ネットによる公開討論会”独創的研究とは”

平成12年9月8日ー12月31日(開催期間延長しました)

参加者:研究の専門領域を問いません。学部学生、大学院生、一般の研究者など、学問研究に従事しておられる全ての方。若い方の積極的な参加を期待しています。免疫学会会員以外の方からの参加も大いに歓迎いたします。

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14)深田俊幸、Cold Spring Harbor Lab. New York、「“独創的研究とは何か”を語る前に」、(2000/11/02)

 

“独創的研究とは何か”このテーマについて私自身の考えを述べる前に、私が最近とても共感した書籍「若い研究者のために」の内容について紹介したいと思います。この本は、私が留学の際に内藤祈念科学振興財団から頂いたもので高名な先生方による若い研究者へのメッセージが綴られており、その中には今回のテーマについての解答のヒントが数多く存在すると思われるからであります。私は海外生活が始まる前に特にこの本を精読し、さらに現在に至る留学中に何度も読み返し、その中で独創的、創造的をキーワードに共感し心に響いた文章にはアンダーラインを引きました。この本は非売品でありますので、皆様にも紹介するに値するものと考えます。では「独創的研究とは何か」について、私がその解答へのヒントになり得ると感じた箇所について、自ら設定したテーマ別に御紹介したいと思います。

研究生活を始める前に

「一生の専門とするテーマを決める時、一生の伴侶となる結婚の相手を選ぶ時、打算的にならず、夢が大きな動機となることが良く、そうすれば後で悔やむこともない。研究するときでも同様である。机に向かって先人の輝かしい業績を読み、感嘆ばかりしていては創造的研究にはつながらない。」 山村雄一先生

「自然科学の研究という人間の営みは、自然と人間との対話であるが、自然は消して自ら自分を語ろうとはしない。人間の問いかけによって、はじめてこたえるものである。自然の神秘は人間からの根強い問いかけに次々に語り出されるものであって、人間の知的欲求が続く限りけしてこれで終わりということはないのである。」赤堀四郎先生

研究生活の中で

「第一に初めの動機を忘れないこと、第二に自分しかできないことを選ぶこと。第三になんとか屋にならないこと。第四に日本人であることを過度に意識しないこと。第五に競争をさけないこと。第六に対決を恐れないこと。第七に全力を30代に出すこと。第八に自分と同じスタイルで研究している人以外を馬鹿だと思わないこと。第九によく眠ること。眠らないと脳は働かない。以上が30代の邁進を始める前の人に、無我夢中になる前に言っておきたいことである。」伊藤正男先生

研究と流行

「流行になっているテーマは誰かが重要にしたのであって、誰かが重要にしてくれた舞台の上で、一見華やかな踊りをまっていても空しいことではないか。それは良い意味でアンビシャスな若い研究者のすべきことではない。」佐藤了先生

「世の中には立派な柱をうち立てる研究者と、その柱の間に営々と一個の煉瓦を積む研究者とがある。若い研究者は柱を高く立てる志を持つべきである。しかし、煉瓦を積む努力も失ってはならない。柱はなるほど家の形を決めるが、煉瓦がなければ家はできない。」菊池浩吉先生

独創的な研究者に適した個性;

「McConnell は自分の研究室ではセミナーをやらない。しかし、化学教室や医学部などでのセミナーには熱心に赴き、criticalな質問をする。彼は毎日部屋に入ってきて実験や研究のことを話すと、一生懸命になって考え、新しい問題を思案する。セミナーをやるよりも、オリジナルな研究に興味を持っていたのである。そもそも日本での教育には個性を尊重しない面があるが、研究者にとっては個性は素晴らしい資質である。」大西俊一先生

「私の尊敬する立派な科学者は、総じて「自己評価がしっかりしている。常に問題を意識している。旺盛な好奇心をもっている。容易に淋しがらない。手抜きの許される所を心得ている。情報収集、領域外研究者との交流など研究上の運動能力が高い。時には仕事の手を休めじっくり考え、また遊ぶ」人たちである。」 江口吾朗先生

「実験を重ねていくうちに、思ってもみない結果が出てくることがある。これを予想に会わないからといって捨ててしまうと、大魚を逃すことになることがある。自然は奥深いので、予想が当たらない場合はむしろ新事実が顔を覗かせたのだと喜ぶべきである。常識を疑うということは、科学者にとっては大事なことである。」三浦謹一郎先生

