リンが引き起こす腎障害への内因性対抗メカニズム ― 脂肪酸代謝の活性化 ―
Am J Physiol Renal Physiol. 2024 Jun 13. doi: 10.1152/ajprenal.00046.2024. PMID 38870264
Endogenous activation of peroxisome proliferator-activated receptor alpha in proximal tubule cells in counteracting phosphate toxicity.
Yusuke Katsuma, Isao Matsui, Ayumi Matsumoto, Hiroki Okushima, Atsuhiro Imai, Yusuke Sakaguchi, Takeshi Yamamoto, Masayuki Mizui, Shohei Uchinomiya, Hisakazu Kato, Akio Ojida, Seiji Takashima, Kazunori Inoue, and Yoshitaka Isaka
加工食品や食品添加物等の摂取量増加により、現代人はリン過剰摂取を引き起こしやすくなっています。リン過剰摂取は主なリン排泄経路である腎臓の負荷となり、腎尿細管間質線維化を引き起こす可能性が示されています。しかしながらリンは必須のミネラルかつ日常的に摂取される物質です。我々は日常的にリン負荷に晒される腎臓がリン毒性への対抗機序を持っていなければ、生涯にわたる腎機能維持が困難になるのではないかと考えました。
野生型 (WT) マウスを正リン群・高リン群(各0.83%、3.0%リン給餌)に分け、高リン群でリン負荷ストレスの代償期、すなわち尿細管間質線維化が生じる前段階において腎構成細胞に生じる変化をSingle cell RNA-sequencing 解析で検討しました。その結果、高リン群の近位尿細管細胞(PTECs)クラスターにおいてperoxisome proliferator-activated receptor alpha (PPAR-α)/脂肪酸β酸化 (FAO)経路の活性化が示唆されました。また、免疫織染色では高リン群の腎臓においてPPAR-αやFAOの律速酵素であるCPT1Aの発現が上昇していました。またFAO活性蛍光指示薬を使用して評価したところ、高リン群の腎臓PTECsにおいてFAOが活性化することが確認できました(図1)。
図1: 高リン群では近位尿細管のPPAR-α/FAO経路が活性化する
Ppara ノックアウト(KO)マウスを使用した検討において、リン負荷されたKOマウスはリン負荷されたWTマウスに比べて尿細管間質線維化が増悪しました。これらの結果から、リン負荷により誘導されたPTECsのPPAR-α経路/FAOの活性化はリン負荷による腎毒性を軽減していることが示されました(図2)。
図2: Ppara KOマウスの腎臓は高リン毒性に対して脆弱性を示す
培養PTECsを用いた実験では、培地のリン濃度を正リン・高リンの2群、さらにFAO阻害剤であるエトモキシルの添加の有無により計4群に分け、高リンとFAOの関係について検討しました。その結果、高リン群ではエトモキシル添加によりOCRが有意に抑制され、高リン条件下においてPTECsがFAOへの依存度を高めることが示されました(図3)。
図3: 近位尿細管細胞は高リン環境下で脂肪酸β酸化への依存度を増加させる
本研究は、リン負荷にさらされた腎臓が単に傷害されるだけではなく、PPAR-αの内因性活性化を介したリン毒性に対抗するメカニズムも活性化することを実証しました。