11〕平野俊夫、雑感---日本の研究は世界にいかほどのインパクトを与えたか?(2000/10/07)
最近アメリカの科学情報会社のISI社が過去18年間 (1981-1998)に、High-Impact Paperを少なくとも12論文発表した日本の研究者30人を発表した(引用最高栄誉賞)(平成12年10月3日、日本経済新聞朝刊)。ISI社の説明によると、まず研究分野間の引用件数の格差を除外するために、数学、天文学、免疫学、分子生物学、などすべての研究分野を22に分類し、各分野ごとに1981年以来、各年ごとに発表された論文の中から、発表年度より1999年度までの被引用回数の合計が世界でトップ200番以内に入る論文を、その年の、その分野におけるHigh-Impact Paperと定義する。このようにして、1981年に発表された全論文から各分野ごとに200の論文を選んだ。同様に 1982年、1983年------1998年までに発表された論文から毎年、各分野ごとに200の論文を選んだ。 1998年に発表された論文は翌年の1999年までに引用された回数で順位をつける。この結果、例えば免疫学の分野では18年間で200X18=3600の論文が選ばれた。すべての分野では3600X22=79200の論文が選ばれた。この中から重複している論文を除外した結果、最終的に最多被引用の上位論文(High-Impact Paper)数は76998となった。この中から日本人が日本の研究所から貢献した論文を選んだところ2992論文(3.9%)あった。さらに過去18年間に少なくとも12以上のこのようなHigh-Impact Paperに貢献した日本人を探したところ全分野で30人いた。分野別のうちわけは、生命科学が18人、材料系は7人、化学は1人、天文学は2人、環境化学は2人だった。詳細はここをクリックして下さい。
この事実からいくつかのことが言えると思います。まず生命科学分野がいちばん多かった点は、過去20年間に免疫学や分子生物学が急速なる進歩を遂げたことと一致します。日本人が日本の研究所から貢献した論文の比率、3.9%を多いと見るか、少ないと見るか、あるいは妥当な線と見るか? ちなみに、朝日新聞によると、日本からの総論文数の世界での比率は10%だそうです。一概に被引用数が多い論文が優れた論文であるとは必ずしも言えないとしても、少なくともその分野において国際的に一定の影響(インパクト)を与えた論文であると考えれば、日本人の論文は数の割にはインパクトが高くないと言えるかもしえません。日本人の論文は、欧米から同様な質で、内容が同じ論文が同時期に発表されたときに、国際社会で、どちらかというと無視される傾向にあるという印象を抱いておられる方も多々あるかとは思いますが、この点を考慮に入れても、日本からはインパクトの高い論文はあまり出ていないのではないか、いいかえれば、日本からは独創的な研究はあまり出ていない(出ていなかった)のではないかと考えさせられてしまいます。10月4日の朝日新聞朝刊の天声人語に、数多く引用される論文に関してのコメントがありました。ここでは、日本人30名中、High-Impact Paperの数で、第3位にランクされた中村修二氏に関するエピソードが紹介されていました。吉村氏もJSI NewsLetter15号で解説されていたように、中村氏は年に360日出社し、人とほとんど口をきかず、たった1人、変人扱いされながら研究を続けたこと、ほとんど可能性なしとされていた原材料に着目したこと、他人の論文をほとんど読まなかったこと等が紹介されています。“他人の論文を読めばどうしても、ものまねになる。自分の頭でじっくりものごとの本質を考えることが大切である“という氏の言葉も紹介されています。私は研究室のモットーとして”夢見て行い考えて祈る“という故山村雄一先生の言葉を掲げています。この言葉には色々の意味が込められていますが、私が研究室のメンバーによく言うことで、一つ重要なことは、中村氏の言葉に通じるものがあります。山村先生のことばにはその順番に重要な意味がある、すなわち研究の順序として、”考えて、行い、夢見て、祈る“ではダメであるという点です。あまりにも多くの論文を読んで考えすぎると、また、すでに世に発表されている論文に基づいて実験計画をたてると、世の中の多くの研究者が考えている以上のことは出来ない。まず夢(目的)をもって自分の考えで実験を行う、そして、その結果出てきた答えを、カードの裏から出てきた事実をよく分析し、そしてよくよく考える、あるいは世の中の論文の記載と照らし合わせる。この過程によって、はじめて、その研究者固有の研究成果をあげることが出来るのでではないかと言う点が、中村氏の言葉と重なりあう。
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