「実験室に入ったら先入観や教科書の知識を忘れて、自分の立てた実験計画やあおれから予測される結果に固執することなく、自然から学ぼうという謙虚な考え方を持つことが大切であります。」早石修先生

「どうも秀才は、自然を相手にするよりは、そばにいる先生の顔色の方に気を取られるらしい。お手本になる近縁の仕事を探し求め、自分でレールを敷いて新天地を走ろうとはしない。未知へ挑戦する自然科学には、そんなことは、末梢である。そういう様式化され、縦割に区分された既知の知見を、いかにして交叉させるか、未知をいかにしてそういう既知にもち来すか。そういう努力が得点になるのである。」水野伝一先生

研究における「偶然」と「運」について;

「何事も運、不運と言ってしまえばそれまでであるが、運をつかまえるにはそれだけの力と心の余裕が必要で、力のないものには運はつかみ得ないのである。」宇野豊三先生

「偉大な発見が偶然の動機で生まれたとはいえ、発見物語をよく調べると、そこには必ず研究者の心の準備と非凡な個性があることに気付く。」芝哲夫先生

「大切なことは実験中に得られ意外な結果に注目することである。最もいけないことは、頭の中の先入主に災いされて思いがけない結果を何らかの誤りであろうと考え、捨ててしまうことである。」井村裕夫先生

研究と国際感覚;

「日本では組織や学位の種類によって研究者も理、工、農、医に大別される傾向が強いのですが、これは多分に日本の特殊事情であって、例えば学位も海外の多くの国では基礎科学についてはPh.D.一つであることも注意すべきでしょう。」小谷正雄先生

「日本の学生は比較的良い子で上の人の言うことを率直に聞き、テーマの範囲内では優等生である。反骨精神を強調しすぎて派手に逆らうと、村八分にされるのを恐れているのかもしれない。教授が代わったり、自分が外へ出ていった時に見よう見まねの研究しかできなくなるのは、研究室までに入り込んでいる日本的規制の概念で独創性を養う芽がすでに摘み取られてしまっているからと考えるのは間違いであろうか。」中島てるみ先生

研究を発展させるためには;

「ショウジョウバエ遺伝学の恩師、今井喜孝先生は「自分はまず10歩前進する。たとえ後に9歩退くことがあろうとも、最初から1歩だけ踏み出したよりは進歩があると思う。」と言われた。」森脇大五郎先生

「エールリッヒは研究を成功させるためには、ドイツ語で4Gすなわち研究資金(Geld)、忍耐(Geduld)、技能(Geschilk)、そして幸運(Gluck)が必要であると述べている。」水之江公英先生

研究者としての責任;

「佐藤忠雄教授は、「世に“者”が付く職業が三種ある。医者と学者と芸者だ。この三者はお座敷がかからねば一人前ではありません。お座敷がかかったらたとえ悪条件でも出向き、必ず新しい仕事を手掛けなさい。」と言われた。」江口吾朗先生

独創性を得るためには;

「予想と異なっても同じ結果が繰り返し得られた場合には、そこには何か予測しなかった重要な真理がひそんでいると考えるべきである。その未知の真理を見つけ出すことができれば、そこに一つの独創的研究が生まれる。そして、その影響はその近縁の専門分野に大きく及ぶことさえある。そして、遂に前人未踏の新分野を開拓することもできるであろう。」赤堀四郎先生

 

最後に中島てるみ先生の言葉を紹介したいと思います。

「世の中、独創的とか萌芽的という言葉が容易につかわれているが、これらは他から言われる言葉であって自画自賛的に使うべき言葉では断じてない。」

 

「独創的研究」とは結果論であり、最初からそれを目指す研究者は少ないのではないでしょうか。前述の先生方のヒントをもとにテーマの解答を探すとしますと、「独創的研究」の題材は結構身近にあり、普段「そんなのあたりまえ(常識)じゃないか」と多くの方々が言及している現象にこそ、独創性のスタートラインがあるような気が致します。「人のまねをけしてしないこと」「他の研究者の結果をあたかも自分独自の研究結果のように取り込まないこと」「ささいな現象を見逃さないこと」。それが後に(いつのまにか)「とても独創的な研究ですね」と他の研究者から指摘されることになる最低限の原則であると思います。私はまだ研究を始めて間もないのですが、先述した先生方のような個性を十分発揮した研究者を目指すべく努力したいと思います。


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