しました(図2)。

図2:肝臓によるリン捕捉が血清リン濃度維持に重要である

次に、リン投与 10 分後に腎近位尿細管における NaPi2a発現量および尿中リン排泄量を評価しました。腎近位尿細管管腔側の NaPi2a 発現はCtrl 群に比べPV群で減少し、尿中リン排泄量はPV 群で有意に増加しましたが(図3)、血中iPTH, FGF23, vitamin D 濃度は 2 群間に差を認めませんでした。

図3:リン投与10分後にはリン利尿が促進されたが、
既知のリン調節因子に変化は認められなかった

リン投与後、短時間でNaPi2aの局在が変化し、尿中リン排泄量が増加したため、NaPi2a を制御する因子として神経系に着目しました。肝門部除神経により、リン投与後のNaPi2a 発現低下は抑制され、尿中リン排泄量が低下しました(図4)。これらの実験結果により、門脈を通過したリンは肝門部神経を介した神経伝達により腎近位尿細管管腔側のNaPi2a発現を減少させることが判明しました。すなわち未知のリン利尿因子は肝・腎神経系伝達であることが分かりました。

図4:肝門部除神経により、リン投与後のNaPi2a発現低下が抑制され
リン利尿も抑制された